「君と見る空(直×大)」
後編:2人だけの約束

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【後編:2人だけの約束】

1ヵ月後―――

「大河」

事務所の自販機コーナーのベンチに寝そべったまま転寝をしていた大河は、頭上からそんな声をかけられて目を覚ました。
自分を覗き込むのは、愛すべき後輩の顔。

「お~直希ぃ~。ひさしぶり~」
「何が"ひさしぶり~"だよ。風邪引くよ」

起き上がったことでできたスペースに、呆れたように笑いながら直希が座る。
今日は午後からPOLYGONの活動に関する打ち合わせで、大河はボイストレーニングを兼ねて午前中から来ていた。

「お前も、何か打ち合わせか?」
「ん?まあね。つうか大河、ちゃんと昼飯食った?」

3ヶ月前に知り合って以来、プライベートでも頻繁に連絡を取り合うほどすっかり仲良くなったこの後輩は、大河のことには何かと気が付く。放っておけば昼ご飯抜きで寝かねないこともよく知っていて、脚を組みながら覗き込んできた。
そうして気付く、いつもと違う直希。

「あれ、直希、スーツ?」

どうしてこんな格好なのだと首を傾げて。
そしてすぐに、思い出した。

「ああ、お前今日、食事会か」

そういえばこの前の電話でそんなことを言っていたと。CMスポンサーの食事会に呼ばれていて、夕方から行くのだと。

「ああ、事務所で待ち合わせってことか」
「まあ、それもあるんだけどね。ちょっと、マネージャーと話したいこともあってさ」

事務所に来た理由をそんな風に話している直希は、滅多に着ないであろうスーツですら綺麗に着こなしていて。細いとはいえ肩幅も広くて手足も長く顔立ちも整っていて、これはモテるだろうなと、大河はつくづく思う。17歳らしい無邪気さもあれば、妙に大人っぽい雰囲気もあるし、このギャップは女性たちにはたまらないだろうと。
とはいえ、

「お前、だいぶホストやな」

黄色に近い茶髪にピアス、スーツもネクタイもカジュアルで、カラーシャツ、そしてイケメンとなれば、カタギの人間にはとても思えない。
だから大河がケラケラ笑っていると、直希も笑った。

「否定はしないけどね、周りにも言われたし。
でも聞いたよ。大河だって、スーツ着るとカタギの人間には見えないらしいじゃん」
「俺は別の世界の"カタギじゃない人間"ね」
「ハハハ…っ、認めるんだ」

自分にとっていちいちツボな大河に、直希がまた楽しそうに笑う。
それにしても最近、この後輩は自棄に楽しそうだと大河は思っていた。
気の合う人間ではあるし仕事に対しても真面目ではあるのだが、全てが漠然としているというか、目的意識が極端に希薄だった彼。モデル業に全てを捧げるなんてバカげてると、そんな風に考えていたはずの彼が、最近ずいぶんと熱心なのだ。彼が避けていたタレント業も、最近は積極的に受けているとか。
今日だって、マネージャーと何か話をしたいから早めに来ているという。十中八九、それは仕事内容についてであろう。ずっと受身体勢だった彼は、周囲が驚くほど能動的だともっぱらの噂だ。

「直希、最近ベースの練習しとるらしいやん」

彼のマネージャーから聞いた話を思い出し、大河は直希にそう問いかけた。芸能活動に加えて、趣味まで極めだしたのかと。

「うん。スクール通おうかと思ったけど、ヒマも金もないから独学だけどね」

マネージャーおしゃべりだなぁ、とネクタイを緩めながら笑った直希は、そんな自分の話を楽しげに聞いている大河に真っ直ぐ目を向けた。

「大河、俺ね?」
「ん~?」
「目標、やっぱりあったよ」

そう告げると、大河も顔を向けて真っ直ぐ見てきた。
そんな彼に、直希は微笑む。

「大河の言うとおり、自分で空の高さを決めてた」

手の届くもので満足しようとしていた。
そうすれば道を外れることはない、人から笑われることもないからと。
自分が本当に求めた空は、もっと遠くにあったのに。

「俺、今の仕事が嫌なわけじゃない。それはそれで楽しいし。でも……」

自分が音楽を始めるきっかけになった、あるバンド。その中でもいちばん好きだった、ベース担当の人物。あの動きを真似てばかりいたのは中学生の頃のことだが、あれが自分の原点で。
アイツのような才能が欲しい、あんな風に弾いてみたいと、夢中になっていた頃を思い出すたびに心が躍る自分に気付いた。
そうか、自分はあんなことがしたかったんだ、と。

「俺、大河のバンドに入りたい」

自分たちを表現し続けたあのバンドのように、自分が輝けるのはその場所なんじゃないかと、そう思える。

「RAGING THIRSTで、ベースがやりたい」

趣味と仕事ではレベルが違うことぐらい、分かっている。お前の実力じゃ無理だと言われることを知っていたから、いつの間にか考えることをやめていた。努力することを諦め、現実的な道を選んだ。そんなことしなくても、それなりの位置でいられるならそれでいいじゃないかと。

「でも今じゃとても無理だから、他の仕事をちゃんとやりながら、コツコツとね、成長していきたいっていうか」

だからたくさんの仕事をして、まずはメンタルから鍛えていきたいのだ、と。

「もっといろんな仕事したいし、レベルの高いところでやりたいから、俺、POLYGONに入りたいって思うんだ」
「え?」
「俺が今日、マネージャーと話そうと思ったのはそういうことだよ」

先日サポーターとして参加したイベントで感じたのは、ユニットメンバー全員の意識の高さ。全員まだ駆け出しのタレントばかりだが、目的意識やレベルの高さは、しっかりと感じられた。だから直希は終始、自分との違いを見せ付けられたような気がしていたのだ。

「ユニットでみんなと一緒に高めあっていきたいし、RAGING THIRSTの活動だって一番近くで見ていられる。だから、マネージャーを説得して、モデルを辞めてこっちに移ろうと思う。
俺本気なんだ。大河たちと一緒にやりたい」

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