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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
4幕-31:穢れなき青

PERFECT BLUE 31-09

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「お」

外のベンチで缶コーヒーを片手に微睡んでいた榊は、白衣のポケットに入れてきたスマホの振動に気づいてパチっと目を開いた。コーヒーを落としそうになって、慌てて持ち直す。そしてようやく、スマホの画面に目をやった。

"祥"

朝話したばかりの町田からの着信。

「もしも~し。何だよ」

今度は何の用?とばかりに、電話に出る。しかし、その声は町田ではなく。

『あ、榊ちゃん?俺俺』
「え、宇賀?」
『そう。ゴメンねぇ、驚いた?』
「うん。あ、お前また保健室でタムロしてんだろ」

何となく事情を察して、榊が笑う。すると宇賀も、『分かった?』と笑った。

『でね、今日さあ、夜勤じゃなくなったんでしょ?デートしよ。デートデート』

照れもなく"デート"と言い切った宇賀に、近くに居るらしき諏訪や串崎や町田の笑い声とツッコむ声が聞こえる。榊も髪を掻きながら笑った。宇賀らしい、と。

「いいよ、デートしよ。終わったら電話する。多分、21時近くになるかもしれないけど。川口教授の話の長さ次第では、もうちょい早く済むかな」
『あはっ。そしたら俺、1回家に戻って荷物置いてくる』

大学を卒業して就職後も、宇賀は実家暮らしをしている。それは、年内を目標に、病院の近くでもう少し広い部屋を探して榊と一緒に住む約束をしており、今必死で貯金中のためである。金なんて稼ぎ頭の榊に任せておけと町田や皆藤は言うが、宇賀もいち社会人として、全て任せっきりは嫌なのだ。
一方の榊は、一昨年東上大学病院での研修医生活を無事終えると、心療内科医としての道を選んだ。長年目指し続けてきた医師の花形・外科医ではなくマイナーな心療内科医を選んだのは、他でもない、川口との出会いがきっかけだ。人生なんていつどんなところで変わるか分からないものだと、榊はつくづく思う。
そしてそれは、今こうして電話で話している相手・宇賀との関係についても然りだ。

『あ、でさあ。明日は俺休みだから、泊まっていい?んで、朝メシ作ってあげるよ。どうせ食ってないんでしょ』
「嬉しいねぇ。そしてよく分かってるねぇ。じゃあ、フルコースで頼むわ」
『おう!俺に作れない朝メシは無いよ!』

いつものように自信たっぷりに宣言する宇賀に、榊はまた笑った。
周りからの野次など全く気にせずに、平気で"デート"だの"泊まる"だの"朝メシ作る"だの言ってしまえる宇賀には、榊もしばらくは動揺させられてばかりいた。最近やっと慣れてきたところなのだが、

「その分お礼は、先払いで、今夜ちゃんとするからな?」

慣れとは怖いもので、いつしか榊自身も際どい発言をしてしまったりするわけで。

『え?』

思わず、宇賀がキョトンとした声を出す。

「まあどっちも、美味しく頂くのは俺の方だけど」
『……えっと…』
「じゃ、俺仕事戻るわ」
『え、ちょ……』
「じゃあな、"尚弥"」

元気にそう言って、榊は電話を切る。そしてグッと伸びをすると、久し振りに会える恋人の明るい笑顔を思い浮かべながら仕事に戻っていった。


「………」

電話を切った宇賀は、キョトンとしたままだった。しかし、心なしかその顔は赤くて。

「榊さん、何て言ったんでしょうねぇ」
「あのバカ、何言ったのかな……」

顔をつき合わせて、諏訪と町田がコソコソと話す。串崎も、2人の輪に入りながら、榊という人物をよく知らないまでも頷いた。

「結局、宇賀たちが誰よりもバカップルですよね?」
「まあな。串崎と麻生のとこだと思ってたけど」
「あそこは串崎さんが暴走してるだけで」
「何か言ったか、諏訪」
「いえ……」

ボソボソと会話をしながら、3人はチラチラと宇賀を窺う。すると、やっと我に返った宇賀が慌てて輪の中に入っていった。

「ちょ~っと、何コソコソ話してんの。俺たちのことでしょ」

ギャーギャー騒ぐ宇賀に、3人は"はいはい"と頷いて、そしてまた4人で騒がしく喋り出す。賑やかな保健室は、今日も健在だ。





ショッピングモール、屋外。七夕イベント会場。
村山と取材に訪れた皆藤は、屋台や会場スタッフの話を聞いて回る村山について回りながら、会場の光景を写真に収めていった。
中央に飾り付けられた七夕飾りに目を止めると、美しい提灯や来場者が下げていった短冊をアップにした笹を撮り始める。その場にしゃがんで、違った角度でまた撮り続けていると、

「おにいちゃん、おにいちゃん」

突然声をかけられて、皆藤は手を止めてカメラから顔を離して視線を落とした。
そこには、4~5歳の女の子が皆藤の服の裾を掴んでいる。

「どうしたの?」

迷子だろうかと皆藤が声をかけると、

「あのね、ママといっしょに写真がとりたいの」

そう言って、少女は少し先で慌てて駆け寄ってくる女性を指さす。

「ごめんなさいっ。ユミちゃんダメでしょ、お兄さんはお仕事中なのよ?」

飾りつけをスマホのカメラで撮っていたらしき母親は、目を盗んで皆藤に声を掛けに行ってしまった娘の手を引く。しかし、"ユミちゃん"と呼ばれた少女は母親のスマホに手を伸ばしながら、その場を動こうとしない。
娘の傍で膝をついて困ったように言い聞かせる母親を見ながら、皆藤は思わず笑ってしまった。

「いいですよ。撮りますよ」

スッと、母親に手を伸ばす。

「え?でも……」
「大丈夫です。全然忙しくないですから」

皆藤が落ち着いた声でそう答えてやれば、母親も嬉しそうに「お願いします」とスマホを皆藤に渡した。
立ち上がった皆藤は、飾りつけが一番綺麗に映る角度を決めると、2人を並ばせ、数枚撮ってやった。

「どうぞ」

撮った画像を、少女に見せてやる。
すると少女が、パッと顔を輝かせた。

「ママ、とっても美人に映ってるよ」
「アハハ、ありがとう。ユミちゃんも可愛く映ってるね」

ニコニコと写真を眺める母子を、皆藤は目を細めて見つめる。そんな皆藤に視線を向けた母親は、

「この子、普段は大人の男の人は苦手なんですよ?でも、お兄さんがさっきからとっても優しい顔で写真を撮ってらしたので、きっとお願いしちゃったんだと思います。わざわざ立ち位置まで考えてこんなに素敵に撮ってもらえて、本当に嬉しい。ありがとうございます」

そう言って、同じように目を細めて微笑んだ。
優しい顔をしていた、などと言われ思わず驚いた皆藤だが、再び写真を見ながら喜んでいる母子を見ていると、すぐにそこには笑みが浮かんだ。自分が撮った写真ひとつでこんなに幸せそうに笑ってくれていることが、ただただ嬉しかった。

「お嬢ちゃん、そのお兄ちゃんはね、真実しか映さないんだよ?」

いつの間にか傍に来ていた村山が、不意にそんなことを口にする。
キョトンと彼を見上げた少女に、村山はにっこり微笑んだ。

「プロのカメラマンさんはね、本当の姿を映す才能がある人たちってことなんだ」
「ほんとうのすがた?」
「そう。だから、お嬢ちゃんのママは美人に映っているわけじゃなく本当に美人で、お嬢ちゃんも本当に可愛いっていう証拠だよ。お嬢ちゃんはママにそっくりだから、将来とっても美人さんになるね」

その言葉に、少女がまた顔を輝かせ、母親も恥ずかしそうに笑った。
それから母親は皆藤と村山に「ありがとうございました」と笑顔で頭を下げ、少女は何度も皆藤たちに手を振りながら、母子は手をつないで仲良くその場を去って行った。

「言いますね、村山さん」

先ほどのキザな言葉に、皆藤がフッと笑う。
村山は少し照れ臭そうに、フイッとそっぽを向いた。

「君もあれぐらいは言えるようになれ」
「奥さんにも、ああいう感じで口説いたんすか?」
「カミさん?カミさんには、もっとすごいの言ったよ」
「あはは。なかなかイタいですね」
「イタいって言うな。君も、ここぞという時ぐらいは気の利いたセリフを使えよ?」
「……まあ、考えときます」
「絶対やらなそうだな~~」

気のない返事をした皆藤に村山が笑い、皆藤も笑う。
些細な行動から今日も小さな喜びや幸せを感じた皆藤は、その後も優しい気持ちのままイベントの写真を撮り続けていた。


Epilogueへ進む

次章はエピローグ。ついにグランドフィナーレです。
少し長めのエピローグになると思いますが、一気にアップしようと思っていますので、少々お待ちくださいませ。
エピローグは7/27(火) 6時にアップ予定です。


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