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Bonnieの小部屋

BLオリジナル小説サイトです。芸能界ものをシリーズで連載しています。

PERFECT BLUE 27-05

4幕-27:誇れる自分

そして、疑問符だらけの顔で眉を寄せながら首を傾げる町田に対し、重ねて問う。

「お前は、あれからちゃんと考えたか?」
「……諏訪と、宇賀の言葉の意味だろ?考えたよ」
「それで、理由が分かった?」
「考えるも何も、言われなくたって、俺が臆病でバカなのは分かってる。俺が強引なことしたから、アイツが出て行くような結果を招いたんだ」
「ぜんぜん分かってねぇじゃん」

ったく。溜め息混じりに呟いて、榊は足を組みなおした。すでに混乱状態の町田に、叱るような厳しい瞳を投げかける。

「お前はどこまで盲目的なんだ」
「……え?」
「アイツの一番傍で、一番理解してやれてるのはお前のはずだろ。だったら、アイツが何を求めているのか、誰を愛しているのか、何で考えようとしないんだ」
「してるだろ」
「してないよ。お前は逃げてるだけ。
アイツに、何か言葉をあげたか?"愛なんていらない、そんなもの必要ない"って、本気でアイツがそう思ってたと思う?思わないよな。アイツは、恐れてただけなんだよ。愛を知らずに育ってきたから、愛されるのが恐かったんだ。そんなのお前が一番分かってるだろ?そんなアイツに、お前は自分の気持ち伝えたか?きちんと言葉で、アイツが分かるまで伝えた?」
「それは……」
「してないよな。してたらこんなことにはならなかった」
「でもそれは、アイツが望んでいなかったことだと…」
「それが盲目的だっつってんだよ」

町田の言い訳に対して少々食い気味で、榊はバッサリと切りつけてやった。
本来は頭の回転が速くて気遣いもできて堂々としている、賢くて強くて器用な町田だが、肝心なところで酷く不器用で弱気になる。それが町田の"人間味"というやつで魅力でもあるのだが、この件についてはそこは邪魔なだけなのだと、榊は断言した。いつもの"強気の町田祥"を取り戻せというように。

「いいか?よく考えろ。智司が、諏訪という男のどこに惹かれたのか。彼の何を求めていたのか……」
「そんなの、たくさんある」
「たとえば?」
「諏訪は真っ直ぐで、意志が強くて、俺が怖くて出来なかったことも出来るヤツだ」

皆藤が頑なに守り通していた殻を、破ったのは諏訪だ。現状維持することしか、自分だけが分かっていてやればいいという妥協しか出来なかった自分と違って、諏訪はそれが間違いであると突きつけて、正した。そういう人間だから。だから、皆藤は諏訪に心を開き、きっと惹かれていったのだ。諏訪の愛情に、応えたのだ。町田はそう理解している。

「お前は、自分が怖がるだけで何もしなかったから、だから智司は諏訪君を愛したと思ってるんだな?」
「他に考えられるか?」

言っていて空しくなって、町田はまた目を伏せた。自分の弱さのせいで、皆藤の気持ちを繋ぎ止めることが出来なかった。それを痛感したのだ。
すると、その頭に、バチンと大きな衝撃が走った。それが、榊が自分を叩いたのだと気付くのに、少し時間がかかった。

「功輔……?」

視線を上げた町田が見たのは、榊の怒ったような瞳。

「智司が愛を求めてるのは、お前も分かるよな」
「………」

呆然としたまま、町田はそれでも頷く。諏訪と出会って、皆藤が愛を求めるようになったのは分かるから。

「ならそれが、アイツが諏訪君を愛したからじゃなくて、昔から本当は求めてたものだってことも」
「ああ……分かるよ」
「じゃあ何でお前は、気付いてやれなかったんだ?」
「……え?」
「お前も智司も、愛ってもんを受けずに育った。愛を知らずに育った。でもお前は、智司と出逢ってそれを知ったんだろ?だったら、アイツにも教えてやろうって、恐れずに愛を告げようって思わなかったのか?」
「………」
「智司が諏訪君を求めたのは、お前が言うように彼が真っ直ぐな人間だからだ。智司に真っ直ぐ愛情を突きつけて、言葉を与えて、どんな時でも愛情を隠さずに与えたからだ。本来ならお前がとっくにしているべきだったことを、彼がしただけだ」

今まで町田の話から諏訪のことを聞いて、先日実際に本人の姿を見て、榊はそう思ったのだ。諏訪はいつでも正直だ。そして、皆藤にストレートに愛をぶつける。だから皆藤は、彼の温もりに安らぐ自分に気付き、そして本当は自分が愛を求めていたことを知ったのだろうと。

「不器用なら不器用なりに、自分の気持ちを告げるべきだったんだよ、祥」

町田は怖がってばかりで、皆藤が求めていたものに気付かなかっただけなのだと榊は断言した。

「智司が求めたのは、愛と、温もりと、そして言葉。本当に愛してるなら言葉はいらないなんて言うヤツがいるけど、俺はそうは思わない。態度だけじゃ足りないときはある。ましてや智司みたいに、母親が恋愛に依存して心を病んでいくような姿を見てきたような奴には、それが必要なんだ。諏訪君は、それを実行したまでだよ。必要すぎるぐらいに愛して、たくさんの言葉をあげて、温めてあげたんだろう。だから智司も気付けたんだ」

町田にはもう分かっているかもしれないと思いながらも、榊は最後まで言い切った。
皆藤が愛を求めていないからと、自分との関係にそれを求めていないからと、自分の愛情を誤魔化してきた町田の弱さが、2人の間に見えないラインを引いてしまっていた。榊にはそう思える。
皆藤を失いたくないがために、勇気を押し殺した。我慢してしまった。皆藤に何も言えなかった。皆藤の心を逆に頑なにしてしまった―――そんな悪循環の結果、皆藤は諏訪へと気持ちを揺らいでしまったのだろうと。

町田は、しばらく呆然としていた。
榊の言葉は、あまりにも衝撃的で、しかしとても正論だった。
愛を受けずに育った自分には、初めて愛した皆藤に対してどうしていいか分からなかった。自分たちのそういった関係の始まりがただの快楽目的だったということもあって、今更言えるわけがないとも思っていた。そもそも、関係の言い出しっぺは自分なのだから。
しかし、それは言い訳にしかすぎない、そこにようやく町田は気付いた。今更遅い、ということを理由に、自分は逃げていただけなのだ。皆藤の心の憶測に眠る本当の姿を、引き出す大きなチャンスだったのに。

―――俺は……最初から、しくじってたのか

大きな溜め息と共に、町田は思わず顔を覆ってしまった。
諏訪や宇賀とライバルとして張り合うまでもない、自分は最初から、土俵にすら上がれていなかったのだ。

「祥……」

榊の手が伸びてきて、そっと腕に触れられる。

「アイツを拾ってからの5年半以上もの間、お前は本当によくやってるよ。日を追うごとに智司がどんどん笑うようになって、生き生きとしていって。アイツのそういう姿を見て、俺はお前のこと純粋にすごいと思った。どんな苦労だって全部笑顔でやってのけるお前を、マジで尊敬したよ。だから智司だって、たとえ心を閉ざしてからも、お前だけには心を開いていたんだと思う。お前だけのことは大事にしていたんだと思う。
だけどな、お前は1つだけ失敗した。愛っていうものに臆病になってたこと。それが唯一の、そして最大の失敗」

榊の言葉が、町田の心に深く刺さってくる。
自分は、皆藤の何を見てきたのだろうか。本当の彼が望んでいること、誰よりも自分が分かってやらなければいけなかったのに……一番肝心なことにも気付かず、皆藤のことなら何でも分かっていると思っていた。

『アンタが怖気づいたりするから…だから、肝心なところで見逃すんですよ』
『何で…分かってあげなかったんだよ。
アンタがそのまんまじゃ、誰も幸せになれないよ』

諏訪と宇賀の言葉を思い出す。彼らが町田よりも早く気付いたのだということを象徴する、その言葉。
だが。
いや、待て……と。町田は、大きな問題が残っていることに気付いた。

「でもさ、功輔」
「何。まだ反論する気か?」
「違う、そうじゃなくて……お前が言ってることも、諏訪や宇賀が言ってることも、一番重要な問題が欠けてるだろ」
「……ん?」
「智司の気持ちだよ……」

そう。自分がどんなに愛の言葉をかけても、真っ直ぐ怖がらずに愛を投げかけても、皆藤が自分を愛していなければ彼は受け止めることが出来ないだろう。結局、また苦しむはずだ。自分の愛を受け止められず、皆藤はまた悩んで、苦しんでしまうだろう。

「だからバカだっつってんだよ」

そこまで言っててまだ分からない?と、榊は呆れたような溜め息をつきながら苦笑した。

「あのなぁ、俺さっき訊いたろ?何で智司がお前を必要以上に避けるのかって。諏訪にも宇賀にも戸惑っていたけど、何よりもアイツはお前に対して戸惑い、後ろめたさを感じてる。それが何でか分かるかよ」
「……え…何で、って……」
「それと、お前自分で言ったじゃん。アイツが、自分の気持ちと向き合うのが怖くてお前から逃げた、って言ったって」
「言ったけど……」
「じゃあ考えろ。アイツが向き合うのを恐れた"自分の気持ち"。それが、お前から逃げたこととどう繋がるか。それと、今どうしてアイツがあれほどまでにお前を避けるのか」

もう誰もが、どうすることが最善なのか分かり始めている。一番分かってないのは、町田なのだと。榊は、そんな意味を込めてそう助言した。
そして、難しい顔をして考え込んでしまった町田の髪を軽くかき混ぜると、榊は立ち上がる。

「点滴が終わる頃、たぶん看護師が来るよ。それからもう一度診察してもらって終わりだ。あと30~40分ぐらいかな。そしたらそのまま帰っていいよ。支払いは、後日でいいから。会計にもそう伝えてある。それと、智司なら救急外来の待合室にいるからな。置いて帰るなよ?」
「あ、功輔…」
「あと、川口教授がさっき様子見に来てくれてたんだけど、どうしても眠れないなら薬使ってでも寝た方がいいから、1週間以内に状況が変わらなければウチの科を受診しろって。その件については俺が実際に様子見に行って判断するって伝えてあるから、誤魔化せないと思えよ。
それと、さっきお前が言ってた、智司を村山さんか俺のところに、っていうのは、今戻りがてら本人に訊いておくよ。お前は言いづらいだろ?」

用件を早口で言うと、榊は処置室を出て行った。時間はとっくに勤務開始時間を過ぎている。川口の計らいで2人の対応をさせてもらっているが、さすがに戻れなければと。

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