「Engagement(直×大)」
前編:ジレンマ

Engagement 前編-2

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直希に続いて大河もシャワーに入っている間にご飯が炊け、2人はローテーブルに並んで夕飯を摂る。

「俺もダイニングテーブル買おうかな。スペースはじゅうぶんあるんだし」

今日のようにおかずが多いとだいぶがいっぱいいっぱいなテーブルに、直希は苦笑いを漏らした。

「そうやな。ハトリ近いし、見てみたら?」
「"お値段以上"のハトリ?」
「"お値段どおり"のモンもあるけどな」
「ハハっ」
「社長連れていけば買ってくれるできっと」
「アハハっ、マジかぁ」

いいこと聞いた、と直希が笑うと、

「お前、そういうの得意やろ」

大河も笑いながらそうつついてくる。
おねだり上手な大河とはまたタイプの違う、タカり上手なのが直希。先輩との食事には財布すら持たない"大物"で有名だ。
サラリと堂々とタカってくるから、相手はタカられていることすら気付かない。大河も以前は、何度もこの手口にやられている。
だからこのときも直希は、"それもアリっちゃアリか"と一瞬思ったのだが、

「俺は大河連れていきたいから、自腹でいいや」

こっちの方が段違いで楽しいからと、笑顔でそう言った。

「一緒に選んでよ。この休み中に付き合ってよ」

彼と家具を選ぶなんていう機会を逃すわけにはいかなくて、さりげなく約束をとりつけてみる。
じつは自分は、大河と家具を選びに行ったことがないと気付いたのだ。一人暮らしを始めたときはお金もなかったので、先輩たちから譲り受けた物や実家の自分の部屋にあるもので揃えて済ませていたのだから。
とはいえ、この特別感なんてきっと大河には伝わらないだろうから、直希はその楽しみは自分の心の中だけにしまって、

「ハトリで、"お値段以上"のもの選んで」

適当な理由をつけてニッと笑えば、

「うん、ええよ」

やっぱり何も分かっていなそうな大河が、笑いながらあっさり頷いた。

「社長じゃなくてホンマにええのかぁ?」
「社長は、もうちょっと高価なもの欲しいときに連れて行く。時計とか」
「コラコラ」
「アハハ」

彼と交わす、約束の数々。
そのひとつひとつが確実に果たされていくたびに、また新しい約束を交わして。

「そういえば日曜日の花火大会、けっこう豪華そうだよ」
「ああ、あの河川敷のか?俺、間近で花火って、たぶん中学のときに地元で見たのが最後かも」
「俺も、高校の時に行ったのが最後かも。大人になってからは見てないわ、確かに」
「楽しみやなぁ」

まずは2日後の約束を2人で相談しながら、そして相変わらずちょいちょい脱線させながら、狭いテーブルで肩と脚をくっつけあって食事を摂った。





8月13日。土曜日。
明け方から振り出した雨が、べランダを打ち付けている。その音がだいぶ大きくなってきていることで、ソファでコーヒーを飲んでいた直希は、思わずベランダへと顔を向けた。
今日は自分も仕事は昼過ぎからだし、昼食がてら大河を近くの公園まで連れ出して、帰りはかき氷でも買ってやろうと思っていたが、これじゃ無理だ。
その大河は、昨夜食事が終わった直後に眠ってしまい、そのまままだ起きてこない。ぐっすり眠ってしまっているようだ。
本当に疲れているんだなと思いながら、直希は先に自分が食べたトーストの皿とマグカップを持ってキッチンへと立った。
昨日片付けなかった皿とまとめて洗っていると、ガチャリとドアが開く。

「あ、おはよう大河」

いつの間に顔だけは洗ってきたのか前髪が少し濡れている大河に、直希は笑顔で声をかけた。

「ちょうど起こそうと思ってたんだ。大河もトースト食べる?」

よく眠って腹が減ったのではないかと、そう問うが、

「……いや、ええわ」

大河は静かに首を横に振った。
その声と笑顔が、なんとなく頼りなくて。
しかし寝起きだからなのだろうかと、

「あ、じゃあ、ヨーグルトとバナナとかにしとく?」

そう続けるが、

「……今日は、何も要らん」

大河はやっぱり微妙な笑顔のまま、首を横に振った。

「どうかした?」

立ち尽くす彼に心配になって、直希は洗い物を止めて手を拭き、近づく。
すると大河が、遠慮がちに見上げてきて。

「直希、ごめん」

寝起きとはまた違う、ぼんやりとした口調でそう言った。
そして俯いてしまった大河の様子に、

「ん?どうかした?」

心配になって、直希は彼の肩に手を置き、その顔を覗き込んだ。

「けっこう前に目は覚めたんやけど、なんかだるくて、起きるの億劫で」
「うん」
「眠いだけかと思って少し眠ってたら、なんか……」
「あ。風邪引いた?」
「……そんな気がする」

申し訳無さそうに視線を揺らしながら答える大河は、確かに顔色が優れない。目の淵も、ほんのり赤い気がする。

「熱測った?」

そう言いながら直希が大河の額に手をやると、高熱というほどではないかもしれないがそれなりに熱もありそうだ。そもそも大河がこんな風に弱った姿をみせるということは、そこそこ辛いのだろうから、

「念のため、病院行こうか。俺つれてってやるよ。今日は時間あるし」

本人が行かないと言ってもつれていくつもりでそう提案すれば、

「ごめん…」

またもやその言葉を呟いた大河は、軽く咳をしながら完全に俯いてしまった。
その意味はいまいち直希には分からなかったが、きっと大河のことだろうから、自分に迷惑をかけているとかそんなところだろうとすぐに察した。
せっかくこうして一緒に過ごしているのに、食事して寝まくった挙句、2日目にしてダウンするなんて、と。そんな風に思って落ち込んでいるに違いないと。
だから直希は、

「何言ってんの。俺と一緒でよかったよ。大河一人だと病院なんて行かないだろ」

安心させるように頭を撫でてやった。しかしまだ大河は表情を曇らせたままで、眉をよせている始末だ。
一体何をそんなに気にするのかと直希は不思議に思ったものの、このまま突っ立ったままにさせてるわけにはいかないから、

「ほら。着替えもってきてやるから、とりあえずあっちで熱測ってて。それから、水分ぐらいは摂らないと」

大河をソファに促し、途中になっている食器洗いはそのままに寝室へ着替えを取りに向かった。

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