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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
4幕-30:美しい涙

PERFECT BLUE 30-08

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「それにしても、これは寄せ書きっつうか、ちょっとした手紙だな」

色紙を見ていた町田が、思わず言葉をもらす。諏訪も、「ホントだよ」と笑った。自分もこれを見たとき、本当に驚いたのだ。
そして諏訪は、もう1つ、彼らから託された大切なものをバッグから出した。色紙と違ってひとつのバインダーに収めきれないほどに挟まれているそれを出し、皆藤に渡す。

「これ」
「え?」
「開いてみな」

開けば分かるよ。というように、そのバインダーを指差す。皆藤は、やけに厚いそれを首を傾げながら開き……そして目を丸くした。
そこにあるのは、全教科の授業の内容がきちんと書かれたルーズリーフの束だった。それは自分たちのノートをコピーしたものではなく、実際にペンで書かれているもの。色を使ったり、枠で囲んであったりと、ノートを殆どとらない皆藤には考えられないほどに、授業の内容がしっかりと書かれている。

「みんながね、分担して、お前のために書いたノートだよ。お前が生きてるってことを俺が知らせる前の分は、わざわざ自分たちのノートから書き写して」
「………」
「皆藤は頭がいいから教科書ひとつあれば問題ないかもしれないけど、教科書には書かれていないことでもさ、授業で先生が言ったことで試験問題に出るとことか重要なことってたくさんあるし。皆藤は授業に全然出れてないわけだから。だから、書いたんだってさ」
「………」
「たとえ中間テストが受けられなくても、後日個別に受けるっていう前提で。お前が戻ってくるって信じて、願っている証拠だよな」
「…………」
「お前、愛されてるねぇ」

フフッと笑って、諏訪は皆藤の頭をまたグリグリ撫でる。そして、町田に向けてニコッと微笑んでやった。
町田も、笑みがこぼれた。
皆藤のために、生徒たちがここまでしてくれたこと。それは、皆藤があの生徒たちをたくさん救って、いつしか彼の優しさがみんなに伝わって、F組の一員としてしっかりと存在していることを表しているのだ。

「皆藤、戻って来いよ。お前があの場所に戻らない限り、3年F組は未完成のままだ」
「………」
「こんなに皆がお前のことを待ってるんだ。みんな、お前のことが大好きで、12人揃って初めてあのクラスは3年F組になるんだよ?」
「………」
「俺も、お前に教えたいこと、まだたくさんある。お前も含めた12人と一緒に、俺自身も成長したいとも思う」

優しく、皆藤の心に直接語りかけるように、諏訪はそう言った。
皆藤が、ゆっくりと顔を上げて諏訪を見る。自分を見つめるその瞳に諏訪はまた胸がチクリと痛んだが、担任教師として彼にしなければならないたくさんのことを胸に、強くて優しい眼差しを向けた。

「お前は、あのクラスの中で、少しずつ変わっていった。だけど、まだ完全じゃない。多くの人間と接することにまだ躊躇するお前は、あのクラスで心のリハビリをしなきゃいけない。3年F組は、紛れもなくお前の居場所だよ」
「俺の…居場所……」
「そう。みんながお前を必要として、信頼して、何より大好きで。そしてお前も、あのクラスが好きだろ?孤独を望んで誰にも心を開かなかったお前だけど、あのクラスのためにいろんなことしたじゃないか。それは、好きだと思ってる証拠だろ?」
「………」
「だから、しっかりとそれを受け止めればいい。自分が居るべきあの場所を、手放すんじゃない。お前を愛してくれる人たちの場所、捨てちゃダメだ」

卒業するまでのあと9ヶ月。皆藤の居場所はあの学校、3年F組だ。そしてあのクラスメートたちと過ごすことが、皆藤の心に根強く残る壁を壊すだろう。彼が自分らしく生きるためには、あのクラスで過ごす必要がある。そして11名の生徒たちにとっても、皆藤の存在は彼らの人生に必要だ。だから諏訪は、自分の気持ちと生徒の想いを真っ直ぐにぶつけた。

皆藤は、黙って俯いていた。
野田の手紙が入っているズボンの左側のポケットを、ギュッと握り締める。

『皆藤、ありがとう』

一度は背を向け合った野田が手紙に残してくれた言葉を思い出し、そして、3年F組の生徒たちがくれた色紙とバインダーを強く掴む。

「先生…」
「ん?」
「俺、コイツらのこと、信じていいのかな……」

呟いた瞬間、皆藤の瞳から、ポロッと一粒の雫がこぼれ落ちた。

「智司……?」
「皆藤……?」

諏訪と町田は、同時に声を発しながら目を丸くする。俯いた皆藤の瞳から、確かに涙が零れたのだ。
町田にとってはノブの死以来、そして諏訪にとっては初めて見る、皆藤の涙だった。そしてそれは、とても透明で綺麗な雫だった。彼の滑らかな頬を伝う涙は、宝石のように輝いていた。

「皆藤……」
「俺、本当は、人を信じたい……」

とめどなく流れる涙を拭うこともなく、声を詰まらせながら、皆藤はそう言った。
心のどこかで、本当は孤独を望んでいた訳ではなかったこと、誰かと築く信頼という絆を欲していたこと。そんな当たり前のことを、皆藤はようやく思い出せたのだ。
それは、諏訪と町田にもしっかりと伝わった。涙もろい諏訪は、気がつくと自分も涙を流していた。それでも笑顔で、彼に言葉をかける。

「いいんだよ。信じていいんだ。お前を受け入れる全ての人を信じればいい。傷つくことを恐れちゃいけないよ。
傷ついたり、裏切られたり、失うことは、誰だって怖い。一度経験してしまえば、次を踏み出す勇気が出なくなるのもわかる。でも踏み出すしかないんだ。その先にしか、幸せはない。人生はやり直しはきかないけど、再スタートはいくらだって出来るんだから。
大丈夫だよ皆藤。お前は1人じゃない。何を失おうが、傷つこうが、誰に背を向けられようが、必ずお前の周りには味方がいるから。こうやって支えてくれる人がたくさん居るから」

包み込むような温かい言葉で、諏訪はそう言った。
すると、ずっと黙って見守っていた町田も、口を開いた。

「リセットするんじゃなくて、再スタートだよ、智司。あのクラスで、一度は閉ざしたその心を完全に取り戻す再スタートをすればいい。その準備はもう、出来てるはずだ。あとはもう、お前が足を踏み出すだけ。お前を待ってる明るい未来に向けて、それを信じて歩き出せばいいんだ」

諏訪と町田の言葉を聞きながら、皆藤はしばらく黙っていた。
やがて、涙を腕でグッと拭うと、ゆっくりと顔を上げる。そして、手にしている色紙とバインダーをもう一度見つめると、今度は意思の強い瞳で、フッと微笑んだ。

「つうか、変だよ、コイツら……」

皆藤の、少し笑みを含んだその言葉に、諏訪と町田は笑顔になった。
彼の再スタートの決意を、しっかりと感じ取った気がした。

「俺が担任だからね」

明るい声で諏訪が言うと、皆藤はまた笑った。

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