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「満月の夜(直×大)」
後編:たったそれだけで

満月の夜 後編-1

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【後編:たったそれだけで】

「着いたよ、大河」

車を停めた直希は、だるそうに動こうとしない大河の肩を揺すった。しかし大河は、クテンと直希の方へと体を寄せて寝に入ろうとするので、

「ほらほら、ダメだってば」

大河の体を直し、車を出た直希は足早に助手席に回ると、ドアを開けてやった。
中に入り込むようにして大河の肩を抱き込むと、片腕は自分の肩に回してやって、抱えるようにして車から出してやる。歩かせるよりも背負った方が楽そうなので、直希はまた大河を背負ってマンションに入った。

エレベーターに乗って、部屋まで向かう。その間も大河は、直希にしっかり抱き着いたまま擦り寄って甘えてきている。

―――俺の目の届かないトコで、こんなんなるまで酔うなってば…

相手が今野だったから良かったものの、これが大野史孝や冴島あたりだったら、完全に狙われていると(←バレンタインの件を引き摺っている。『痴話喧嘩』参照)。
その今野さえ危機感を感じたというのだから、大河の無防備さは、無自覚・天然・無邪気・愛嬌と併せて五重苦と言えるかもしれない。魅力と危険は、時に紙一重だ。
やれやれとため息混じりに歩いていれば、既に部屋に着いていた。

「はい、鈴野くんチに着きましたよ」

リビングには向かわずそのまま寝室に入った直希は、ベッドの上に大河を下ろし、2人分の荷物は適当に床に放った。
水のペットボトルを車内に置いてきてしまったことに気付き、キッチンから持ってきてやろうとしたのだが、

「直希ぃ~~」

大河は、そう言って直希のパーカーの裾を掴んで離さない。だから直希は仕方無く、そのまま隣に腰を下ろした。

「ホント、どうしたんだよ?」

寄りかかってきた大河に肩を貸してやりながら、直希は床に放った荷物の中から、先程今野からもらった雑誌を開く。
今野がご丁寧に折り目をつけてくれているページを開くと、それは有名な音楽評論家の連載記事のようで。

「ん?」

直希の目に留まったのは、自分たちのバンド名と……そして自分の名前。
要は、ベーシストとしての直希に対する評論記事だった。
バンド内で明らかに実力の遅れをとっていた直希は、かつてこの評論家に辛口すぎるほどの批判を食らったことがあったが、

出遅れを克服し、大きな進化を続ける鈴野。彼は今や、ラギサーの高い音楽性や実力に一切の引けを取らず…
鈴野の成長が、ラギサーの音楽スタイル確立の決定打になった

今回は、高評価の言葉ばかりが並んでいる。
最終的には、

私にとって、今後が一番楽しみなベーシストだ

そんな言葉で締めくくられていた。
大河がラジオのスタッフにおねだりしてまで貰った雑誌は、明らかにテンションが上がったらしきそれは、直希を絶賛とも言えるほど褒めている記事で。大河本人のことは、最後まで一言も書かれていない、そんな記事。それでも今野は、大河の泥酔の理由はこれしか無いとほぼ断言していた。
仲間がお世辞ではなく正当な理由で褒められれば、大河はもちろん大喜びする。彼はそういう奴だし、直希たちだって仲間の活躍は同様に素直に喜べる。
しかし、こんなに大河がハメを外すのが、本当にこれだけの理由なのだろうかとも思えて。

「大河、酒が進んだのは、これが理由?」

他に何か理由があるんじゃないかと、直希は大河の肩を抱き寄せて、雑誌を差し出しながら顔を覗き込んだ。
すると大河が、直希が手にしている雑誌に目を遣って、

「あー!そうそうこれ、直希に見せたかったやつ!」

パッと目を輝かせ、それを奪い取った。
そして既に開いているそのページをまた軽く眺めてから、

「なぁ、あのオッさん、直希を遂に認めたで!!」

グイグイと、それじゃ読めませんけどというぐらいに、直希の顔面に雑誌を押し付けてくる。
読めないのもそうなのだがその前に窒息しそうで、直希は必死でもがきながら、

「わかったわかった。俺も読んだよ」

雑誌を顔から剥がした。

「確かにあの人から褒められるのは嬉しいね」

的確な評論で知られる彼から評価を受けたことは、直希としてもモチベーションは上がる。だから素直にそう答えて微笑めば、大河も一層笑顔になった。

「やっぱ直希は、俺が見込んだ通りやな♪」

直希を可能性の宝庫だと感じたのはやっぱり正しかったと、誇らしげにまたその記事を眺めている。
その反応を見ていれば、大河の深酒の原因は、やはり今野の言う通りのようだ。信じられないが、そうとしか。

「大河、それでこんなに飲んだの?」

それでも半信半疑の直希は、改めて大河にそう尋ねた。
大河は雑誌から視線を外して直希をチラリと見遣ると、

「わからんけど、なんか、無意識に飲んでた」

首を傾げながら、自分の行動を思い返している。
つまりは、高揚した気分で飲んでいるうちに、酒が進んでしまったらしい。
メンバーであり恋人でもある相棒が褒められた、たったそれだけのことで。
しかしそこで直希は、今野の言葉を思い出した。

『大河にとっても、お前がマジで特別なんだな』

大河を連れて帰る際、玄関先で言われたそんな言葉を。

『今はお前がただの仲間じゃなくなったから、余計に』

直希の苦労や努力を一番身近で見てきた相棒としてももちろんだが、その人が今は恋人という立場でもあるわけだから当然だと。そんなニュアンスのことを今野が言いたかったのであろうことは、事情を把握した今の直希になら理解できる。

『これまでのこと考えながら飲んでりゃあさ、たまんなくなるんじゃないのか?大河にだってそういう日はあるだろうよ』

今夜は満月だからな、とやっぱり今野が月を理由にそう結論づけた言葉の意味も。直希は、ようやくいろいろ理解できた。
そして理解できた以上、隣で自分に身を委ねてくる大河への愛しさなんてものは一気に増大するから、

―――理性、理性…

ちょっとしたタイミングで暴走しそうになる自分との闘いモードに突入だ。

―――明日は早い。アシタハハヤイ…

今日はこのまま寝るんだと必死に言い聞かせ、直希が思わず大きく息を吐くと、

「なおき、怒ってるんか?」

呆れた溜め息と勘違いしたらしき大河が、初めて笑顔を消して見上げてきた。
不安げな大河の瞳は、アルコールのせいでいつも以上に潤んでいて。

「いやいや、そういうんじゃないよ」

だからそんな瞳で見ないでくれと、直希は大河を抱き寄せることで直視の状況から逃げる。
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