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「一時停止(直×大)」
前編:一時停止

一時停止 前編-3

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一時停止 前編-3

「あ~~もぉ~~、二度目はぜってぇぇ無いからなぁ」

車の中で天野からもらった菓子パンをかじりながら、直希は相変わらず文句タラタラでルームミラーの天野を睨みつけた。

「わかってるよ。俺もそれなりに強めには言っておいたから」

恩のある会社とはいえ、今回のことはさすがに大迷惑だしナメられても困るから言うべきことは言ったと、運転席の天野が苦笑いをしながら答える。

「せっっかく大河と幸せな朝のひと時を過ごす予定だったのにさ」
「幸せ?いかがわしいの間違いだろ」
「いかがわしさも幸せのひとつなんだよ」
「……(ダメだコイツ)」

仲間やマネージャー陣など、関係を知られた相手にはすっかりオープンな直希のその返しに、天野は溜め息を隠せない。このままでは、15分じゃシャワーしか浴びれないとゴネた直希の言葉の意味も理解できてしまいそうだし、そもそも彼がどこで自分の電話を取っていたのかというのも想像できてしまいそうだから。

「ていうか直希、その仏頂面、ヤンキー丸出しだぞ。笑顔笑顔」

朝には似合わないその考えをかき消すように、そろそろ現場にも着くからと天野は仕事モードへの切り替えを促した。
今日の収録は、音楽絡みとはいえバラエティ色の強い番組だ。直希に求められるのは、その爽やかな笑顔とノリの良さ、そして紳士な対応。要は、今とは真逆の姿なわけで。

「不貞腐れたまま一時停止しちゃってる顔、どうにかしろよ~」

直希のプロ意識の高さは知っている分そこまで心配していないのか、天野が軽く笑いながらそう窘める。すると直希はまだ少し口を尖らせながらも、「わかってるよ」と呟いた。

「一時停止、かぁ…」

それは顔だけじゃなくていろいろ一時停止中なんですけどね、と内心文句をつけながら、直希は窓の外を眺める。そこには確かに、不満だらけの自分の顔がうっすらと映っていた。

―――不満つうか欲求不満っつうか…

そもそも今日はいったい何時までスタジオに居ることになるのだろうと、続きは一体いつになったらできるのかと、まさか日付変わったりしないだろうなと。朝っぱらにも関わらず、やっぱりそんなことを考え続けてしまう。
それもこれも、あんな場面で中断を食らったからだ、と直希は思った。こんなにいつまでも悶々としてしまうのは、せっかくいい具合に出来上がった大河を目の前で取り上げられるようなマネをされたから。

―――しかも一人ぼっちにさせるとかさぁ…

かといって、あんな状態の大河の傍に誰かが居ても、それはそれで困るが。
……と、そこまえ考えて。

「……ん?」

直希はふと、あることに気づいた。

「そうか…大河もだ…」
「ん?どした?直希」
「大河もだっ!!」

ハッとして、シートに預けていた体を起こす。

「直希!?え、何?」

いきなり大声を出されて、何か忘れ物でもしたのかと天野が表情を強張らせた。
しかし直希は、そんなことは気にせず、

「そうだ。一時停止……」

ぶつぶつと繰り返しながら、自分の世界に浸っていて。
直希が思い浮かべるのは、去り際に見た大河の表情。自分が(欲求)不満顔で一時停止しているならば、大河だってきっとあの表情のままの可能性が高い。いくら大河が切り替えの早い人間だといったって、本能というやつには逆らえないだろう。
ということは、あんな顔と雰囲気を、他人に見られるということだ。
自分にとっては一大事の事態に、慌てて直希は、大河と昨日スタジオで交わした会話を思い出す。

―――えっと、今日は確か、スタジオだけって言ってたよな…

彼は今日は、昼過ぎにスタジオに行ったらそのままずっと籠るはずだと。
となれば、会う人間も限られている。馴染みのサポートスタッフとマネージャー陣ぐらいだ。

「とりあえずまだマシか…」

誰にも見られたくないのが本音だが、それはもうどうしようもない。

「でも夕方までとか…ちょっとなぁ~」

そもそも自分だって、大河の顔を見た瞬間に朝のことを思い出してしまう自信がある。そうしたら、落ち着いて仕事できるだろうか怪しいものだ。

「くっそぉぉ」

自分が朝っぱらから盛ったりしなけりゃ何も問題はなかった、ということには直希は気付かず、タイミングと運の悪さと先方のミスだけを呪っていた。





都内某所。
レコーディングスタジオ。

「大河、本当に悪かったな」

スタジオに到着した大河に、高瀬が真っ先にそう声をかけてきた。

「ああ、ええよええよ。ハルと歩から何となく話は聞いてたし」

不満たらったらの直希と違っていつもの笑顔を見せた大河は、自分たち以外にまだ誰もいないスタジオのテーブルに着き、さっさと荷物を広げていく。

「正式に話が来たら引き受けようって実とも話してて、多少は準備しとったから」
「そうなんだ、頼もしいな。さっき向こうに返事したらさ、すごい喜んでたよ」

2人が話しているのは、StarMine(春海と栗原が組むデュオ)の新作アルバムへの楽曲提供の件。
2曲分の依頼を受けていた大河と実は、自分たちのレコーディングと重ならないように早めに準備をしていた。
しかしその後、春海と栗原の希望とプロデューサーの意見が一致し、アルバム収録曲の半数となる6曲で改めて依頼がきたのだ。
そこで高瀬は実のマネージャー・湯浅と連絡を取り合い、それぞれ本人たちに確認をすべく電話をかけた。それが先ほどの電話だった。

「実がな、追加で2曲分はもう作ってあって。俺もだいたいは歌詞が出来てるから、今日デモテープ作れると思うよ」

元々依頼を受けていた2曲を作った際、ギリギリまで候補にあがっていたそれは、春海と栗原から"近いうち必ず話が行くから"という連絡をもらってすぐに、実が手直しして大河に渡してあったのだ。
大河もまた、ボツにするには勿体なさすぎるそれを自分たちの曲にしようかと歌詞を考えていたところだったので、大体のイメージはできている。サポートスタッフたちや実が来るまでには、ある程度完成しているはずだ。
そもそも今日の自分は、いろいろ事情があって頭がモヤモヤしている。少し暗めのイメージがあるこの2曲を作るには、ちょうどいいかもしれない。

「高ちゃん、事務所の仕事あるなら戻って大丈夫やで。俺、一人でも平気やし」
「大丈夫だよ。俺も大河の前で仕事してるから」

何かとやかましい事務所より寧ろ仕事がはかどると、ノートパソコンをディスクに置いて高瀬が笑った。

「だから、コーヒーでも栄養ドリンクでも食いモンでも、欲しかったら何でも言いな。買ってきてやるよ」

突発的な仕事を頑張る大河にはご褒美だ、と。
そんな高瀬の優しい笑顔に、大河も自然と笑顔になる。すると不意に高瀬が小首をかしげた。

「それにしても大河、何か今日、ちょっと雰囲気違うな」
「え?」

さすがは10年の付き合い。鋭い高瀬に、大河は思わずギクリとした。
しかしそれは、ちゃんと家を出る前に切り替えてきたはず。そう言い聞かせ、平然を装って高瀬に視線を返すと、

「何かだるそうっていうか、フワッとしてるっていうか…。昨日遅かったから寝不足?」

鋭いながらも、大河にとってはありがたい言葉が付け足されたので、

「あ~そうかもなぁ。ほとんど寝てへんし。アハハ…」

完全にそこに乗っかることにして、誤魔化した。


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