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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
3幕-20:勝負の時

PERFECT BLUE 20-01

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【20:勝負の時】

[1]

「トミー、おはよ」

朝席に着くなり、木下は笑顔で声をかけた。

「おはよ」

壁に背をつけて椅子に座っていた富永も、笑顔で顔を向けてくる。
だが、それは何となく淋しそうで。

「大丈夫か?」

富永が元気のない理由を木下は知っているため、心配になって訊ねてみる。
すると富永は、ニッコリと笑って頷いた。

「ありがとう。大丈夫だよ」

2人が話しているのは、富永のギターのことだ。
先週の土曜日、友達のバンドのライブに助っ人としてまた参加した富永だが、控え室に何者かが侵入して荒らされた。その時、富永のギターも盗まれてしまったのだ。
バイトのお金を貯めて初めて自分で買ったそれは、富永にとって宝物で、ずっと愛用していたものだった。本格的に音楽を目指している富永にとって自前のギターは命のようなものだし、高価なものだから、無くなったからといってすぐに買えるわけでもない。しばらく彼は、ギターを弾くことができないのだ。もちろん軽音楽部の部室に行けばあるが、共用のものだから弾ける時間など限られてしまう。
土曜日のライブには、やはり2年F組の殆どが観に来ていた。しかしそんな事態でいくつかのバンドは出演キャンセルになり、富永も出ることが出来ずにみんなの前に現れてその事実を告げたのだ。
それでもこうして元気に振る舞う富永だが、相当のショックを受けていることは誰もが分かっている。しかしどうする事も出来ないのが現状でもあった。

「俺のギター、しばらく貸すか?」

唯一このクラスでギターを持っている木下は、せめてもの繋ぎになればと申し出てみる。
だが富永はゆっくりと首を横に振った。

「いいよ、来人だって使うでしょ」
「俺は、気が向いたら弾いてるぐらいだから。トミーはライブとかでも使うじゃん。練習あるんだろ?貸すよ」
「ん~、でも壊したらヤバいし」
「気にすんなって。壊れたって何の未練もない安物ギターだからさ。な?」

ポンっと肩を叩き、木下は爽やかな王子スマイルを見せた。音楽の道を真っ直ぐに見つめる富永の姿はとても輝いていて、同じギターを愛する身として誇らしくもある。だから何とか力になってあげたいと思ったのだ。

「……う~ん…確かに、無いとまずいことはまずいんだけど…」
「よし。じゃあ明日持ってくるからな」

いざとなったら譲ってやるぐらいの勢いで、木下は富永の頭をぐりぐりと撫でる。少しでいいから元気を出してくれたら、と。
そんな木下を石原が振り返り、ニッコリと笑っていた。





「じゃあこれから、来週のバスケ大会の話し合いをするから」

授業を早目にきりあげて、諏訪は手にしていたプリントを配った。富永と木下も、前に出る。
妹尾学園恒例の、クラス対抗バスケットボール大会。優勝したクラスには、5万円分の商品券が与えられる。2年F組は去年、1年生ながらに健闘はしたものの準決勝で敗北した。

「やっぱ今年は、優勝でしょ」

プリントを眺めながら、秋本が開口一番に声を発する。

「そりゃそうだよ。でさ、賞金でパーッと焼肉でも行こうよ」
「この人数で焼き肉って、5万じゃ腹一杯食えなくない?カラオケとかどう?」
「地味すぎだって王子」

武藤をつっこんだはずの木下の発言に、アハハと秋本が笑った。木下も、あまりにも地味な発言に気付いて“そりゃそうか”というように笑う。
商品券の使い道で盛り上がりはじめた生徒たちに、たまらず諏訪は割って入った。

「お前らね~、優勝してからのこと考える前に、練習のこと考えようよ」

苦笑しながら、プリントをヒラヒラと見せる

「いいか?優勝して5万だぞ?5万で優勝じゃないんだからな?」
「ハハ。諏訪ちゃん、上手いっ!」

諏訪の言い回しに桜沢が笑い、やっと話し合いがスタートした。
もちろん皆藤は、聞いているのかいないのか、ポケットに手をつっこんだままでその光景を眺めている。
練習日やバスケ経験者や得意な人間の話などでまたもや盛り上がる生徒たちの会話の中で、ふと谷原は何かに気付いた。



「あのさ……」

放課後、ホームルームを終え、富永がクラスのバスケ練習のために使う体育館の使用許可書を早速出しに行った後、頃合いを見計らったかのように谷原がそっと手を上げた。
帰ろうかと席を立った生徒たちが振り返る。自分の席で本を読んでいた皆藤も、チラリと目を向けた。教卓で武藤たちと雑談をしていた諏訪も顔を上げた。

「どうした?谷原」
「ちょっと、いいですか?」
「うん。何、何か連絡事項でもある?」
「いや、そうじゃないんですけど……」

何か話したそうにしている谷原に気付いて、立っていた生徒たちが席に戻っていく。

「あの、バスケ大会のことなんだけどね。みんな、優勝してパーッと遊びたいって言ってる中で悪いかもしれないんだけどさ…」
「うん?何だよ、どうした?」

気弱とはいえいざというときには割りとハッキリと発言をする谷原が言い淀んでいるため、前の席の武藤が不思議そうに覗き込んでくる。

「俺考えたんだけど、優勝して、トミーにギターあげるっていうのじゃ、ダメかな」
「え?」

数名の生徒が、同時にそう声を発した。声を出していない生徒も、驚いて目を丸くする。皆藤も、片眉をヒョイとあげて本を閉じた。

「みんなも知ってると思うけど、トミーさ、ずっと大事にしてたギター盗まれて、すごい落ち込んでるだろ?何とかしてあげたいんだよね……」

中学生の頃からの友人である谷原にとって、平静を装おう富永の心の中は痛い程分かっている。せっかく音楽の道を見つめ直した彼を何とかしてあげたいと、土曜日の一件からずっと考えていたのだ。
しかし、ギターのような高価なものは、自分では何もしてあげられない。だから、優勝して5万の商品券を貰ったら、富永にプレゼントできると思ったのだ。

「ギターの相場なんて素人の俺にはよくわからないけど、5万あれば、高価ではなくてもそれなりのは買えると思うんだ。トミーが今まで使ってたやつも、確かそんぐらいだったはずだし。だから……」

シンと静まり返ってしまった教室内に気まずくなったのか、谷原は語尾が小さくなっていく。
諏訪は、そんな生徒たちの反応を黙って見つめていた。

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