「アゲイン(陸×千)」
2:あるがままの自分

アゲイン 2-2

 ←アゲイン 2-1 →アゲイン 2-3
3人が社長室に入ると、そこには応接間に座る伊集院社長と、テーブルを挟んで彼と向かいに座る陸が居た。

「千田、悪いね、撮影中」
「いえ。あの、社長…」
「とりあえず座って」

伊集院が陸の隣を示す。八神も千田に向かって小さく頷き、自分は社長側の隣に座った。
千田がソファに腰かけると、川口は陸とは反対側の、千田の隣に腰掛ける。
全員が座ったところで、伊集院は話を切り出した。

「陸の話は聞いたから、今度は千田の話が聞きたい」
「陸さんの…話…?」

千田は、探るように伊集院や八神を窺った。
陸が自分のことをどう話したのか、あるがまま話してしまってはいないだろうか、と。
すると、隣の陸が、千田に顔を向け小さく頷く。
それは、自分たちとのことを全て話したことを物語っていて。

まずい。
まずいまずい……

否定しなければ。
心では分かっているのに、言葉が口から出てこない。
陸を守りたいのに―――
彼を真横に感じて、千田は嘘が吐けなかった。

「千田」

全身から緊張を放つ千田に、八神が優しく呼びかける。

「川口の言葉、思い出せ」

『千田、嘘つくなよ。素直で正直なのがお前のいいとこだからなっ』

その言葉を、思い出せと。
それでもまだ千田が迷うように目を泳がせれば、隣の川口が小さく、「大丈夫」と呟いた。

「僕は……」

23年間、ただただ、素直に正直に生きてきた。
打算なく駆け引きもできないのはバカの典型パターンだと、揶揄されることもある。チャンスを逃したり、たくさん損もした。
でも、たくさんの味方がついた。
この性格が、陸と自分を引き合わせてくれた。

「僕は……」

この正直さで、どうやって彼を守れるだろうか―――

「僕たちの付き合いは、本当に純粋に"気が合った"というだけで、そんな、噂に流れているような打算的なものではなかったと信じています。
少なくとも、僕と居るときに陸さんが事務所移籍の話を出したことはありません」

千田は、必死で言葉を選びながら話し出す。
正直に、でも彼が有利になるように―――

「僕はモデルやってたとはいえタレントとしては新人同然だったし、ユニットのプロデューサーである陸さんを慕う気持ちが芽生えたのは自然だったと思います。
最初、陸さんは歳の離れた兄貴のような存在で、僕が一方的に懐いて……」

"一方的に"という言葉に、陸が敏感に反応して自分を見たのが千田は分かった。
しかし、それには意識を向けないようにして、ひたすら言葉を続ける。

「それで好きなものとかがけっこう一緒だって話になって、会う機会が増えました。
陸さんと居ると楽しくて…その……彼を、好きになりました。
僕が一方的に好きになって、歳の差を逆手に、振り回してしまいました」
「おい、何言って……」

陸の声が震えている。
でもこれは、千田にとって嘘ではない。
自分が、歳の差を理由に彼に全てを任せていたのは事実なのだ。

「僕が幼稚だったんです、ごめんなさい。陸さんが責められることは何もありません。きっと陸さんは自分が悪いように言ったかもしれないけど、本当は僕が……」
「千田、やめなさい」

ずっと無言で千田の話を聞いていた伊集院が、千田の言葉を遮った。

「俺が聞きたいのは、責任の所在がどこにあるかじゃないよ」

そんな話をしたいのではない、と。

「あの記事を気にしているなら、何も心配することはない。あれはただのデマにすぎない。それは、向こうの事務所にも確認済だし、陸からも向こうにちゃんと話をして、この件は解決している。記事が出回るのはもう止められないが、双方で合意が出来てるから問題ない。うちの人間たちにも、後で俺が説明する」
「……え?」

思わず千田は、顔を上げた。
困惑した顔を見せると、伊集院が経緯を説明し始めた。

記事にあった通り、確かに陸は知り合いのタレント経由で新事務所への移籍を持ちかけられていたのだが、実際は陸はしっかり断っていた。
ところが、話はそこで終わらなかったのだ。
4月に入った頃、件の事務所から、陸へ正式にオファーが来てしまった。
しかしその頃の陸はといえば、多忙を極めていて。
2月末に放送されたPOLYGONの冠番組が目標以上の視聴率を記録し、レギュラー化が決定すれば、時期を同じくして夏イベント準備も始まった。さらに、陸がプロデュースしている別のユニットや陸自身の久々の役者業等々、正直いっぱいいっぱいの状況だったのだ。
多忙になった陸は、しつこい移籍オファーに正直うんざりしていて、そんなものは論外だとばかりにまともに返事を返さなかったのだが。これが、先方からすれば、陸が検討してくれているという勘違いに繋がってしまった。

「陸と千田が親しいことを知った先方が、陸が千田も一緒に連れて行くつもりだと勘違いしたようだ。もしそうだとしたら、個人的に会い続けるということは話が進んでいると当然思うよな?それで、先方が陸に、千田も大歓迎だというような話をもちかけたようだ」
「……そんな…」
「そこで初めて、相手に勘違いされてると気づいた陸は慌てて否定したけど、お互い慌しかった中で、話が滞って有耶無耶になってしまっていたようで。それで、解決しない間に、あの週刊誌に嗅ぎ付かれてしまったというわけだ。
先方からもそう聞いているが、そうだよな?陸」

いつも明るくて陽気な伊集院の声音は、優しさの中に厳しさも伴っている。陸に理解を示しつつ、彼の"うっかり"によって引き起こされた問題を厳しく追及しているようだ。

「そうです。すみません。俺が、しっかり処理するべきでした」

陸は伊集院や八神に頭をさげ、そして、自分を凝視する千田に顔を向ける。

「俺のミスなんや、ごめん」
「………」
「ごめん」

その姿に、千田は胸が痛んだ。
今日まで彼は、いったいどれだけの人に頭を下げたのだろうかと。

―――俺なんかのために……

陸の行動が周囲の誤解を招いた原因は、自分にもあるのにと。
情けなくて、俯いて唇を噛んだ。

関連記事
スポンサーサイト
↓ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL恋愛小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ 3kaku_s_L.png ★Engagement(直×大)【準備中】
総もくじ 3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編作品
総もくじ  3kaku_s_L.png ★Engagement(直×大)【準備中】
総もくじ  3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【アゲイン 2-1】へ
  • 【アゲイン 2-3】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【アゲイン 2-1】へ
  • 【アゲイン 2-3】へ