FC2ブログ

「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
4幕-25:勝負師

PERFECT BLUE 25-09

 ←PERFECT BLUE 25-08 →PERFECT BLUE 25-10
皆藤が夕飯を終えて食器洗いを手伝っていると、風呂上がりの村山にベランダに誘われた。缶ビールを片手に村山は、未成年の皆藤には缶ジュースを渡し、「乾杯」と缶を当てると一口グビッと飲んだ。皆藤もジュースに口をつけ、それから2人で空を見上げる。

「皆藤君さぁ」
「……はい」
「君が今悩んでいるのは、町田君を困らせたくないってことだよね?それね、違うと思うよ」

単刀直入に、村山はそう言った。そして、空から皆藤へと、視線を移す。

「俺はね、君の気持ちがすごく分かるよ。俺も、例の事件の後、カミさんにすごく苦労をかけたから」
「村山さんが…ですか?」
「うん。目が見えなくなって、仕事も出来なくなって。カミさんからしてみれば、収入のあてもなければ、夫の身の回りの世話をしなければならないわけだろ?しかも俺は、事件の後遺症で精神的にも不安定だったし。八つ当たりしてしまうこともあってね。でもカミさんは、俺をひとつも責めることなく傍に居てくれた」
「………」
「だから、1日の中で少しだけ気持ちが落ち着いている時に考えることといえば、自分たちは別れた方が良いんじゃないかってことだったんだよ。このままじゃ、彼女の残りの人生を全て介護生活にしてしまうんじゃないかって。
結婚当初俺はまだ大学生で、社会人になっていた彼女が働いて稼いでくれた。俺の就職が決まると同時に子供が出来て、でもまだ安月給だったから彼女も働かなければいけなくて。そんな風に彼女は25年間ずっと、遊ぶ暇もなく頑張ってきてくれた。それでようやく息子が独立してこれからって時に、あの事件だ。さすがに俺には、"君は一生遊ぶ暇なんてないよ"とは言えなかったよ」

あの当時のことを振り返りながら、村山は苦笑いをしてまたビールを一口飲む。
皆藤もジュースを少しだけ飲んでから、ふと、訊ねてみた。

「そのとき村山さんは、奥さんに…離婚しようって、言いましたか?」

すると村山は小さく頷いた。

「一度だけね、言ったことがある」
「奥さんは、何て?」
「軽く笑い飛ばして、全く取り合ってくれなかった。
その時彼女が言ったんだ。"だったら、私が離婚したくなるぐらい困らせてみなさいよ"って」
「……え…」
「"やれるもんならやってみればいいじゃない"ってさ。女性って本当、いざとなると強いよねぇ。
それ言われたらさ、何も返せなかったよ、俺は。カミさんにそんなこと、出来るわけないからさ」

本当、結婚25年にして惚れ直しちゃったよ。と、村山は少し恥ずかしそうに笑った。
あれから間もなく視力は回復したが心の安定はまだまだ得られず悪夢にうなされることも多かった村山には、川口の治療だけでは決して立ち直れなかったはずだと確信がある。妻が居たからこそ、今があるのだと。

「別れたくなるほど困らせるっていうのは、それだけ相手をとても傷つけるっていうことになるだろ?俺には無理だ。きっと皆藤君も、出来ないよね?町田君に」

確信を込めた、村山の問い。
皆藤は、何も答えられずに俯いた。




マンションで休日を1人ぼんやりと過ごしていた諏訪は、今日初めて鳴った電話の音でやっと反応を示した。
ソファに寝転がっていた体を起こして、ローテーブルの上のスマホを手に取る。土曜の夜に掛けて来る相手なんて思い当たらないなと思いながら。
着信画面には、町田の名前が表示されていた。
この間、衝撃の告白をしてきた彼からの電話に、一瞬体がビクンと震える。そして、この2ヶ月間決して電話をやり取りすることなどなかったのに、どうしていきなり掛けて来たのかも不思議に思う。
恐る恐る、通話ボタンを押した。

「はい」
『……諏訪か?』

呼びかけてきた町田の声は怖いくらいに深刻で、また何か自分に告白する事があることが窺える。
今度は一体何なんだろう……?そう考えながら、諏訪は言いようのない不安に襲われた。


町田は、諏訪と同様にリビングのソファに座って、電話をかけていた。
昼間、村山家に向かう途中の車内で言われたことを考えた結果、諏訪に電話をかけたのだ。

『お前は、今までとはまた違った問題点や課題を抱えることになる。突然のことで頭がいっぱいいっぱいかもしれないけど、いくらでも俺や教授に相談してくれればいいから、ここを乗り切って欲しいんだ』

皆藤のことだけを考えさせてあげたいけれど、周りのことも考えなければいけない。榊はそう言っていた。

『智司のことは、とりあえずはあまり多くの人間に話さないでくれ。だけど、お前が話しておくべきだと思った人たちには、数人程度なら話していい。お前と同じようにアイツの死という知らせで苦しんでいる人間がいるんだよな?彼らには、伝えていいよ。2~3人ぐらいなら、お前の判断で会わせてやってもいい』

榊はそう続けた。町田が冷静に判断して、その人たちに会わせるべきだと思うならば、自分はそれを承諾すると。それでもし皆藤が混乱を示すようならば、そのときは自分も川口も担当医としてきちんと手を貸すからと。町田と皆藤を引き合わせてしまう以上、もうこれからはその先に良い結果が出ると信じて進み続けるしかないのだと榊は告げた。
だから町田は、半日の間じっくりとよく考えて、その結果、諏訪と宇賀と串崎には伝えようという結論に達した。諏訪と宇賀は自分と同様に苦しんでいるのだし、串崎は自分たちを心配して苦しんでいるのだから。そして諏訪と宇賀は、きっと皆藤に会いたがるだろう。そしたら、会わせてやるべきだと。それは今すぐではなくて、少し時間をおいてだが。
そんな結論は恐らく榊も見当がついていたようだったが、敢えて彼から名前を出すことはせず、あくまで自分の判断に任せてくれたのだろうと町田は思っている。それは要は、誰にも言いたくなければ言わなくていいという選択肢も用意してくれていだのと。しかし町田には、諏訪にも宇賀にも串崎にも、もう隠し事をするつもりはなかった。

「諏訪、明日大丈夫か?」

固い決意のもと、町田は静かにそう訊ねた。
電話の向こうの諏訪は、しばらく沈黙してから『大丈夫ですよ』と答えてくる。

「じゃあ、俺ん家まで来てくれないか?どうしても、伝えたいことがある」
『伝えたいこと……?』
「智司のことだ」

その言葉に、諏訪が明らかに反応したことが電話口からでも伝わった。

「宇賀と串崎も呼ぶつもりだ。本当に突然のことなんだけど、大きく状況が変わったんだ。だから、明日来て欲しい」


町田の声は、今までのどれよりも深刻だと諏訪は感じた。

「分かりました。何時ぐらいに行けばいいですか?」

努めて冷静にと心がけながら、諏訪は町田にそう訊ねた。
大きく状況が変わったということがどういう意味かは分からないが、それで"皆藤の死"という現実は変わらないのだろうが、それでも諏訪は話を聞こうと決心した。皆藤の話をすることはとても辛いけれど、そこに自分たちのこれからのヒントが隠されている気がしたのだ。


諏訪に"14時ぐらいに来てくれ"と告げて、町田は電話を切った。彼らが来るまでに自分の頭の中でいろいろと整理しておきたいし、午前中は皆藤に会いに行くつもりだったから、14時ぐらいと告げたのだ。
そして、同じ内容の電話を串崎にもして電話を切り、宇賀にも掛けようとして、町田は彼の番号を知らないことに気付いた。仕方なくもう一度串崎に電話をかけ、宇賀にも同じ伝言を頼む。少しして串崎から折り返しがあり、宇賀も承諾したことを確認した。

電話を切った町田は、大きな息をひとつ吐いてから、ソファに寝転がる。
たった1日で、大きく変わってしまった状況。皆藤の面影だけを追い続けて、自分を責め続けて過ごしてきたこの2ヶ月間は、ガラリと景色を変えてしまった。
とはいえ、自分を責める気持ちはやはり根強く残っている。この結果を招いたのは自分だという責任が、強くのしかかっている。

―――大丈夫だ、これぐらい

心の中で、言い聞かせる。

―――俺は頑丈にできてる。まだまだ頑張れる

皆藤は生きていてくれて、面影ではなくきちんとこの世界に存在している。これからは目の前の彼を真っ直ぐ見つめて支えていくために、自分はもっと強くならなければいけない。こんなことで疲れている場合ではないのだ―――と。

関連記事
スポンサーサイト



↓ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL恋愛小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png SS
総もくじ 3kaku_s_L.png Turning point(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 悪魔たちの狂想曲(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 立ち入り禁止(誠×風)
総もくじ 3kaku_s_L.png Old flame(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 最愛2(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 最愛(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png COOL(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 女は災い(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png 交差点(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋人たちのクリスマス(ミックス)
総もくじ 3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 【あとがき・雑記】
総もくじ  3kaku_s_L.png SS
総もくじ  3kaku_s_L.png Turning point(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 悪魔たちの狂想曲(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 立ち入り禁止(誠×風)
総もくじ  3kaku_s_L.png Old flame(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 最愛2(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 最愛(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png COOL(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 女は災い(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png 交差点(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋人たちのクリスマス(ミックス)
総もくじ  3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 【あとがき・雑記】
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【PERFECT BLUE 25-08】へ
  • 【PERFECT BLUE 25-10】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【PERFECT BLUE 25-08】へ
  • 【PERFECT BLUE 25-10】へ