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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
4幕-29:ホワイトノイズ

PERFECT BLUE 29-05

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「ね、智司」

ずっと続いていた沈黙を破り、皆藤の髪を優しく撫でる。

「俺、お前が言いたいこと分かってるよ。お前が出した答えを、俺に告げたいことも分かってる」

困らせるつもりはないと、だからここへ連れてきたのだからと、まずはそう告げてから。

「でもお前は、俺への罪悪感から、そこまで言い淀むんだよな」

それも分かっているよと、諏訪は目を伏せる皆藤の横顔を見つめた。

「俺にそこまで罪悪感を感じてくれるのは、もしかしたらやっぱり愛なんじゃないかなんて、都合よく思おうとしたこともあったけど。
でも俺ね、今回そうやっていろいろ考えていた中で、はっきり分かった気がするんだ。"愛"と"好き"の違いが」
「……え…?」

皆藤が、ゆっくりと諏訪に顔を向ける。
答えを求めるその瞳を、諏訪も逸らすことなく受け止め、語り出した。自分なりに出した、愛の定義を。

「愛がどんなものか、正解なんてもちろんない、永遠のテーマだけど。俺が思うにね、"幸せにしたい"か"幸せになってほしい"かの違いだと思うんだ」
「幸せに…?」
「そ。自分が好きな人たちには、幸せを当然願うだろ?でもたったひとり、この人だけは自分が幸せにしたいって相手、それが"愛してる"ってことじゃないのかな。
俺は智司を幸せにしたいと思った。でもお前は、俺を幸せにしたいって思ったか?自分の手で俺を幸せにしたいと、一瞬でも思ったことあるか?……きっと、無いよな」
「………」

皆藤は何も答えない。それが"答え"だ。

「お前は以前、俺に"自分はたった1つのために生きてる"って言っただろ?それはつまり、その人だけを守りたいって証で、その人を自分が"幸せにしたい"ってことだよな」

それが誰かは、諏訪は敢えて言わなかった。そんな風に、一方的に話を進めることだけはしてはいけない、と。彼の心の中にいる人間は、彼が一番分かっているはずなのだから。自分がここで言う必要は全くない。直接的な言い方では、3月に町田がとった行動と変わらないのだ。

「智司、自分を責める必要なんてない。俺への罪悪感は、今ここで、この海に捨てていけ」

後ろめたさは全て、今日この瞬間に全て消してしまえと、諏訪は皆藤の肩を強く抱き寄せる。
時に醜い姿を見せて、卑怯なことをしてしまったりして、信頼し合った人間とですら奪い合うようなことをしてしまったりして。そうやって、人間はたったひとりの人を手にするのだと、諏訪は思うのだ。綺麗なだけの愛なんて、きっと存在しないはずだと。

「お前を愛している人間は、選んでもらえなかったらそりゃあ悲しいけど。でも、それで智司が幸せになるなら、きっと納得できる」
「……」
「そういうもんだよ」

しばらくはきっと苦しくて悲しくて辛いだろう。しかし、それでその人が幸せに笑ってくれるなら、それで自分も救われるはずだ。大きな勇気と決断力を身につけることが出来れば、きっと自分も報われる日がくる。

「お前の愛は、もう、たったひとつの場所にあるんだよな?」

言葉を止めてしまえば瞬く間に挫けてしまいそうで、諏訪は一気にそこまで話した。

皆藤は無言だ。
しかしそれは、迷っているからではなくて。心の中にひとりだけ、決めた人……その人を思い浮かべているのだろうと、諏訪は何故かそう思えた。
そしてゆっくりと、皆藤が口を開く。

「先生…」
「ん?」
「俺の愛は、あの家にある」

皆藤もまた、敢えて名前は言わなかった。
それが自分への彼なりの精一杯の気遣いだと、精一杯の敬意なのだと、諏訪は思った。
だから、

「ん。そうか」

諏訪もそれだけを答えた。

「帰ろうか」

少し明るい声でそう言うと、皆藤も頷いた。
2人ほぼ同時に立ち上がり、ほぼ同時に尻の砂を払って……思わず笑い合う。
この海に来て良かった……言葉にはしないものの、2人はそう思っていた。ここでこうして話している内に、どんどんと素直になれた気がしたのだ。



すっかり暗くなってしまった夜道を、ひたすら走る車。前を走る車のテールランプが、眩しく2人の顔を照らす。2人はずっと無言だった。
このまま皆藤を遠くまで連れ去れてしまえたら、どんなにいいだろうか。アクセルを踏みこんでハンドルを握りながら、諏訪は考える。2人のことを誰も知らない場所で、彼を閉じ込めておけたらと。あのマンションで待つ町田を裏切って、皆藤を自分のものにしてしまえたら。全てを捨てても、落伍者の烙印を押されても、皆藤だけを手にどこかへ行けたらと。
しかし、それはいつか悲劇を迎える。皆藤が不幸になるのは、目に見えているから。彼を不幸にしてまで傍に置いて、他の人を想いながらも無理に笑う彼を見て、自分が平然と生きられるわけがないのだ。
そもそも自分は、やっぱりあの男を裏切れない。出会ったときから自分にたくさん励ましの言葉をくれて、バカを言い合いながらも信頼し合えるあの人、町田祥を。

「智司」

半分ほど走ったとき、不意に諏訪は口を開いた。

「愛してるよ」

その言葉に、ゆっくりと皆藤が諏訪に顔を向けた。
信号が赤になり、車が停まる。
顔を向けた諏訪は、車のライトに照らされた皆藤の美しい姿を、瞳を真っ直ぐ見つめて。

「本当に、愛してる」
「……」
「だから、幸せになるんだよ」

そう言ってにっこり微笑み、皆藤の唇に、自分の唇を優しく重ねた。
それは、"最後"のキス。触れるだけの、しかしとても優しい、2人の最後のキス。

「町田さんのことも、幸せにしろよ。あの人は俺の親友なんだから」

今度は諏訪は、はっきりと名前を出した。もう伏せる必要はない、先程の皆藤の答えが、相手が町田であることを明確に語っていたのだから。

「返事は?」

笑顔で、皆藤を促す。
すると皆藤は、返事の代わりに諏訪に抱きついてきた。諏訪も、優しく抱きしめ返してやる。


「ありがとう…慎」


甘い声に、諏訪は目を閉じた。
きっとこれで最後になる、皆藤が自分を"慎"と呼ぶ響き……それを、自分の記憶にしっかりと焼き付けた。
ゆっくりと体を離し、見つめ合う。
信号が青に変わり、皆藤はそっと諏訪から離れた。
諏訪は皆藤の手を取り、一緒にギアを握る。そのままずっと、車はひとつの場所に向かってひたすら走り続けた。町田の待つ、あのマンションへと。

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