「白い恋人(直×大)」
前編:不機嫌な恋人

前編-2

 ←前編-1 →中編-1
「……ごめん」

先に切り出したのは、大河。
その言葉に、直希はため息混じりに顔を背けた。

「理由が分からないのに謝られても嬉しくないけどね」
「そうやなくて……、理由が分からなくてごめん」
「………」
「俺の言動が直希を怒らせたんやろ?それが分からなくてごめん」

それだけを言うと、大河はスッとベッドから立ち上がった。
ハンガーに掛けてあったダウンコートを手に取り、歩き出す。

「どこ行くんだよ」

その行動が逃げをうっているような気がして、直希は少しきつく声をかけた。
直希の声に、大河は振り返らずに立ち止まった。

「散歩がてら、肉まんと雑誌買ってくる。ホテル出てすぐのところにコンビニがあったから」
「………」
「それに、散歩して頭スッキリしたら、何か思い浮かぶかもしれんし。ここにいても、お互い気まずいだけやろ」

多少面倒臭くても、いつものように屁理屈と言いがかりで突っかかってきてくれた方が、何倍も良い。

「直希に"話したくない"って言われてここに居られるほど、俺は図太くないで」

そして財布とスマホをポケットに入れると、大河は部屋を出て行った。




「……ったく」

ドアがパタンと閉じた途端、直希は一人、そう呟いてため息を吐いた。

自分が大河に怒っている理由。
確かに、傍から聞いたらくだらない理由かもしれない。
しかし、直希にはとてもショックだった。

撮影現場へ向かうロケ車の中。隣で大河はすでに熟睡していて、仕方無く直希は、自分たちも取材を受けた今週発売の某音楽雑誌に目を通そうと、車の中で読み始めた。
今月の特集は、新作アルバム発売を来月に控えた自分たちRAGING THIRSTが、個別に取材を受けるという4週連続の企画。今週は、"超個性派・大河のルーツ"と銘を打った、地元・奈良で取材を受けた大河の取材記事だった。
公園大好きの大河は、そのきっかけともなったらしい小さな公園のベンチの上で、これまたクセの体育座り。記事にも"ちょっと危険な人?"なんて書かれて。どこへ行っても結局大河だ。
田舎街に育った大河は、のどかな畦道をのんびりと歩いていて。完全にリラックスムードだというのが写真からも伝わるほどの愛らしさに、直希は自然と顔が緩むのがわかった。自分は大河の地元には行ったことがないし、今度オフの日を合わせて大河の里帰りがてらじっくり案内してもらって、こんな畦道でデートでもしようか、なんて考えてニヤけていたのだが……
そんな、直希のニヤけた顔が一瞬にして引いたのは、大河の街案内記事。大河が地元の商店街を歩いて案内しているのだが、そこで大河と並んで歩いていた人間がいて―――

『里帰りに同行した実と共に、地元を歩く大河』

―――は…?

目を丸くして、直希はその写真を思わず二度見した。反射的に後部座席の実を振り返ったが、その実もまた大河同様に眠りこけていたし、実がこういうことをいちいち言うタイプの人間じゃないことぐらいはすぐに気付いたので直希は体を戻して。そしてまた、雑誌を睨みつけた。
一体どうなってんだと……。こんな話、大河から聞いてない。奈良だなんて、その辺へ行くのとワケが違くないだろうかと。
しかしこれは雑誌の取材だし、メンバーの個別記事といえど、編集者側の提案でこうなったのかもしれない。それに実と同様に大河も、いや実以上に、自分の行動内容を喋る人間じゃないのだ。
だから何とかしてこのイライラを押さえるべく直希は雑誌を閉じようとしたが、記事で楽しそうに笑う大河と実に自然に目が行ってしまい、結局全部記事を呼んでしまった。
実は普段、直希と大河カップルをイジって遊びたがるが、この記事では彼も自然体だ。発言に他意はないだろう。自分を挑発するつもりなんてさらさらないことは、直希だって実との長い付き合いで分かる。
だからこの記事に嫉妬するのはいけないと思っていたのだが、記事の中の2人はとりあえずジャレまくっていて、2人の世界にどっぷり浸かっていて……。

大河の出身小学校に行った2人が、教室の椅子に腰を下ろしてトークしている。その中の一部が……

『大河って、よっぽどのことない限り泣かんよな』
『実もやん』
『いや、俺は見た目からして泣かへんイメージあるみたいやねんけど、お前みたいに感情直結型タイプって涙もろい人多いやんか』
『ああ、かもね。直希とかタクみたいにね』
『ヤンキーは涙もろいからな(笑)。つうか大河はね、泣かへんっていうより、泣く姿を見せないって言う方が正しいんかな。いっつも一人で泣く』
『何でそれを実が分かるん(笑)。一人で泣いとるなら、わかるわけないやん』
『いや、分かる。だって俺、この約10年でお前が泣いてんの2回だけ見たことあるけど、どっちも一人で泣いとったもん。そんで、どっちも外で隠れて泣いてた(笑)』
『え?ウソやぁっ。そんな暗くないよ』
『ホンマホンマ。ほら、メシ食わせてくれるってお前から連絡してくれてたのに、バイトとっくに終わってるはずやのに全然帰ってこなくて。痺れ切らして電話したら泣きながら出たんよ、お前。"一人にしてくれ"って言うてるそばから、切るんか思うたら"実ぅぅ~~俺やっぱ一人嫌やぁ"って(笑)』
『あ、そういえばそんなことあったっけ。で、実が迎えに来てくれたんや。あれ、何で泣いてたんやったっけ』
『知らんわ』
『つうか、"一人にしてくれ"の直後に"一人が嫌"って、俺そんなヤバいこと言うてた?』
『言うてたよ。それと、あとの1回も、お前ん家向かってる途中に電話来て、"コインランドリー居るんやけど小銭が無ぇ"って』
『泣いてた?』
『泣いてた。ほんで、行ってみたら、コインランドリーで泥酔して泣いてんの。でさ、やっぱ最初は"帰れ"言うて、帰ろうとしたら"帰るなよぉ"って(笑)』
『情緒不安定やったなぁ、俺』
『まぁ、俺の本当の優しさとかあったかさを知ってるのも大河だけってことやね』
『そいつはどうかな』
『そういうとこ素直やないな。って、陸さんも言うてたで』
『嘘つけよ(笑)。兄貴とそんな話ぜったいせぇへんやろ』
『ま、いつでも俺の胸を貸すよ。これからも仲良くしようや、大河くん』
『ギブアンドテイクですね、実くん』
『今の話で、俺がテイクしてもらってたとこあったか?』

そんな会話が、直希の怒りを、嫉妬を急上昇させ―――そして、今に至る。

自分でも、子供じみた嫉妬だとは直希だって分かっている。でも、それでも抑えきれないのだ。
これが他の仲の良いタレントと誰かだったら、笑って話題のひとつにでも出来たと思う。だけど大河だから……彼だから、笑って済ませられなかった。
実との絆の深さを見せつけられたようで、無償に腹が立った。
人前では、自分の前でも泣いたことの無い大河が、実の前で2回も泣いたことがあるというのがムカつく。しかもその1回は、泥酔していたという内容からして、大河が成人して以降のエピソードだろう。ということは、自分と知り合ってからの話なのだ。
自分の知らない大河を、実が知っていることが……

"バカだねーお前"

きっと誰もが、そう言うだろう。しかしそれが何だというのだ。これは自分にしか分からない怒りだ。
そして大河は、途中で少し起きたのだから、車の中でそれを直希が読んでいたことを知っていた筈なのに、自分の怒ってる理由が全く分からないのも腹が立つ。もちろん彼は、この取材で悪気など一切無かったからなんだろうが……

「……ちきしょー…」

ベッドに仰向けになった途端、やり場の無い苛立ちに、そんな言葉が漏れた。


中編へ進む

関連記事
スポンサーサイト
↓ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL恋愛小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ 3kaku_s_L.png ★Engagement(直×大)【準備中】
総もくじ 3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ  3kaku_s_L.png ★Engagement(直×大)【準備中】
総もくじ  3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【前編-1】へ
  • 【中編-1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【前編-1】へ
  • 【中編-1】へ