アゲイン 3-5

そうして、いろいろ問題は解決したところで、

「そこでや、有介くん」

陸が、口調を軽くして、ついでに少しいたずらな笑顔になって、ジッと見つめてきた。

「…？はい？」
「今の状況、分かってる？」
「…え？」
「こんなキスして目の前で目ぇ潤まされて、しがみつかれて……お前やったらどう？好きな子にそんなことされて我慢できる？」

まるで教師のような口調で、でも教師は絶対にしたらいけない、陸からの問題定義。
陸の、相手を説き伏せるようなこの口調に千田は勝てないから、当然正直に答えた。

「……たぶん無理、かな」

男なんて、誰だって体と心が直結した動物だ。

「で、意味分かる？」
「…え？」
「分かってないな」

前髪をぐしゃっと掻いて、苦笑いの陸。
でも……

「……分かるよ」

小さく、でもはっきり聞こえるように、千田は告げた。
陸が、ゆっくり顔を上げる。

「分かるよ、俺だって。いくらなんだって、分かる」

この状況、この先に進むであろう状況。
だから―――
こんな自分でいいのなら。
どうか……

「有介」

陸が優しく、千田の髪を撫でる。
片方の手は、繋いだままで。

「無理だけはすんなよ」
「え？」
「俺が何もアクション起こさないことで不安になったとして、その問題が解決して、じゃあどうするかはまた別問題や。
お前が嫌なことは絶対にしない。約束する。だから、無理せず、正直に言ってかまわな…」
「無理なんてしてない」

食い気味に、千田ははっきりと断言した。
大事なところでしり込みするなんて、陸らしくない。
でもそれが、自分のためを思ってのことなら……

「無理なんてしてない。陸が相手なら、自分の立場も気にしないし」
「自分で言うてること分かってる？」
「分かってますけど」
「キレんなや。でもお前、たぶん経験したことない立場やと…」
「大丈夫、分かってる」

陸が立場的にどちらを望んでいるのかなんて、千田にだって分かっている。
そして不思議と千田も、自然の流れで自分はそうだろうと思っていたのだ。

「俺はいいと言ったし、覚悟はできてる。これ以上言うことはない。だから、後は貴方次第だ。
今から家に帰れば、風呂に入って夜食つけても８時間たっぷり眠れる。この時間なら道路だって空いて……」

突然、繋いだ手が、強く引かれた。

「あ―――っ」

そのまま立ち上がらされて、千田は陸に連れられて部屋を出る。


向かった先は―――寝室。


手を引く勢いでベッドの上に半ば放られて。

「りく…」
「帰すもんか」
「え……あっ！」

ベッドの上に乗り上げてきた陸に、あっというまに組み伏せられたと思ったら。
息も出来ないほどの激しさで、唇を塞がれていた。


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