「アゲイン(陸×千)」
3:アゲイン

アゲイン 3-2

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マンションから徒歩5分の惣菜屋で適当におかずや主食になりそうなものを買って、陸の部屋に戻ったのは21時過ぎだった。

「リビングはエアコンつけっぱなしやから涼しいで」

先に入った陸に促され、千田も玄関に入る。
1週間ぶりの、陸の部屋。
自分が彼を振り切って飛び出した光景を思い出し、千田は少しだけ心が痛んだ。
閉じたドアの向こうで彼は、どんな顔をしていたのだろうか―――

「有介~?」

リビングに入ったはずの陸が、玄関で動かない千田に気付いて戻ってきた。

「どうした?」
「……あの」
「あれ?スリッパない?」
「いや、あ、ある」
「なら、とりあえず入って」

手を引いて促され、千田は何となく陸に目を遣る。
動かない千田に陸は、不安そうに首を傾げた。

「そこに突っ立ってられると、また帰られる気がして怖いわ」

苦笑いした顔は、傷ついているようにも見えて……
慌てて千田は、靴を脱いで彼に続いた。


ダイニングに座らされた千田は、キッチンに立つ陸を眺める。
陸は買ってきた惣菜のうちサラダや煮物以外はレンジで軽くあたため、ご飯を茶碗に移し変えると、テーブルに広げる。そして、冷蔵庫に入っているビールを2本持ってきて、千田の向かいに座った。
並んだ惣菜は全て美味しそうで、千田は実家の料理を思い出した。

「さ。とりあえず食お」

おそらくそれは"話は後で"という意味のようで、千田も素直に箸をとる。
料理は、平凡な家庭料理に見えて、味はかなり本格的だった。

「美味い」

久しぶりに、食べ物の味を感じた気がする。
それは、この料理が美味しいからというだけではなく。
この1週間千田は、何を食べても味を感じなかった。

「だろ?ここの全部美味いよ。ご主人が元々はどっかのコックやってたらしいわ」
「おばちゃんが作ってるわけじゃないんだ」
「ああ、あの人は奥さんやね。閉店間際やから種類ないけど、実際はもっといろんな惣菜あるし。昼時とか大混雑って聞いたことある」
「おばちゃん、いい人そうだったね」

陸はお店の常連らしく、『久しぶりねぇ。閉店間際にイケメン拝めてよかったわ~』なんて人の良い笑顔を見せたおばちゃんに、陸も『そうでしょ?久しぶりやからもう一人イケメン連れてきてみたよ。しかもピチピチの若いの』と千田を指差して笑っていた。大喜びのおばちゃんは、帰り際千田にも『またいらっしゃいね』と手を振ってくれた。

「大河なんて1回連れていっただけで仲良しになってんの。最終的に俺より常連なんちゃうかな。あ、それも美味いよ」

煮物を指差した陸だが、そんな風に薦めるわりに、自分は野菜炒めばかりつついている。それに千田も目ざとく気付いた。

「…陸は、それしか食べないの?」
「俺はこれがあればええねん。後は有介が全部食べて」
「え…無理だって」
「ブラックホールの胃袋のくせに」
「絶対無理でしょ、これは」
「そぉ?」
「だいたい、それだけじゃ陸足りるわけないし。ちゃんと食べないと」
「はいよ」

普段はフワッとしている割りに言うときはビシッと言ってくる千田に、陸は素直に降参した。
やっぱ里芋かなぁ、とたった今自分が薦めた煮物に箸を伸ばす。そんな陸はやっぱり少し疲れた顔をしていて、千田はまた心が痛んだ。

『ちょっと待って。話を―――有介!!』

あの日、必死で自分に弁解をしようとした彼の顔が急に浮かんできて―――
気が付けば千田は、箸を動かす手が止まってしまっていた。

「?」

気が付いた陸の視線を感じる。

「陸…」
「ん?」
「……あの」

口を開いたはいいが、言葉が上手に繋がらない。
何を言いたくて口を開いたのか……

「俺……ごめんなさい、あの、何て言ったらいいか…。
つまり、その、ノコノコとここ来ちゃったけど、俺、この前貴方にひどいこと…」
「有介」

陸が、千田の言葉を静かに遮った。
優しい、声。

「頼むから、もう謝らないで」
「……でも」
「今回は全部俺が悪い。これは、きっと誰に聞いてもそう答えが返ってくる。あの時の有介の反応は当たり前で、だから追いかけられなかった。俺は自業自得で、自分勝手に傷ついただけなんや」
「……やっぱり、傷ついたんだよね?」
「あ、いや、だからそれは俺が悪いんやって。お前、人が良すぎ。そういうとこ好きやけど、頼むからそんな顔しないで。そんな顔させたくて今日そっち行ったわけでもないし、今ここにつれてきたわけでもない」

そしてそっと、重ねられる手。
そのまま軽く握ってきた陸が、親指の腹で千田の手を撫でた。
どうか分かってくれ、自分を責めないでくれ―――とでも言うように。

「有介がこうしてまた傍に来てくれて、それは俺の努力じゃなくて有介の心の広さのおかげなんや。だから、今回のことは俺の責任ってことで納得してくれないかな」
「………」
「わかったか?」
「……わかった」

念を押されて素直に頷くと、重ねた手を離して千田の頭を笑顔でグリグリ撫でた陸が、

「さ、早く食べるで」

置かれてしまった箸を千田にまた渡して、食事再開を促した。

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