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「一時停止(直×大)」
中編:停止中

一時停止 中編-1

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【中編:停止中】

「えーっと…、大河さん、デモ用の歌録りしてんスよね?」

午後、スタジオに現れたスタッフの一人が、高瀬にそう声をかけた。
彼らの視線の先に居るのは、レコーディングブースで歌う大河だ。
StarMineへの提供曲がとりあえず1曲分だけほぼ出来たからと、大河がデモ曲に仮歌を入れ出したのが、ちょうどサポートスタッフたちがスタジオ入りし始めた頃のこと。まだ時間もあるからと、スタッフは大河の歌入れを楽しげに見始めたのだが、やがて彼らには若干の戸惑いの色が見え始めたのだ。それは、今高瀬に声をかけたスタッフだけではなく、その場にいた誰もが。

「感情が入っちゃってるのか何なのかは分からないけど…、なんか、いつもと違いますよね?」

大河は、楽曲提供用のデモ曲の場合、歌入れは敢えて淡々と歌う。仮歌に感情を込めてしまうと、歌い手側がやり辛くなるだろうと考えているからだ。相手に合わせて作った曲なのに、自分たちのイメージを入れてしまっては意味が無いと。
デモ曲に大事なのは、音程を正しく取ることと歌い方のクセを除外すること。だから大河は、提供曲の仮歌は、ただ上手に歌うことに専念しているのだが。
今日の彼は、何だか妙に不思議な空気を纏わせていて。許されぬ恋に身を焦がす男を歌ったらしきこの曲を、追い詰められた雰囲気全開で歌いきろうとしている。
それは、要は、

「なんか…若干、エロいすね」

ということで。
高瀬に話しかけたそのスタッフの言葉に、すぐ近くにいたスタッフも反応して、

「ちょっと、ドキドキしちゃうよね?」

少し頬を赤らめながら、そう笑った。
そしてその反応は、残りのスタッフも然り。惚れ惚れしているのは、決して大河の歌唱力だけにでは無い。
そんな彼らに囲まれながら、高瀬は全てを曖昧な苦笑いで返してやると、ブースの大河に視線を戻し、

「どこが寝不足っすか?大河く~ん…」

思わず、ボソリとそう呟いた。
そのうちに歌入れが終わったらしくブースから戻ってきた大河は、ポカンとしているスタッフには気付かず、何やら首を傾げてブツブツと独り言を繰り返している。実際に歌ってみて、歌詞の一部がしっくりとこなかったのだ。

「ん~、もっと別の言い方、無いかなぁ…」

歌詞を打ちこんだタブレットを眺めながら、再びノートも出して、別の表現方法となるフレーズを走り書きする。そのまま煮詰まることもある大河だが、今回はすぐに思い浮かんだのか、ピンときた目をするとさっさと書き直して。

「よし。これならええわ」

満足そうに完成した歌詞を見直すと、また立ち上がり、

「ごめん、もう一回録り直させて」

スタッフらにそう断りを入れてから、ブースに戻った。
そしてまた、メロディに合わせて歌い出す。
そんな一連の流れも、そして歌っている彼も、やっぱり独特な雰囲気で。スタッフが惚けるのも、変わらない。
するとそこへ―――

「おはようございます」

軽いノック音の後にドアが開き、実が現れた。
実は、自分に気付いて軽く手を上げてくれた高瀬に同じ仕草を返し、ブースの大河を見遣る。メロディからしてそれがStarMineへの曲だろうとすぐに気付き、歌詞に意識を向けながら歩き出したのだが、

「……ん?」

実もまた、何かいつもと違うことに気付いて、またブースに目を向けた。
そしてそのまま、自分がいる部屋を見回す。

「……何や、このエロい空気は」





都内某所。撮影スタジオ。
テープチェンジ中、前室のテーブルに腰を下ろした直希は、大河にメッセージを打とうとスマホを手にした。
しかし、

「鈴野君、お疲れ様♪」

媚びたような高い声と香水の香りが、邪魔に入る。
その声に直希は内心げんなりしながらも、思わず舌打ちしかけた自分を制して顔を向け、

「どうも。お疲れ様です」

笑顔までつけてやる。
すると彼女は、そのまま当然のように隣に腰かけてきた。

―――あ~、またか…

美人タレントで知られる彼女との共演は何度かあるが、その度にこうして距離を詰めようとしてくる。大して親しくもないのに、親しげに。
陸も実も彼女と共演した際に同じ手口を使われたようだが、『下品な女は嫌いや』と声を揃えていた。そして彼らの場合は、興味のない相手にはあからさまに表面的な対応をするので、相手としてもすぐに手を引くのだが。ヤンキー顔とヤンキー口調を併せ持つ直希の場合、そこまであからさまにやってしまうと相手を泣かせてしまいかねいので、

「隣、いい?」

座ってから訊く彼女に対しても、「ええまあ」と笑顔で返すしかできない。大河へのメッセージを盗み見でもされたらたまらないからと、仕方なくスマホもポケットに仕舞った。しかし彼女はそれを、自分と会話をするために直希が仕舞ってくれたのだと勘違いして、嬉しそうに顔を輝かせてくる。

「ねえ鈴野君、さっき収録で言ってたけど、千葉の出身なのね」
「え?ああ、そうですね(今さらかよ…)」
「じつはね、私も千葉なの。すごい偶然」
「あ、そうなんすか(居るだろ普通に。タクだって廉だって千葉だよ)」
「ねえ、そろそろ連絡先交換しない?」
「え…いやぁ…(この流れでその話?最初からそれが狙いだろ)」

下品な女は嫌いだ。
いや、たとえ賢く上品であったとしても、大河以外の人間に性的興味などない。
そもそも、彼との連絡を邪魔してくるような人間など。
そしてその彼は、自分が朝"一時停止"を食らわせてしまっているため、色気大爆発で他人の目に晒されているかもしれないというのに。
そう思うと直希は、さっきまでの曖昧な態度をパッと切り替えて、

「すいません、俺、女性との連絡先交換は全部事務所通すことにしてるんです」

咄嗟とはいえ、彼女に対しても失礼の無い、しかしもう二度と個人的に誘われないような理由でまずは断った。するとそこへ、

「あ、直希、ちょっといい?」

タイミングよく、天野が間に入ってくる。
その天野も彼女を見遣り、

「お話し中なのにごめんなさい。ちょっとコイツと打ち合わせしたいんで、連れていきますね」

タレントに負けないほどの爽やかな笑顔と優しい声音でそう言うと、案の定少し顔を赤らめて「ええ、どうぞ」と笑顔を見せた彼女を置いて直希を連れ出していった。

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