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「Beyond Silence(W大)」
4:Vi Protegga

Beyond Silence 4-6

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「た、大河?」
「天誅!!!」

そんな言葉と共にプシュッっと、何かを吹き付けられる。

「え、うわっ。何だよ、やめろって」
「やかましい!人を襲いかけたくせして」

さっきとは正反対に、今度は大河が俺にのしかかってきた。

「だからゴメンって、頼むカンベンしてよ。それ何?」
「硫酸」
「はぁ?」
「いや、毒グモの○×%★…」
「そこで噛むなよ。つーか、ちょっともう……」

逃れるように覆った腕。
そこからふと香った匂いに、俺はハッとした。
これは……

「ねえ史孝さん、俺から香ったのって、それ?」

大河も攻撃を止めて、俺に覆いかぶさったまま覗き込んでくる。

「たぶん、これ……」

普段は仄かにだからちょっと何ともいえないけど、でも確かに、この匂い。

「確かにベビードールって言われてみれば、似とるかもね」

俺の手首を掴んで自分の鼻先に持っていった大河が、納得したように頷いている。っていうことは……

「……違うのか?」
「よく嗅いでみぃや」
「いや、でも……比較対象がないから」
「ああ、そうか。やっぱ頭ええな、史孝さん」

ものは言い様やね~なんて、それも違う気がするけれど。ここで話の腰を折るわけにもいかなくて、俺はただ大河を見つめる。
大河が、俺の目の前に、先ほど俺に吹き付けてきたものの正体を見せた。
黒くて細い、ツイスト形状のオシャレなガラス瓶スプレー。

「これが、ベビードールの正体」

ニッと笑われて、俺はそれを手に取ってみた。
そこに書かれているのは、その名前ではなくて。

"Vi protegga"

読み方も分からない、でもあきらかに別物とわかる香水。かろうじて読めたブランド名も、あの香水とは違う。あれは確か、イヴサンローランだ。昔の彼女がつけていて、何度もプレゼントさせられたから憶えている。

「これ、何て読むんだ?」
「ヴィ プロテッガ」
「ヴィ…、何だって?」
「プ・ロ・テ・ッ・ガ。今年の新作で、ユニセックス香水」
「はあ……」
「史孝さんがベビードールと思ってたのは、それやで」

ホンマ、アホやなぁって。大河が俺に軽くキスをして、隣にゴロンと横になった。
俺はまだ、その瓶を掲げて見つめている。大河はそれを楽しげに見つめ、自分もその瓶に視線を移した。

「確かに一度だけ、ベビードールつけてるコと会った後に史孝さんとこ来たことあるよ。それで史孝さんに敏感に気付かれたのも憶えてる。でもあのコとはあの後まもなく会わなくなったし、そもそも俺は、史孝さんと会う前に別のコと会ってから来るなんて、あれ以来してない」
「……俺も、そうだな」
「そうやね。史孝さん、いつのまにか移り香漂わせなくなったなって思ってた」
「……気づいてたんだ」
「当たり前やん。女物の香水なんてすぐわかるよ。でも史孝さんから匂いしなくなって、女の趣味でも変わったのかと思ってたんや。まさか、俺に対してそんな風に想ってくれとったなんて、思ってもみいひんかったから」
「……この香水を、俺はどうして勘違いしたんだろう」
「似てるからやん?単純に。まあよく嗅いでみたら全然違うけど、一瞬仄かに香る匂いは、確かに似てるかもね。
後は、あれやろ、先入観」

最初の経緯もあったせいか、それを初めて嗅いだときに"ベビードール"だって思い込んでしまった。それが結局、俺を支配していたんだろうと、大河は結論づける。確かに、そういうことなんだろう。

「俺たちって、先入観だらけの関係やったんやね」

香水を掲げる俺の手を取り、そっと下ろした大河が、優しく微笑む。

「俺は、史孝さんが俺にいっつも物言いたげにしてたのは、単に別れを切り出せなくて困っとるんやと思ってた」
「俺は…お前が沈黙する理由は、他に大事な人ができたからなんだって思ってた」

言いながら俺は、大河の真っ黒な髪を撫でて、耳元のイヤーカフに触れる。そこには今日も、俺がプレゼントしたそれが輝いていた。

「バカだよな、俺たち」
「ね~」

純粋に真っ直ぐ見ていれば、すんなりと交わっていたはずの気持ちだったのに。自分たちで強引に平行線にして、伝わらない伝わらないと嘆いていた。

「この香水やって、俺、そこまでこの匂い気に入ってるわけやないで」
「え?」
「名前が気に入ったからつけてただけ」

"Vi protegga"その意味は、

―――イタリア語で、『あなたを守る』だよ…

耳元で、囁かれた甘い告白。

「俺がいっつも、史孝さんに思ってること」

伝えられない想いを、香りに乗せて。

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