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「極夜(直×大)」
3:報い

3-3

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収録は、大河は終始限界ギリギリだった。

「大河、お前どうした?」

なんとか気力で歌撮りを終えた直後、背後から近寄った実が、大河の肩に手を置いて心配そうに声をかけてきた。

「フラフラやぞ。調子悪いんか?」

プロのプライドなのか、いつだってどんな状況でも歌唱力だけは変わらない大河だが、足元のフラつきや異常な汗は隠すことはできず。それを隠すように自棄に体を動かして歌う大河に、実は異変を感じたのだ。
そもそも、

「朝からずっとおかしいで。どうしたんや」

自分たちに隠そうとしても無駄だと、ずっと感じていた懸念を投げかけてくる。それは、直希はもちろんだが拓郎も感じていたことのようで、ステージセットからはけていく大河と実を追いかけるように付いて来ながら心配げに見つめてくる。
そして前室で見守っていた仲間たちも、付き合いが長い分、それは感じていた。朝の収録から何か反応がおかしい大河を、怪訝な顔で見ている。

「だ、大丈夫や…」

それでも、そうやって顔を隠すように大河は軽い笑いを漏らした。
もちろん実際は、全然大丈夫なんかじゃない。
とはいえここで自分が抜けるわけにもいかないし、思い込みというやつが時には効力を発揮してくれることもあるわけだからと、

「ちょっと、風邪が長引いてて……」

またもやハハっと、笑ってみせたのだが。

「大河」

不意に、目の前から声をかけられて。
顔をあげれば、今日は撮影の様子を観に来てくれていたらしき陸が居た。隣には、マネージャーの高瀬も居る。

「大河、一緒に病院行こう」

高瀬が、肩に手を置いて静かにそう告げた。

「風邪じゃないかもしれないし、な?」

長い付き合いで大河の異変をやはり感じ取っていた高瀬は、陸から昨日の様子も聞いて、心配からか若干焦りの表情を見せている。
高瀬の隣で難しい顔をしていた陸も、

「明らかに悪くなっとるやろ。別の病院で診てもらってこい」

昨日の判断が甘かったと、少し焦ったような声を出している。
大河はそんな兄と高瀬を見て、また彼らの手を煩わせていることに、更に情けなくなった。
自業自得のこの状態は、自分で解決するべきで、

「収録が、終わったら…」

往生際悪く、呟いたが。

「その状態で何ができるんや」

陸に、即座に制された。

「お前が心配なんや、大河。みんな心配しとるのが分からんのか?それに、インフルエンザとかウイルス性のモンやったらどうするん?誤診かもわからんやろ」

必死で説得する姿は、プロデューサーとしての建前を守りつつも、大部分が兄としての想いだ。それが分かるから、大河も俯いた。
それに、確かにみんなに伝染すわけにはいかない。だからそこで初めて大河は折れた。

「そうか。そうやね、ごめん……」

頑固とはいえ、いったん非を認めれば素直なところが弟の良いところで、

「お前がそんなんじゃ、俺らも心配やから、な?」

シュンと肩を落とす姿に、陸は今日初めて兄の顔を見せる。そして大河が頷いたのを確認して、高瀬に大河の付き添いを促した。

「大河、まさかとは思うけど、車で来てないよな?」
「タクシーで」
「ああ、そこは判断できたんやね」

少し優しい口調になった陸に、大河も高瀬も実たちも、薄い笑顔を浮かべる。

「ていうか大河、具合悪いときぐらいは迎え行くから連絡しろって」

事務所のルールとはいえ、こういうときは例外だろうと、高瀬が大河の頭を撫でながら笑う。
直希は、衣装チェンジのために楽屋に戻るため、実や拓郎と共にそんな彼らの少し後ろを歩きだした。
そして大河も、ここが撮影スタジオだという意識からか、高瀬に腕を引かれながら何とか歩いていたのだが、

「高瀬、安全運転で頼むで~」

と笑って背を向けた陸の、その安心できる声に。
気が、緩んだ。
収録中の自分を支えていたのは最早、"迷惑かけたくない"という心だけ。体に鞭を打って、自分を励まし、必死に繋ぎとめていた緊張の糸。いったん緩んだそれは、瞬く間に解かれていき―――

瞬間。
視界が、ぐらりと揺れた。

スタジオ内の全ての音が、遥か遠くに聞こえる。

"もう少しゆっくり歩いて、高ちゃん"

その声すら出ず、大河は高瀬の後に続くしかできない。
しかしその足すら鉛のように重くて……
やがて、足は動かなくなった。

「大河?」

立ち止まった大河に、高瀬も立ち止まって顔を向ける。
その声に、まだそこまで離れていなかった陸も気付いて、振り返って。

「おい、どうした?」

さっと顔色を変えて駆け寄ってきた。
そうすれば、後ろにいた実も拓郎も直希も、異変に気付いて駆け寄る。
彼らが見たのは、真っ青な顔で立ち尽くす大河だった。

「大河?どうした?」
「大丈夫か?何か言えよ」

大河は自分に呼びかけるその声を、耳鳴りのせいか意識が朦朧としているのか、ものすごく遠くで聞いている気がして。

「大河っ、大丈夫?どうしたの?」

その声が、直希だと気付けば。
ああ、直希がいるのかと。
ああ、申し訳ないなと。
結局、最悪の形で迷惑をかけてしまって情けないと。
それだけを思うのが精一杯だった。

それから高瀬と陸に抱えられるようにして、1歩を踏み出しかけたのだが。
大河の意識は、そこで突然ブラックアウトした。

―――ホンマにツイてへん…

最後に思ったのは、そんなことだった。

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