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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
4幕-25:勝負師

PERFECT BLUE 25-05

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目の前に広がったのは、1年ぶりに見ても変わらず清潔感溢れるキッチン。中に入ることなく入口でそのまま立ち止まった町田は、黙って榊の背中を見送った。

「おお、智司。どうだ?調子は」

入ってすぐ脇にあるダイニングに向かって片手を上げた榊がそう声をかければ、

「悪くはないよ」

体の大きな榊に隠れて全く姿は見えないが、確かにその声が聞こえた。それは紛れもなく、皆藤の声だ。
それだけで町田は胸が痛くて、足が前に出て行かない。背後では、村山夫妻が心配そうに見つめているであろう視線が感じられる。
すると榊が振り返り、町田の腕をグイっと引いた。

「入れよ」

引かれた衝撃で足を2~3歩踏み出した町田は、そのまま体をずらした榊の前に出た。
恐る恐る、顔を上げる。その先にあった、ダイニングテーブルの奥側の席―――そこに彼は居た。
毎日のように夢に現れていた、起きていても瞳の奥で消えることのなかった、少しだけ髪が伸びた皆藤が。

「………」
「………」

2ヶ月ぶりに合った、2人の視線。
皆藤の目が、みるみるうちに驚きと混乱の色に染まっていく。

「ほら、智司。来い」

座ったまま呆然としている皆藤の傍へと足早に近づいた榊が、その腕を引いて立ち上がらせ、今度は皆藤を強引に引っ張り町田の前に連れてくる。

「俺と川口教授が、コイツに知らせたんだ。全部話したんだよ」

町田がここに居る理由を、榊はとりあえず簡潔に打ち明けた。
町田と皆藤の間に空いたままの、2歩分程度の距離。詰まらないそれがもどかしくて、町田はゆっくりと歩を進めた。
2ヶ月ぶりに見る皆藤は、少し痩せて、そして町田が見たことのない服を着ていた。火事の中、身ひとつで救われたのだ、今までの服があるわけはない。ラフなTシャツとパーカー、そしてGパンというスタイルは皆藤自身もよくやるコーディネートではあるのだが、別れたのが寒い3月だったせいか、季節感がガラリと変わったその姿は、離れていた時間を2ヶ月以上のものに感じさせた。
そして町田の目に入ったのは、皆藤の首元でキラリと光るネックレス。皆藤の15歳の誕生日に、自分とノブが共同で贈ったプレゼント。あれ以来皆藤が外したことのないそれは、変わらずそこで輝いてくれていた。

「智司……」

間近まで近付いて小さく呼びかけようとした言葉は、掠れて声にならなかった。皆藤の瞳に自分が映っていることを実感すれば、町田はそれだけで胸が熱くなっていた。

「智司……っ」

ようやく出てくれた言葉とともに、一気に引き寄せて抱きしめる。そこから伝わる皆藤の懐かしい感触に、言葉が出ない。

「祥……」

戸惑うように自分を呼ぶ、皆藤の震える声。それだけでまた、町田は胸がいっぱいになって。

「何してんだ、バカっ」
「………」
「お前マジで、何してんだよ……」

開口一番、町田の口から出てきたのはそれだった。この2ヶ月間ただひたすら自分を責めてきたが、思わず出たのは、そんな悪態。
しかし、言葉とは裏腹に愛しさと嬉しさは募るばかりで、もう二度と触れることはできないと思っていたその人を強く抱きしめる。

「生きてたんだな、お前」
「………」
「良かった。ホント、良かったよ」

彼が生きていてくれたことが、ただ純粋に嬉しい。死を受け入れることなどできずただひたすら自分を責めながら、帰ってくることのない彼を待ち詫びていた町田にとって、これほどに嬉しい奇跡はないのだ。

一方の皆藤は、怯えるような表情を変えることはなかった。むしろ、心の混乱はどんどんと増していく。
榊の後ろから飛び出すようにして現れた彼を見た瞬間、視線の先に彼が…町田が居ることに酷く混乱して、皆藤は体中に電流が走るような感覚を覚えた。
目の前に現れた町田はまた痩せてしまっていて、先ほど見つめ合ったときに見えた瞳には生気がなかった。それは、自分が姿を消してから2ヶ月もの間、彼がひどく苦しんでいたことを物語っていて。自分のせいでまた町田は苦しんだのだと思えば、皆藤はこの再会を喜べるわけなどなかった。
そしてやはり町田は、自分の予想通り、自分が彼を捨て姿を消したことを少しも責めない。彼への愛にも気付かずに自分は彼から逃げたのに……。

"生きててくれて、本当に良かった"

そんな言葉を吐いて、優しく抱きしめてくれる。
町田に優しくされる権利など、自分には無いのに。それなのに、無条件に自分を受け入れてくれる。それが、皆藤には苦しくて悲しくて……

そんな彼の複雑な心境を感じ取った町田は、抱き締める腕を解いて彼の両腕を掴み、ゆっくりと視線を合わせた。
目の前にいる皆藤は、怯えた表情をしている。ありえない人物が傍に居ることへの困惑と、そして会わないと決めていた人物が現れてしまったことへの恐怖。それが、皆藤の体中を駆け巡っているのだ。

「なあ、智司」

彼が手を離さないようにギュッと強く握りしめ、名前を呼んでみる。それすら、皆藤はビクンと体を強張らせた。町田の心に、鈍い痛みが走る。

「今度はじっくりと話し合おうよ。俺たちは多分、たくさんの間違いをしてきてるから」

正しい結論を出したい。町田はそう言った。自分に自信のない皆藤が出した結論は間違いだらけで、そして彼が自分自身を責めるような状況を作ってしまったのは自分。諏訪に心が動いた彼を見ていられなくて強引に手離そうとしたのも自分なのだ。

「これまでのこと、これからのこと、ゆっくり考えようよ」

結果的には皆藤を手離すことになるかもしれない。諏訪を選んで皆藤は離れていくかもしれない。それでも、話をしたいのだ。町田以外の人間を愛する人として選ぶことは、決して裏切りじゃないことを分かってもらいたい。

「頼むから、逃げないでくれな?」

今の町田には、それを言うのが精いっぱいだった。

「そうだな」

数歩引いていた榊が再び近づき、2人の肩を抱く。

「お前たちに今必要なのは、会話だ。
大丈夫。お前たちはいつだって、大事なことは何でも話し合ってきたんだろ?きっと、互いに納得できる答えを出せるはずだ」

時間なんていくらでもあるのだから、と。榊は2人の頭をクシャクシャと掻き回した。
そんな彼らの姿を、リビングの入口で村山夫妻が優しく見守る。

「よろしかったら、改めてコーヒーでもいかが?」

重苦しい空気を払拭するように明るい声で間に入っていったのは、妻。この3人がとてもじゃないが楽しくコーヒーを飲める空気ではないにもかかわらず、彼女はそう提案してきた。

「お友達に頂いたコーヒー豆がね、飲み切る前に古くなってしまいそうなの。榊先生と町田先生も、飲んでいっていただけないかしら」
「ちょ……美代子…」
「いいじゃないの。コーヒーにはアロマ効果もあるのよ?先生たちだってお忙しいんでしょ?たまにはこういう時間も必要だわ」

空気を読んで制止する村山を押し切るようにして、彼女は半ば強引に3人をダイニングへと促した。

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