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「Hide-and-seek(直×大)」
5:Hide-and-seek

Hide-and-seek 5-1

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【5:Hide-and-seek】

21時20分。

「遅いな…」

部屋のベッドに膝を抱えて座ったまま、直希はスマホの画面を眺めていた。
会場からホテルまでは30分もあれば着くし、そう考えると、大河は1時間以上も残っていることになる。

『ユキと、話をつけに行ったらしいで』

春海から、先ほど電話でそれは聞いていた。
しかし夕飯までには戻ると言ったらしいということも、彼は陸から聞いたと。
ホテルが手配してくれている、夕飯を兼ねた打ち上げは、22時半。

「あと1時間……」

止まらない胸騒ぎがどうか取りこし苦労であってくれと願いながら、直希は抱えた腕に顔を埋めた。





大河は、まだ喫茶スペースに居た。
しかし、すでに深雪は居ない。彼は、もう10分近く前に帰っている。

『俺の地位も名誉も全てをかけて、お前を否定してやるっ』

あの時。そう啖呵を切った自分に、ようやく全てを諦めた彼は、

『もういい』

溜め息混じりにそう言いながら、胸倉を掴む大河の手を振りほどいて。

『だったらいつまでもそうやって、捨てられた相手守ってな。気付かれず踏み潰されるのがオチだ。捨てたモン拾いに来る奴なんて居ないよ』

今度は自分が大河を跳ね除けるように、胸を押しながら自分が立ち上がって。自販機に軽く背中を打った大河を一瞥すると、

『さすがの直希君だって、ゴミ箱に手を入れたりしないんじゃない?』

そう捨て台詞を残して去っていったのだ。

「わかってるわ…」

呟きながら、イスに座って項垂れる。
すると、視界の隅に、床に広がる茶色いシミが映って。2人分のコーヒーと、それから缶が転がっていることにようやく気付いた。

「片付けていけや」

責任者やろ、と悪態をつきながら、大河はまずは缶をゴミ箱に放って。何か拭く紙でもないだろうかとトイレを探したが見当たらず、

「……あ」

その代わりに、"用具倉庫"とネームプレートの入った倉庫らしき部屋を見つけ、足を進めた。
同時に、会場アナウンスが流れ始める。

『あと10分で全館が施錠されます。スタッフの皆さんは、最終点検をお願いします』

どうやらこの場所は、21時半で閉館のようだ。

「やばっ…」

自分が居残って警報機を鳴らすわけにはいかないと、大河は駆け足でその部屋に向かった。



用具倉庫は特に大切なものは入れていないのかそれとも営業時間外だからなのか、幸い鍵は開いていた。
扉を開いて、中に入る。
横着心から電気は点けずに扉をもう一度大きく開いて、すぐ近くにあったドアストッパーで固定し、差し込んできた館内の明かりを頼りに大河は雑巾を探した。

「寒っ……」

室内とは思えない冷たい空気が流れて見上げれば、天井から隙間風が吹いている。そして、館内ではありえなかった、風の音が聞こえて。この倉庫が、外に直結していただけなのだと分かった。
館内に改めて作るのも費用がかかるということだろうか、直結するようにプレハブのようなこの倉庫を作って、扉一枚で繋げただけのつくりに、

「だったら施錠せぇや…」

外から入られたら一発だろうと、大河は思わずツッコミを入れる。外へ繋がる扉はそれなりに強固には思えるが、とはいえ、ここにまで警備がついているとは思えない。営業時間外だからと倉庫の鍵を開けていては、簡単に入られてしまうのではないかと。

しかし。
そのカラクリを、大河はすぐに知ることになる。

会場から漏れるアナウンスが、再び、スタッフの最終チェックと退出を促していて。
早く出よう―――そう焦る気持ちからか、中途半端に挟んだ扉のストッパーが外れ、自分が入ってきた扉が少しずつ閉じかけていることも気づかず……
倉庫の中央ほどで見つけた雑巾などの掃除類一式から、大河はバケツに入った雑巾を一枚抜き取った。そこで初めて、自分の視界が暗くなってきていることに気付いて。

「あ……」

扉が閉まってしまうと、慌てて駆け寄ろうとして、バケツを思い切り蹴飛ばした。

「あ~~」

時間がないときに限って何をしてるんだと、拾おうとした瞬間。
パタン…と。
視界が真っ暗になって、扉が閉まったことを理解した。

仕方なく大河は、ジャケットのポケットからスマホを出して、スマホのライトで行く先を照らす。
こんなことをしている間に閉館になってしまうだろうと、床を汚したままで帰るなんて申し訳ないと、律儀な性格故の自己嫌悪に陥りながらも扉に向かった。
だが……

「あれ?」

ドアノブがない。

「ど、どこや…」

ドア全体を照らしてみても、それらしきものはなく。
そしてふと思いつく、先ほどの懸念。自分が呟いた言葉。

『だったら施錠せぇや…』

そう。
大河が心配したとおり、外から倉庫に入った人間が中に入らないようにと、防犯上、その扉は倉庫内からは開けられないようになっていた。

「嘘やん…」

いやいや、何とかなると。
この状況を受け入れられずに大河はひたすら頭を巡らせて。

「あ、あの…すいませんっ!!」

扉を叩きながら叫ぶものの、応答はない。
そして、

『施錠5分前です』

アナウンスが響く。
焦ってもう一度扉を叩いたが、やはり誰の反応もなかった。5分前だ、居るわけがない。
咄嗟の判断で、電話をかけようと見つめた画面に見えたのは、

"圏外"

絶望的な文字だった。

「マジかよ……」

ドアを背に、ずるずると座り込む。
今日の仙台は最高気温ですら3℃で、日が落ちればさらに下がるだろうと、そういえば朝かけたテレビのお天気キャスターが言っていた。
もちろんここは倉庫で、外気が入るとはいえ、まるっきり外というわけではないが。
ライブ後の汗で冷えた体に、シャツと薄手のジャケットでは、

「寒いな…」

いくらなんでも寒すぎる。暗い部屋で、大河は膝を抱えた。
この部屋は、どれぐらい寒気から守ってくれるだろうか。
朝になれば出られるだろうが、その前に、自分が戻らなければ騒ぎが起きるだろう。でもまさか自分がここに居るなんて誰も思わないはずで、もしかしたら警察沙汰にでもなってしまうかもしれない。
しかし圏外の電波状態では、連絡だってできない。チープな倉庫だとバカにした罰だろうか。ここは電波も入れないほどの厚い壁で仕切られているようだ。

―――どうしていつも俺は…

肝心なところで、いつも失態を犯してしまう自分に、呆れて物も言えない。
やっと、過去とケリをつけたというのに。
それに、彼と、約束をしているのに。
取り戻したものを、彼に返してやらないといけないのに。

「直希……」

抱えた腕に顔を埋めて、大河は思わず呟いた。

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