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「君と見る空(直×大)」
前編:空の高さ

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【前編:空の高さ】

12月。芸能事務所"I-Prodution"事務所内。

「スズちゃんのさ、欲しいものって何?」

非常階段の手すりにもたれて、すがすがしい冬の青空を仰ぎながら。パックのフルーツ牛乳を飲んでいた大河が、不意にそんな言葉を口にした。

「欲しいもの?特にないかな」

知り合って2ヶ月近く経ち、すっかり意気投合した先輩の隣に立って、直希も空を仰ぐ。
事務所で打ち合わせを終えた午前中、ちょうど居合わせた大河に気晴らしにと誘われて、2人でこの場所に来ていた。

「なりたいもんとかも、無いの?」
「ん~特に」
「今の目標は?」
「いや、無いけど」
「どういうタレントになりたいとか、どういうことやりたい、とかは?」
「ん~どうかな。それに俺、背は高いけど痩せてるじゃん?家系的に細いから、あんまり体大きくなれそうにないし。となるとショーモデルとかは無理だろうし。別にそういうのやりたいわけでもないし。できること決まってくるよね」
「はあ、そっすか」

いちいち肩透かしな直希の回答に、大河は乾いた笑いを漏らして問いかけを諦めた。

「お前、宝の持ち腐れ感ハンパないな」

ええモン持ってるのにもったいないわ、と笑いながら、頭を何度もかき混ぜてくる。

「ちょっ、何すんだよ」
「ヘヘ。スズちゃん、何も分かってへんなって意味の喝や」
「何だよそれ」

いい人だし面倒見もいいし好きではあるがどこか掴みどころの無い大河に、直希は必死で抵抗しながらその手から逃れた。

「た、大河には分からないんだよ」
「ん?」
「あんたみたいに、何でもできる人間じゃないの、俺は」

ユニットメンバーとしてもバンドメンバーとしても仲間から絶大な信頼を得ていて、個人の仕事もしっかりこなす。強力な個性もあるが、協調性も抜群。今はまだペーペーとはいえ、きっと彼は大物になるだろう。それが直希から見た大河。
一方自分は、昔からその顔立ちの良さでもてはやされてきたものの、芸能界に入ってその厳しさに直面している。人気上昇中のモデルといったって、ティーンモデルだからこその地位。自分のような体つきでは、あと数年もすれば見向きもされなくなるだろう。ならば何が得意分野かと考えたところで、唯一できるベースは所詮趣味レベル。

「俺には選択肢なんてないし、できることだけできればそれでいい。別にそれに対して不満も無いっていうか。どうせ一生できる仕事じゃないでしょ?モデルなんて。引退してからの人生の方が長いし。だから、とりあえず今は、楽しければそれでいいかなって」
「……とりあえず…か」
「そ。この仕事は嫌いじゃないっつうか、まあ好きだけど、でも大河みたいに"一生やっていきたい"って思えるかって訊かれたら微妙だし。そう思えるほど俺、何か持ってるわけでもねぇし。今俺がここにいるのはね、ぜんぶ運とかタイミングだよ。今それを痛感してるとこ」
「…………」
「大河みたいに才能ないんだよ、俺は」

業界内でも密かに注目を受けているユニットで、その中でも期待をされている人間には分からない、と。
だが。
少し言い過ぎてしまっただろうか、とすぐに思いついて、直希はハッと大河を見た。
すると大河はキョトンとしながらその言葉を考えている様子で、そこに怒りの表情は一切無く。

「何でもできる…?才能がある…?」

その言葉を反芻してから、

「マジかぁ…」

フッと、笑った。
意外な反応に、今度は直希がキョトンとする番だった。

「スズちゃんには俺、何でもできて才能あるタレントなんや」

嬉しそうに笑いながら、また頭を撫でてくる。

「俺は、落ちこぼれやで」
「……え?」
「むしろ、人よりも覚えも飲み込みも悪い。10を言ってようやく1を理解するタイプ」
「大河が?」
「うん。この世界に入って4年近く経つけど、失敗が成功に繋がることもあれば、失敗は失敗でしかないときもある。根性にはそれなりに自信はあるけど、クソミソに言われればさすがにヘコむし。現場入りたくなくて、体が震えたこともある。音楽がやりたいのに何でこんなことさせられるんやって、道を見失いかけたことも。いろんなことさせてもらって楽しいって思えるのは、今だからこそや。
それに今でもね、俺、失敗ばっかやねんで?すぐ空回りするし、トラブル起こしたりもする。それでも俺を見離さない仲間が居てくれるから、みんなに助けられてるから、それらしく振舞えてるだけや」

いつも明るくて賑やかな大河からの意外な告白を、直希は信じられない気持ちで聞いていた。
彼が何故、こんなにも容易く周りから信頼されているのか、ずっと不思議だった。明るさで誤魔化して、何かを秘めている人だとも思っていた。でも彼はいつだって、自分のことは何も話してくれなかったから分からなかったけど。
大河から少しだけ彼自身のことを聞いて、彼が背負ってきたものが見えた気がして。そうしたら、少し分かった気がする。
彼は、人一倍苦しんできた人なのだろうと。
そしてきっと今も彼は、そんな風にたくさんの荷物を抱えてるのかもしれない、と。
だからもう少し彼の話を聞いてみたかったのに、直希が口を開こうとするのを大河はまるで気付いているかのように、声のトーンを変えて言葉を重ねてきた。

「だから、俺とこれから仕事で一緒になる度に、スズちゃんがっかりするかもな?先輩としてホンマはカッコつけてたいとこやけど。スズちゃんてね、俺にとって初めての、親しい後輩やねん。弟分みたいな奴は1人居るんやけど、キャリア的にはそいつのほうが先輩やし。
だからまあ、やっと出来た後輩に、お世辞とか言わんタイプの奴に"才能ある先輩"なんて言ってもらえて、実際はそうではないけど正直嬉しかったよ。ありがとな」

そう言って微笑んだ大河の横顔は、太陽に照らされてキラキラと輝いていて。
直希は思わず、言葉を失っていた。
そう、見惚れていた。

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