「極夜(直×大)」
6:親愛

6-2

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「大河っ」

その体を、思い切り抱きしめる。
記憶よりまた少し細くなったような体は、それでもやはり、大河で。
真っ黒な髪も、絶妙な身長差も、戸惑うように自分を呼ぶ声も、全て大河だ。

―――よかった、幻じゃなかった……

誰が来るかも分からない場所であることを承知で、見たい奴には見せてやるとばかりに、戸惑いで硬くなった体を強く抱きしめる。

「遅いじゃん、何してたの」
「兄貴に、送ってもらったから」
「電話かけたのに」
「え?あ、ゴメン、バッグに入れとったから気づかんかった」
「めちゃくちゃ心配したよ」
「…ゴメンな?」
「体調は?」
「あ、うん、大丈夫やで」

お決まりの言葉に、直希は少し体を離した。
大河の額に手をあてると、

「嘘つき」

まだそれなりに熱をもっていることに眉を顰める。
そしてバツが悪そうに俯く大河をもう一度抱きしめてから、

「中入ろう」

彼の荷物を奪って手を引いた。





大河をリビングのソファに座らせて、直希も隣に座る。
エアコンを強で入れたものの、冷え切った部屋はしばらく温まりそうにない。直希は自分のコートを大河にかけてやり、そのまま肩を抱いた。

「メシは?食った?」

顔を覗き込むと、大河も顔を向けて頷く。

「迎え待ってる間に、病院の食堂で」
「そっか」
「直希、まだなんやろ?」
「ん?新幹線で軽く食ったから、後でいいよ」
「そんなんじゃアカンやろ。あ、冷凍庫に何か…」

そう言いながら大河は立ち上がるが、

「ちょ、ちょっと…!」

慌てて直希が立ち上がるのと、大河の体がフラつくのは同時だった。

「何してんだよ」

その体を抱き込むようにまた座らせて、コートをかけ直す。
ずっと寝ていて足元も覚束ない体で、相手の夕飯を用意しようとするなんて、信じられない。自分には、自分の体だけ気を遣えと言うくせに…

「頼むから、今ぐらいは自分の体のことだけ考えろよ」

言い聞かせるように直希が見つめれば、やっと大河は頷き、そのまま俯いた。
そして、寒そうに肩を竦ませた彼に、ふと思いついて、

「ちょっと待ってて」

直希はキッチンへ向かい、ヤカンでお湯を沸かし始めた。
そういえば、このキッチンに立つのは2週間近くぶりだ……そんなことを思いながら、直希はカップ2つを手にした。


出来上がったのは、ハチミツ入りの生姜ミルクティ。
幼い頃、真冬に母がよく作ってくれたものだ。
生姜はチューブで、牛乳はコーヒーミルクで代用した。

「はい」

熱いから気をつけて、と、隣に座りながら渡す。
受け取った大河は、袖を伸ばした両手で包み込むようにして暖をとり、それから一口飲んだ。

「美味っ…」

ホッと息を吐きながら、直希に顔を向けて笑う。
その笑顔に直希も思わず笑みが出て、自分も飲みながら、また肩を抱いた。
カップを見つめる大河の横顔を眺めながら、そういえばこんな風に自分に寄り添う彼も久し振りだと思うと、何故か無性に愛しくなって。

「検査したんでしょ、どうだった?」

一瞬の表情の変化も見逃さないようにと、更に抱き寄せる。

「うん、特に何もないって」
「本当?」
「貧血があったけど、それも別にどこか悪いわけでは無いってさ」
「あるじゃん」

何もないことないじゃないかとすかさずツッコめば、大河は言い返せずに黙り込んだ。
さすが、"叩けば埃の出てくる男"という異名を持つだけのことはある。大事なことは何でも隠そうとするくせに、一度気付かれて突っ込まれてしまえば、瞬く間にボロを出すのが彼なのだ。

「他には?」
「ない」
「ホント?」
「ホンマや。だから…」

自分は大丈夫だと、そう言おうとして大河は直希を見たのだが、

「大河はしばらく、俺のとこ泊まって」

カップをテーブルに置いた直希が、視線を真っ直ぐ返しながら静かに告げる。

「回復するまで、俺のとこで休むんだよ」

厳しい顔は、大河にはまるで兄よりも年上に思えた。
その気迫に押されて、大河はポカンと直希を見つめる。

「俺来週は、ずっと都内の仕事だし。遅くなっても必ず帰れそうだから。大河は寝てればいいよ。俺にできるのは、メシを事前に買っておいてやったりとか、洗濯ぐらいだとは思うけど、それでもきっと一人よりは…」
「え、あぁ、大丈夫やって。俺だってそれぐらい…」

ハッとした大河が、取り繕った笑顔で、自分の肩に置いてくる直希の手を下ろそうとすると、

「俺が嫌なんだってば」

直希が、大河の手を強く掴んで制する。

「俺が、心配なの」
「直…」
「大河って、忙しいからって適当な判断で復帰しそうだし。そういうのもう嫌だから、ちゃんと元気になってほしいから。休んでる間だけでも、何もしないで欲しいんだよ」
「………」
「それに俺もさ、大河良くなったかなぁとか仕事先で気を揉むより、ちゃんと自分の目で確認したいし」

ね?と直希は笑って見せる。
しかし大河は、難しい顔で直希から視線を逸らしてしまった。

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