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「Engagement(直×大)」
前編:ジレンマ

Engagement 前編-5

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仕事を終えて直希が帰宅したのは、23時近かった。
そっと寝室を開けると、大河は起きていたのかすぐに顔を向けてくる。

「ごめん。起こした?」

近づいた直希は、ベッドに腰掛けて頭を撫でてやる。額に手をやると、熱がまた少し上がったように思えた。まあ、風邪というのは時にそんなものだ。微熱で終わることもあれば、一度ピークまで上がってから下がっていくこともある。

「水、ちゃんと飲んでた?」
「うん」
「メシは?冷蔵庫入れといたやつ食った?」
「う~ん……」
「ま、無理して食わなくてもいいや」

同じ2文字の言葉でも面白いほど分かりやすい答え方に直希は笑い、大河の汗ばんだ額にはりついた髪をよけてやる。
すると、ぼんやりとされるがままになっていた大河が、直希に向かって何か話しかけてきていて。

「ん?どうした?」

直希が耳を近づけてやれば、

「ごめん……」

小さく、そんな声が聞こえた。
やっぱり、謝ってきた。

「ねえ大河、何でそんなに謝るの?何も悪くないだろ」

コンコンと咳をしながら謝ってくる大河を制するように、直希は笑いながら頭を撫でてやるが。
大河は、"違う"とでも言うように首を横にゆっくり振って。

「……く」
「え?」
「……やくそく」
「約束?」

その言葉を繰り返す意味が分からず、直希も鸚鵡返しで答えると、

「はなび……」

大河がそう言ったのが聞こえて。
それで直希も、大河が何を言いたいのか、朝から何を謝っていたのかを理解した。

『お前に対して何か後ろめたい気持ちがあって、それが原因かどうかは知らんけど自分自身でも苛立つことがあったんちゃう?』

実の言った通りだ。

「なおき…」
「大河」
「ごめん……はなび…」
「大河、もう…」
「やくそく…」
「いいから」

一生懸命繰り返す大河に、切なくて胸がいっぱいになった直希は、人差し指で彼の口に軽く触れた。

「大河のせいじゃないんだから、な?」

大河が、律儀に約束を守る男であることはじゅうぶん分かっているが、こんなに責任を感じる必要はどこにもないのだ。
だいたい、

「大河が軽く済んだって事の方が、もっと大事なことだから」

一緒に過ごしていたことで迅速に対応してやれた、今回の事態。自分を頼ってくれた大河。そのことの方が、直希には何倍も価値がある。あんな約束は、約束とはいえないほどのものだ。
花火もダイニングテーブルも、直希にとっては、そんな約束どうだっていい。

「それより汗掻いただろ。タオルと着替えもってくるよ。それで、少しでいいからメシ食おう。大河が早く元気になってくれればそれが一番だよ」

懸念も何もないよと頭を撫でてやれば、やっと納得したのか、大河は安心したように目を閉じた。


とはいえ―――である。


律儀な大河が、この"約束の反故"の責任から、本当に解放されているとも思えず。
そういうところの融通が利かないことは、直希はよく知っているので。

「あ、大河起きてるね。よかったよかった」

翌日。約束(していた)花火大会の日。
岡本から話を聞きつけてさっそく見舞いにやってきた拓郎をようやく追い返すことに成功した直希は、手っ取り早く夕飯の食器を片付けると、スマホをかざしながら寝室に戻ってきた。
ちなみに、大河が長期のオフを寝て終わってしまいそうだという残念な事実は、拓郎によってユニット全員に知れ渡ったらしく。おかげで大河のスマホは、彼らからのメッセージでいっぱいだ。その殆どが『ご愁傷様』とか『直希に看病してもらえよ~』とか、適当なものばかりだが。唯一本気で心配そうなメッセージをくれたのは千田ぐらいだ。

「ちょっとだけさ、まだ起きてられそう?」

いまだ熱も症状も大して和らいではいない大河がぼんやりと視線を動かしたのを確認して、直希は彼の脇に座って覗き込む。

「うん…今は眠くないで」

薄く微笑んだ大河が、そのまま体を起こそうとするから、直希は素早く彼の隣に座って、その肩を抱いてやる。
壁にクッションを当ててやって大河を寄りかからせてやると、

「大河。いいもの見せてあげる」

そう言って、スマホの画面を横にして目の前に掲げ、画面を再生した。

「……あ」

大河の顔が、力はなくても輝いたのが分かって。
直希も、

「おぉ、やっぱすごいね」

そこに流れる映像に、思わずそう感想を漏らす。

「ホントすげぇよな、花火師さんて」

空を彩るその美しさは、映像で見ても圧巻だ。
そう。
直希が大河と見ているのは、2人が"行こう"と約束していた花火大会の動画。
大河に見せてやろうかとSNSで探していたところ、リアルタイム配信されているこの動画を発見したのだ。

「ね、大河。見れてるよ」

ジッと画面を見つめる彼の頭を抱き寄せて、いまだ熱いその額にキスを落とす。
すると大河も、こちらを向いてきたので、

「約束、ちゃんと守れてるじゃん」

こうして一緒に見れているだろうと、頭を撫でてやった。
そんな直希を、大河はキョトンと見上げていたが。
やがて、微かに笑って。

「そうやね」

素直に頷く。

「ありがとう直希」

直希に逆に気を遣わせてしまったことを申し訳なく思いつつも、ここは"ごめん"よりもそっちの言葉の方が合いそうだと感じて、大河はそう言った。
そうすれば案の定、直希は嬉しそうに笑って、今度は頬に軽くキスをくれた。
それから少しの間2人は黙って見ていたが、大河から寝息が聞こえたのを確認すると、直希はその画面を閉じた。

「大河、今度は本物見に行こうね」

大河の寝顔を眺めながら、直希はそう呟く。

「約束だよ?」

彼と一緒なら、果たされない約束などきっとない。そんなもの、あってはいけない。
そんな思いとともに、彼の胸元で光るリングに触れた。


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