FC2ブログ

「アゲイン(陸×千)」
2:あるがままの自分

アゲイン 2-1

 ←アゲイン 1-4 →アゲイン 2-2
【2:あるがままの自分】

大河との電話を切り、千田は慌てて立ち上がった。

「千田、早く食わないと撮影再開……」
「すいません、すぐ戻ります!」
「は?!」

川口の言葉を遮り、稽古場を出る。
向かうのは、陸が通されたであろう社長室だ。

大河が打ち明けてくれた内容は、千田には酷くショックだった。

『お前らに個人的な付き合いがあったなんて、俺ぐらいしか気付いてなかったやろし、今回の記事の内容に、事務所的にも混乱してな。
でも実際は兄貴も移籍なんてせえへんで、チダちゃん。これは本人にも確認できてる』

陸は、伊集院社長がプロデューサー業をやっていた時からの付き合いだし、そもそも彼のスカウトで芸能界に入った。だからそんな恩知らずなことしないと、大河は断言した上で、

『ただ、どんな経緯があったかは俺もまだ分からんけど、何かしら向こうの事務所とそういう類の話があったことは事実っぽいんやわ』

そうも話した。これが、陸と千田が親しいという事実と結びついて考えられてしまったのだろうと。

『兄貴は、社長に正直に話すつもりなんやと思う。チダちゃんとの関係も含めて。ホンマは最初からそのつもりやったんやろうけど、1週間ブランクがあったのは、お前とか俺らのこととか、いろいろ考えてたんやないかな。そのぐらいの判断力はあるで、あの人』

とはいえ、あの雑誌は数日後には発売されてしまう。だから陸は、今日がタイムリミットと感じて、仕事の合間を縫ってまでして、横浜からやって来たのだろうと。

『社長と話した上で、お前ともう一度向き合いたいと思ったんやろ。お前に誠意を見せて、そうしたら話を聞いてもらえる、って。それぐらい、チダちゃんが大事なんやて。
でも、正直な話をしたところで社長がどんな判断するかわからんし、そもそもチダちゃんに何の相談もなくはマズいよなぁ?こんな大事なこと。"あんま無謀なことするな"って、"チダちゃんに不利なことがあってはいけない"って、俺さんざん言ったんやけどなぁ』
「俺は、別に……」
『アカンよ、そんなん。寧ろチダちゃんが最優先やで。
 でも、それぐらい責任感じてるってことなんやろな。自分で責任取るつもりなんやろ』

要は、"落とし前"をつけにきたのだ、彼は。

「…大河さん」
『ん?』
「俺、ちょっと、行ってきます」
『え?行くって……あ、ちょ、待て。アカンてチダちゃ―――』

何かを察して慌てる大河の声を振り切り、千田は電話を切って電源も落とすと、気がつけば走り出していたのだ。

まずい―――と思った。

陸がしようとしていることが大河の言うとおりなら、絶対に阻止するべきだ。
それは自分のためじゃなく、彼のために。

自分の存在は、今の彼の立場的に、足枷になっていると千田は思う。
陸が千田に近づいた理由が引き抜き目的なのではないかと疑惑がたったことで、社長を始め事務所内で不信感を抱かれている。社長からの彼への信頼は絶大だったのに。
そんな状況では、正直に話したところで、事務所の怒りを買うだけかもしれない。自分が手をかけているユニットのタレントと、そのタレントが加入間もない頃から親密な関係を持っていた挙句、こんな騒ぎまで起こすなんて、と。
自分のせいでもし、陸が事務所に居られなくなったりでもしてしまったら……

「ふざけんなよ、絶対ダメだよ……」

自分の気持ちを利用されていた可能性が高いとか、どうでもよくなった。
それで傷ついていたはずだが、陸がまずい立場になる懸念が膨れ上がった瞬間、自分のことなんてどうでもよくなった。

いや、正確に言えば、どうでもよくなんてない。
傷が消えたわけじゃないし、彼への猜疑心が消えたわけでもない。
ただ、忘れてしまったのだ、痛みを。
陸を庇いたい気持ちが、千田自身の痛みを忘れさせた。

―――あの人は俺が守る……

頼りない自分は陸にもみんなにも守られてばかりだけど。
せめてこれだけは―――


「千田っ!待てって!!」

突然、グイッと腕を引かれて。
振り向くと、千田を追いかけてきたらしき川口が居た。

「は、離してくださいっ!」
「落ち着けって。どこ行くつもりだよ」
「どこって…社長のとこです」
「行ってどうすんの」
「ちゃんと話します」
「何を?何て話すんだ?」
「それは……」
「陸さんを庇いたいのは分かるけど、気持ち偽ったって、何の解決にもならないんだぞ?」

千田の意図に気付いていたのか、彼はぴしゃりとそう言った。

「少なくとも陸さんは、正直に話すためにここに来たんじゃないのか?忙しい合間縫って、それでもしっかりと話したくてここに来たんだろ。針のむしろ状態になるかもしれないこの状況下でも」
「でも…!それでもし、彼の経歴に傷つけることになったら、俺、嫌です。自分ができるのは、これしかないんです!」
「千田!」

再び川口の手を振り払い、千田は走る。

「やめろって。千…」
「何騒いでる?」

不意に、2人の追いかけっこを止める声。
顔を上げると、八神が居た。

「八神さん…」
「千田、いいところに居た。社長室へ」
「あ……」
「八神さん、ちょっ…」
「川口、お前もだよ。来い」

大丈夫だから、と、八神は川口に頷いて。
そして、2人に"付いて来い"と言うかのように片手で軽く手招きしてから、社長室へ向かう道へと歩き出した。
千田も川口も、一緒に歩き出す。

「千田、嘘つくなよ。素直で正直なのがお前のいいとこだからなっ」

川口が、隣を歩く千田にボソッとそう呟く。
真っ直ぐなのはあんたの方だと言いたくなるほどの真剣な声に、千田は軽く顔を向け、どちらともとれないようなお辞儀をするのが精一杯だった。
そんな川口の声が聞こえていた八神は、振り返りはしないまでも小さく笑って、

「アイドルのマネージャーは無理だな、川口には」

社内で共有しておこうと、呟いた。

関連記事
スポンサーサイト
↓ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL恋愛小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ 3kaku_s_L.png ★パンドラの箱(三角関係)【連載中】
総もくじ 3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ  3kaku_s_L.png ★パンドラの箱(三角関係)【連載中】
総もくじ  3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【アゲイン 1-4】へ
  • 【アゲイン 2-2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【アゲイン 1-4】へ
  • 【アゲイン 2-2】へ