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「PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
Epilogue

PERFECT BLUE EP-02

 ←PERFECT BLUE EP-01 →『PERFECT BLUE』あとがき
現れたのは、シルバーリングだった。
緩いウェーブがついたそれは、手に取ってみれば、裏側に何か文字が書かれているようにも見える。

「ん?“to…M、A、C……”って、お前これ、“マチルダ”って書いてねぇか?」

ここで普通ボケるか?と、思わず素っ頓狂な声で皆藤を向く。すると皆藤が、楽しそうに笑った。

「何だよ。“町子”にして欲しかったか?」
「そうじゃなくて。お前、せっかく高そうな指輪に……どんだけ高価なボケかますんだよ」
「いいじゃん。それで職場でもつけられるぞ?“マチルダ先生”のトレードマークになる」

“マチルダ”の愛称は学校限定のものなのだからと、皆藤は軽い口調でさらりと答えてから、

「つーかさ、つけてろよ、ずっと……」

不意に、トーンを変えてそう言った。

「え?」
「だから、ちゃんとずっと、つけてろって言ってんの」
「智司?」
「左に、ずっとつけてろよ」

少し照れ臭そうに、しかし町田の目を見て、皆藤は言った。
それを町田はしばらくポカンと見つめてから、指輪に視線を戻す。

「右が俺と同じサイズだから、左も俺のサイズで選んだ。もし違かったら、このまま直しに行こう」

そんな皆藤の言葉を聞きながら、指輪を凝視する。その大きさから、どの指に入るものかということは町田にもすぐ分かって。
左の、その指……意味を理解した町田は一瞬目を丸くしてから指輪を箱に戻すと―――

「何で閉じるんだよ」

パタン、という音に気付いた皆藤が顔を向けて、思わずつっこんだ。
それから、唖然としている町田に苦笑いをしながら、箱を奪い取る。そして再び蓋を開き、指輪を手に取った。

「これはしまうものじゃなく、つけるものだろうが」

それともつけたくないのかよ?と悪態をつきながら町田の手を取り、それをはめた。左手の、薬指に。

「あ、ピッタリだ」
「智司……これ、えっと…」
「何だよ、嬉しくないのかよ」
「そうじゃなくて。お前、何で……」

町田はまだ頭が混乱していた。皆藤がこんなことをするなんて、予想だにしていなかったのだ。いつか自分がするものだとばかり……
もちろん自分たちは男同士で、この関係を法的に形づけることはできない。しかし、自分たちの間で何かしらのそんな誓いをたてられたらと、それは皆藤が来年大学を卒業するころを目途にしてもいいかもしれないと、そんなことを思っていた矢先だったのだ。

「先越された、って思ったろ、今」

町田の考えをやはり先読みして、皆藤がニヤリと笑う。

「お前に先越されないように、俺だってタイミング考えてたんだよ」

残念だったな、と、彼らしい発言。

「俺は来年になれば卒業して就職するし、もう祥に養われる身じゃなくなる。これからは正真正銘、祥と対等になれる。
だからもう、お前に遠慮なんかしない。その証として、それで縛り付けてやろうかと思って」
「え……」
「どんなに条件の良い相手が祥の前に現れても、俺は離してなんてやらない。これまで俺から離れるチャンスはいくらでもあったのに、お前は無駄にしてきたんだから。もう、チャンスなんてやらない。だから観念して、それつけとけよ」

あまりにも皆藤らしい、そんなドストレートの殺し文句。

―――これでいいか?村山さん

昼間言われたことを思い出しながら、皆藤はこっそりと心の中で呟く。

『君も、ここぞという時ぐらいは気の利いたセリフを使えよ?』

村山が言っていたような気の利いた言葉ではないが、それなりに決めたはずだと。
やがて、町田の顔に華やかな笑顔が浮かんでいく。
限りなくクールな顔立ちの町田が笑うと急に無邪気な空気に変わって、皆藤はその瞬間がとても好きだ。だから皆藤もまた、笑顔になっていた。

「じゃあ智司、もう少しだけここ歩いたらさ、メシの前にこの店行こうよ」
「何だよ、やっぱサイズ合わないのか?」
「そうじゃなくて。同じの買いに行こう。お前のことも、俺が縛り付けてやるから」

陽気な笑顔でそんなセリフを吐きながら、町田が皆藤の頭をクシャクシャと掻き混ぜる。

「お前の誕生日に俺が買ってもらってどうすんだよ」
「いーのいーの、気にすんな。誕生日は、俺がしたいことをするのが一番だろ?」

町田なりの持論はそれなりに正論でもあり、皆藤は何となく腑に落ちないまでも“まあいいか”と納得することにした。

それからしばらく海辺を歩いた2人は、砂浜にゴロンと仰向けに寝転がった。
綺麗な夕焼け空を並んで見上げ、そっと目を瞑った町田に倣って皆藤も目を瞑る。心地よい潮風が、自分が生きていることを実感させてくれているように思えた。
生きているということが何なのか、皆藤には、いまだに良く分からない。きっとそれは、愛と同様に、人間にとって永遠のテーマなのかもしれないとも思う。
ただ、明日もきっと、仕事をして、腹が減って、眠くなって、写真を撮りたくなって、宇賀や仲間たちのメールに呆れて笑い、空を見上げながら何気なく大好きな人たちを思い出したりして……そして、町田を、愛する彼を、きっと愛しいと思うのだろう。揃いのシルバーリングの眩しさが、とても好きだと思うのだろう。その全ては毎日変わりなく、そしてそんな他愛も無い平凡な一日こそが、皆藤にとって何より大切な日常なのだ。

『人間が生きる理由なんて、きっと沢山あるはずだ。ひとつだけじゃないと思う』

いつだったか、そんなことを自分に教えてくれた恩師の笑顔が、瞼の裏に浮かんだ。

―――そうだね、先生

心の中でそう答えながら、皆藤も笑顔になった。
来月のクラス会で、彼とも3年半近くぶりに顔を合わせることになる。彼に会ったら、最初に何て言葉をかけようか。たまにはメールでも送ってみようか……そう考えながら、皆藤はまた目を開いた。
茜空に浮かんだ雲のひとつが、まるでタンポポのようで。

『智司くんは、タンポポみたいだよね』

眩しいほどの笑顔でそう言ってくれた、今は亡き親友の声。彼の墓参りも、また近いうちに行くつもりだ。彼の実家にも、もちろん寄るつもりでいる。
皆藤をタンポポだと彼は言ったが、皆藤自身にはよく分からない。ただ、あるがままに生きていたい。その姿が、自分の好きなタンポポに似ていると周りが思うならば、とても嬉しいことだ。皆藤は、そう思っている。

―――ノブ、俺は今日も生きてるよ

心の中で呼びかけると、その雲がノブの笑顔に形を変えた気がした。


この空の青は、永遠に続く闇へと繋がっている

「さ、そろそろ行くか」
「そうだな」

それは、人間の心とよく似ている

「メシ、何食いたい?」
「ん~、唐揚げかな」
「お前、誕生日に唐揚げかよ」

僕の心にも、青空と暗闇は共存している
未来へと繋げてくれる青く澄んだ空と、消せない過去が巣食う暗い闇が


「祥」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「……ん。サンキュ」

だが僕は、そんな自分を、とても愛しいと思う

「智司」
「ん?」
「これ、給料3か月分?」
「……。半年分」
「あはは。マジ~~??」
「フフ…」

そして今日も、生まれてきたことを嬉しいと思うんだ―――

Fin.


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