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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
3幕-21:敗者の決意

PERFECT BLUE 21-01

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【21:敗者の決意】

加速度を増し、僕らは急速に離れていく……

[1]

皆藤は、いつもとは違う感覚で目が覚めた。
そして、自分が見知らぬベッドの上で目が覚めたことに気づく。いつも朝に自分が居る、町田の部屋でも自分の部屋でもない、別の誰かのベッドだと。

「……」

まだ覚醒していない頭で布団から起き上がり、そして自分が着ている服も見慣れないものだと気付いた。
見覚えのある部屋。自分が幾度も訪れたその部屋。それが諏訪の部屋だと気づくと、皆藤は昨日自分がここに泊まったことをようやく思い出した。町田と出逢ってからは外泊などしたことなかった自分が、初めて誰かの部屋に泊まったことを。
昨日、諏訪は皆藤を部屋に入れると、風呂に入らせて服を貸してくれた。それから彼の作った夕飯を食べて、何となくついていたテレビをぼんやりと観て、そして彼に抱きしめられながら眠った。夜になればなるほど顔が見るからに疲れていったらしき皆藤に、諏訪は一度も手を出すことなく。そんな、昨夜のどうってことのない出来事を、皆藤はすべて思い出した。
すると、小さく遠慮がちなノック音が聞こえて。

「起きてるよ」

自分の家なのに気を遣う諏訪に皆藤は思わず笑いそうになりながら返事をすると、

「おお、起きたか」

静かにドアが開いて、諏訪が顔を出す。そして、皆藤が座るベッドにやって来た。

「おはよう、智司」

ベッドの端に座った諏訪が、優しく抱きしめる。

「ちょうど朝メシが出来たとこだからさ、食べよう」

唇に軽くキスをして、諏訪は皆藤をリビングに促した。




町田は、眠れないままに自室のベッドの上で朝を迎えていた。

『やっぱり先に帰る。今日は家には帰らない』

昨日の放課後に送られてきたメッセージどおり、皆藤は帰って来なかった。一緒に暮らし始めて以来、彼が入院していたときと少年院に居たとき以外では、初めて1人で迎える朝だ。
怖いほどに静まり返るリビングに入り、ソファに身を沈める。冷蔵庫の音も、暖房の音も、朝の小鳥のさえずりも、町田には全てが皆藤を自分から遠ざけているかのように感じてしまう。皆藤はもう、たった1人の相手を見つけたのだと……。
しかし、どうしても彼を手離すことは出来ない自分がいた。
諏訪ならば、きっと皆藤は幸せになれるかもしれないのに、一番大事な皆藤が幸せになれるのはとても嬉しいことなのに。それが自分じゃないという現実が、町田にはどうしても受け入れられなかった。
5年半も一緒に暮らしてきて、ずっと愛し続けてきた彼を他の男になんて手渡せない。たとえ相手が、信頼出来る諏訪であっても。意地でも、彼と自分との間を繋げておきたい。彼を抱き、愛を注ぐ男でありたい。それなのに……

―――何で、俺じゃないんだよ……

その答えは分かるようで、分からない。混乱と動揺に支配された町田の心には、何も分からなかった。
確かなことは、皆藤を想う気持ちは誰にも負けない自信があること。そして、諏訪が皆藤に変化を与えた人物で、そういう部分では自分は彼に敵わないということ。

いろんな思いが交差して混乱している頭を抱えながら、何気なく、町田は目の前のテーブルに目を向けた。
昨日の皆藤からの絶望的なメッセ―ジを見て以来ずっと見ることのなかった、ベッドのサイドテーブルにも置けずに無造作にダイニングテーブルに置いたままになっていたスマホ。それを久しぶりに手に取ると、ロック画面に表示されている【着信1件】の文字が目に止まった。

―――誰だ…?

ロック画面を解除して、着信履歴を開く。
そこには、"功輔"と表示がされていた。町田の横浜時代の不良仲間で親友の、榊功輔だ。どうやら、昨日の夜に掛けてきていたらしい。着信時間が"22時25分"と出ている。
今は誰とも話す気がないのだが、榊ならば仕方ないと思い、町田は折り返すことにした。数回のコールの後、プツリと音が切れ、榊が出る。

『あ、祥か?』
「おお。昨日、電話くれてたみたいだけど」
『うん。……今、そこに智司は居るのか?』

何とも間の悪い質問が、町田の耳に響く。今、一番訊かれたくないことだ。

「居ねえよ」
『何、怖い声して。ケンカか?』
「ちげーよ。お前ね、いっつも間が悪いんだよ」
『ちょっ…朝っぱらからケンカ越しかよ。俺に八つ当たりすんなってば』

間の悪いのは自分のせいではないのに、どうしてかいつも町田にそう言われ続けてきた榊は、やはり弱ったような声で笑った。自分の方が1つとはいえ年上なのに、どうも榊は、町田には主導権を握られてばかりいる。

「それより何」
『だから怖いってば。まあ、とりあえず真剣な話だからさ、機嫌直してくれない?』
「真剣な話?」
『ああ。智司のことなんだけどさ……』

とりあえず聞く耳をもった町田に、榊は、やっと本題に入った。




「今日は、調子どう?」

朝食を摂りながら、諏訪が皆藤に顔を向けた。

「おかげさまで回復した」

皆藤が、すんなりと返す。

「そ?良かった」

確かに昨日の疲労の色も消えいつもどおりの顔色になっている皆藤に諏訪も安心して、笑顔を見せた。
朝から笑顔が眩しい諏訪に呆れつつ、いつもの癖で煙草のケースを探した皆藤は、ここが家ではないことに気付いて手を止めて立ち上がった。そしてすぐ近くに掛けてある学ランに向かい、その胸ポケットから煙草を出す。

「おい、教師の目の前で何するつもりだよ」

座りながら煙草を咥えた皆藤を、諏訪が苦笑してつっこんだ。
だが、皆藤はそこで引き下がる人間ではない。

「ここでも、教師なの?」
「え?」
「学校の外でも、先生は俺の教師?」

さすがは頭の回転の早い皆藤だけに、諏訪を口ごもらせる言葉を吐いてくる。そして当然、諏訪は"やれやれ"と頭を掻いた。

「わーかったよ。でも、あんまり吸うなよ?」

未成年時代に居酒屋で友人たちと大騒ぎしたことのある諏訪は、ここでも皆藤に煙草を吸わせないのは躊躇われ、仕方なくそんな妥協じみた提案をする。しかし同時に、皆藤の"学校でも教師と生徒なのか"というような発言に対して、ふと気づいた。

「でも、お前もさ、学校の外でも俺のこと、大体は"先生"って呼ぶじゃん」

そう。皆藤が諏訪を"慎"と呼ぶことは、滅多にない。諏訪としては、本当はいつもそう呼んでほしいところだが。
すると、皆藤がすんなりと答えた。

「先生は先生だろ?あだ名みてぇなもんだよ」
「はぁ?分っかんないよ、お前」

皆藤にしか分からないような理論に眉をしかめ、諏訪は眉を下げて笑った。
そのまま諏訪は朝食を再開し、皆藤は朝食を再開する前に一服してからにしようと、箸を止めてプカプカと煙草を吸い始める。

「皆藤さえ良ければ、今日も泊まっていけば?今日は土曜だし、明日も休みなんだから」

灰皿もないままに煙草を吸いだした皆藤のために、自分がこの間飲んだビールの空き缶に水を入れて持ってきた諏訪が、そんな提案をする。
しかし、皆藤は首を横に振った。

「いや、今日は帰る。村山さんところの仕事、締切が近いんだ」

2年前の事件に関する不思議な縁で、グラフィックデザイナーの村山が勤める会社から依頼を受けた、写真素材提供の案件。今月中には提出しなければならない。

「あの会社も忙しいみたいだから、できるだけ早く提出してやりたいし」

そもそも、家では町田も待っている―――その言葉は、皆藤は呑み込んだ。
村山のところの仕事など、とっくに準備はできている。後は最終チェックして送るだけ。疲れた顔をした自分を心配していた町田を置いてきたことの方が、皆藤にとっては気がかりで、むしろそれが一番の、帰る理由なのだ。

「そうか。忙しいな」

諏訪も、皆藤の心の中の言葉には気づかず、頷いてそう答えた。

「まあでも、あんま無理すんなよ?」
「大丈夫だよ。昨日ゆっくり休めたし」
「ならよかった。いつでもまた来ればいい。棲み付いてくれたら大歓迎だし」

優しい瞳が、また皆藤を捉える。

「………」
「俺はいつだって、皆藤の傍に居たいしさ」
「……クサいよ」
「アハッ、でも本心だから仕方ねぇじゃん」
「もう少し、言葉考えるとかしないの?」
「素直な言葉の方が伝わりやすいだろ?」
「………」
「俺の気持ち、きちんと伝えたいから。遠回しな言葉は嫌なんだ」

すんなりとストレートに言葉を伝えてくる諏訪の声と瞳に、皆藤はまた苦しくなった。

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