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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
4幕-25:勝負師

PERFECT BLUE 25-02

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榊が車を走らせる中、2人の間に言葉はなかった。
沈黙が破られることがないまま車は病院に着き、黙々と歩く榊の後ろを町田が歩く。エレベーターを降ると、心療内科病棟のナースステーションが目の前に現れた。

「あら?榊先生…」

今日は非番のはずの榊がナースステーションにまた現れたため、その場にいた看護師数名が不思議そうな顔をする。そして、後ろにいる町田に気付くと、榊の表情を見比べながら何かを察したようだった。皆藤のことで来たのだと。

「こんにちは」

リーダーらしき看護師が近付いてきて、優しい笑みを見せる。町田も、彼女をはじめその場にいる看護師たちに軽く頭を下げた。

「もしかして、川口先生?」

町田に声をかけてきた看護師が、榊を見上げて小首を傾げる。

「はい。話は通してあるんですけど、今まだ回診中ですかね」
「どうかしら…、確かにさっき回診に行ったのよねー。ちょっと待ってね」

そう言って彼女は、PHSを出して電話を掛け出した。相手はすぐに出たようだった。

「あ、先生ですか?榊先生が…はい、お友達もいらしてます。あ、そうですか。分かりました」

電話に出たらしき川口と手短にそんな会話をして、電話を切る。そして再び顔を向けてきた。

「先生はお戻りのようなので、2人ともドクタールームに来て欲しいそうです」
「そうですか。ありがとうございます」

物腰やわらかな彼女に笑顔で礼を言い、榊は町田に"来い"というような視線を向けて歩き出した。町田も彼女にチョコンと頭を下げ、榊と歩き出した。

「婦長、いまの人、川口先生と榊先生が言ってた、例の人ですか?」

若い看護師が、"婦長"と呼ばれた彼女に近づき小声で訊ねてくる。

「たぶんね~」
「なんか、イメージと違いますね」
「そうねぇ。私も、もっと泥臭そうな子をイメージしてたけど…」

榊から聞いていたのは、19歳にして1人の人間を養う決意をして、必死で働いてきたということ。その話から勝手に彼女たちは、町田が長距離トラックの運転手やとび職でもやっているような、体格と活きの良い兄ちゃんなのだろうとイメージしていたようだった。

「まさかあんな、嘘みたいな美形が来るとは思わなかったわよ~」

人は見かけによらないのね、と婦長は後輩たちと顔を見合わせた。


ドクタールームでは、すでに川口がデスクの上にカルテを出して待っていた。
2人が現れると川口は榊に小さく頷き、それから町田に優しい笑みを見せる。

「はじめまして、川口です。君が町田君?」
「…あ、はい。町田祥です」
「な~んか、イメージと違ったなぁ」
「え?」
「いや、もっと体格良くて真っ黒に日焼けした兄ちゃん想像してたから」
「????」
「ま、いいや。とりあえず座って」

終始優しい笑顔と穏やかな口調で、川口は榊の席から椅子を引き、町田を促した。榊は町田の肩を押して座らせると、自分はもう1つの席の椅子をその隣に持ってきて座った。

「榊から、大体のことは聞いた?」
「はい」
「そう。悪かったね、隠していたがために君に苦しい思いをさせて」

町田の苦悩は、きっと自分には計り知れないものだろう。そう思いながら、川口は優しい瞳で語りかける。

「でもどうしても、君に話せなかったんだ。もちろん、ずっと隠すつもりなんてなかったよ?彼が死んだという間違った情報をそのままにしておくつもりなど、決して。必ず、話すつもりではいた。そして、出来るなら彼に会わせたいと」

そこまで言うと、川口の瞳は急に真剣な色をみせた。そして、自分たちが皆藤を引き取ってきた1ヶ月前のことからきちんと話し出した。

皆藤は、ブリリアント・ストリート内の路地裏で意識を失っているところを、通りすがりの人に発見され、近くの救急病院に収容された。
皆藤の場合、大量のアルコールで酩酊状態だっただけではなく、煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒を引き起こしていた。あと一歩遅かったら、本当に死んでいたかもしれなかった。

「しかし、見つけてくれた人が自力で病院へ運び込んでくれたおかげで、彼は助かったんだ。あの火事の騒ぎで救急車はフル稼働状態だったわけだから、個人的に呼んだところでいつ来るかわからない、って判断したらしい。無謀といえば無謀だけど、結果的に彼は救われた。
意識障害を起こしていたので軽度とは言えないと思うけど、翌日には意識が回復して、受け答えもしっかりできたようだ。幸い脳への影響もなく、あとは回復を待つだけとなったようだ、いったんは」
「いったんは……って?」
「皆藤君に身元確認をした際、"言えない"と言ったそうなんだよ。"わからない"じゃなくて、"言えない"って。それは要は、自分のことを連絡してほしくないってことだろ?ブリリアント・ストリートには様々な事情を抱えている人間が多いし、彼もその1人なんだろうと病院側では判断して、警察に相談するしかないと思っていたそうなんだが……救急センターのドクターでね、心理学を学んだ経験を持つ方がいて。その先生が、皆藤君の場合はもっと奥深い問題がありそうだって気付いてくれたようだ」

受け入れ先の病院で皆藤を担当した医師が感じたのは、皆藤の心の問題。身元を答えたくない理由に隠された、強い罪悪感。名前すら答えたがらない皆藤の危うい心理状態を察した彼は、心療内科での治療が一番の解決策だろうと考えたようだった。精神的な落ち着きを取り戻せば、身元を答えてくれるだろうと踏んだのだ。
だが、状況は全く変わらなかった。本人に回復する気がないのは明らかで、退院できるようになってしまえば身元を強引にでも調べられるという恐怖が彼を支配していた。結局、睡眠導入剤や栄養補給などの最低限の処置しか出来ないまま1ヶ月が過ぎていて、そんな中での、榊からの連絡だったたらしい。
そしてすぐにこの東上病院に転院させ、川口が主治医となって治療を始めた。榊が皆藤に、町田には連絡しないことを約束したこともあり、ようやく皆藤も言うことをきくようになってきた。

「皆藤君、体調はだいぶ安定しましたよ。自力で眠れるようになったし、食事も、出されればそれなりに食べてくれるようになった。だから、榊から聞いているかもしれないが、1週間前に退院させたんだ。
彼は今、私の知人の家で預かってもらってる。ちょっとした縁で、あちらの方から"彼を預かりたい"っておっしゃってくれて。皆藤君も、最初は遠慮してたけど、他に行くところなんてないから最終的にはあちらのお言葉に甘えたんだよ。時々電話で彼の様子を聞くけど、引きこもったりせずにちゃんとやってるみたいだよ。ご夫妻と一緒に食事もするし、会話もしてくれるし、奥さんの手伝いとかもしてくれているみたいだ。
でもね、入院中も退院してからもこれだけは変わらないんだけど……学校や君の話になると、急にダメになるんだ」

順調に回復の兆しを見せ始めている皆藤にブレーキをかけてしまうのが、皆藤をめぐる周囲の人間たちの話題。その話題が出た瞬間、皆藤は顔色を変えて俯いて黙り込んでしまう。ガチャリと、心に重厚な鍵がかかる音がするかのように。受け入れ先の家では町田の存在は知らないものの、皆藤が連絡を取られたくない相手がいることは知っているので何気なくその話題を出すようだが、やはり反応は同じようだった。
皆藤を一気に闇へと逆戻りさせていまうほどに強い引力を持つ、マイナスな考え。それは、自分自身を責める気持ち。

"こんな自分は、誰にも会う権利などない。生きている意味がない"

そんな気持ちが、皆藤を支配しているのだ。

一気にそこまで話してから、川口は少し言葉を止めた。180度変わった現実に思考が上手く回らない町田のために、少しだけ時間を与えたのだ。彼が、今起きている状況を把握し、飲み込めるように。
そして、また口を開いた。

「君がこの2ヶ月間、どれほど悲しい思いをしたのか、どれほど苦しんだのか、それはきっと私の想像以上だと思う。君が皆藤君を大切に思う気持ちは、榊からじゅうぶんすぎるほど聞いているから。だから、とても後ろめたい気持ちはあったよ。
でも、皆藤君も君のことで心を痛めていた。とてもじゃないが君と向き合える状態ではなくて、神経を逆なでするようなことは心の安定を更に脅かすことにもなる。そんな状況下で、君に伝えることなど出来なかったんだ。彼が生きていることを知れば、君だって会いたいと思うだろ?それなのに"会わせられない"と言うことの方が、もっと君を苦しめると思って。
でも、榊から君の状態を聞いて、どうしても伝えるべきだと必死で頼まれて……」

川口がそう言うと、町田は思わず榊に顔を向けた。榊は、バツが悪そうに視線を送ってくる。その表情で、榊が医師としてではなく友人としてこの場を作ってくれたのだと町田は理解した。
医師としての判断としてはあまり良いものとはいえないかもしれないけれど、それでも何としてでも町田に救いの光を見せたいがために、榊は大きな賭けに出たのだと。
そんな榊に、川口も少し笑みを見せる。そして、言葉を続けた。

「最初は私もね、榊の判断はまだ今の段階では誤りだと思っていた。
だけど、彼の言葉を聞いている内に分かったんだ。皆藤君の死の方が、君にとって辛いんだろうと。会える場所に居ながら会えないことよりも、そっちの方が君を苦しめるんだろうって」

"皆藤の死"という情報が、芯の強い町田の心を考えられないぐらいに弱くして、参らせる。皆藤の心が癒える前に町田がどうにかなる。そう考えた榊の言葉に、川口は心を動かされたのだ。

「だから私も、この事実を町田君に話すことを承諾したんだよ。
でも、皆藤君に知らせるかどうかはまた別の問題で……」

この病院に来る前に榊が町田に言ったことと同じことを、川口は言った。
町田のためにこの事実を告げたとして、今度は皆藤のために行動しなければいけない。そこを考えたら、皆藤に町田を会わせることはおろか、町田がこの事実を知ったことを話すことも躊躇われる。せっかく良くなってきた皆藤を、逆戻りさせてしまうのではないかと。だから川口も榊も、難しい表情で口を閉ざしてしまった。

そんな彼らの悩みは、町田にも理解できていた。
やっと事実を受け止めるだけの冷静さを取り戻し始めた町田には、2人の抱えた問題に我が儘を言うことが出来ない。ただ会いたいからと、自分の気持ちをぶつけることは出来ないのだ。それは、皆藤のために自分がきちんと考えなくてはいけない問題だから。
しかし……

「俺も、このままではいられません」

しばらくの沈黙の後、町田はそう言った。榊と川口が、顔を上げて見つめてくる。

「アイツがそんな状態だっていうことを知りながら、そのまま任せっきりなんて出来ないです」
「祥?」

やはりずっと黙ったままだった榊が、驚いて町田を覗き込む。その中で、川口は黙って町田を見つめていた。

「誰とも会ってはいけないっていう気持ちの方が間違いだということを、伝えたいんですよ」

自分が誰にも会う権利がないなんていう考えは、絶対に間違っている。皆藤が死んだという知らせでみんな心を痛めて、苦しんだ。それぐらい、彼はみんなに愛されているのだから。みんなを助けてくれた皆藤は、愛されるだけの価値のある人間なのだから。

「会わせてくれませんか?」

それが大きな賭けだということは、町田も十分承知だ。
しかし、彼に会いたい。自分の何を犠牲にしたって、彼のために何だってしてやれる。そのためには自分の疲労なんてどうってことない―――

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