Hide-and-seek 6-4

「大河、頼むから起きて…」

寒さで硬くなった黒髪を撫で、そしてまた手を包む。
すると、

「……っ…」

大河の喉が、小さく鳴って。
睫毛が、微かに震えた。

「大河！！」

ハッとして直希が、呼びかける。
するとまた大河の睫毛が動いて。
うっすらと、瞼が開かれ……

「…なお…き」

本当に直希が見えているかどうかは定かではないが、条件反射のように、直希の声に応えてくる。

「大河、分かる？」
「……直希、か…？」

ようやく視線を合わせてきた大河が、今度ははっきりと、名前を呼ぶ。だから直希も「うん」と頷きながら、小さく笑いかけてやると、

「直希……！」

弱々しくはあるがしっかりとした口調で、自らも縋りついてきた。

「大丈夫。もう大丈夫だよ、大河」

大河の体をさらに抱き寄せて、温めるように何度も背中を撫でてやる。
すると丁度、先ほどの直希の声を聞きつけた陸と深雪がそれぞれ駆けつけてきて、

「直希っ、居ったか？……大河？！」

直希が抱きしめている人物が大河だと気付いた瞬間、陸が一気にスピードを上げた。深雪も、目を丸くして、慌てて走ってくる。
傍にしゃがみこんだ陸は、大河のその姿に、一気に血相を変えた。

「何で倉庫なんかに…」

ぐるりと見まわしながら呟き、そして凍てつくほどの冷気に息を呑む。

「…つうか、何でこんな寒いねん」

ブルッと身震いをする陸に、直希は自分が知った状況を教えようとしたが、

「外と繋がってるんです、ここ」

代わりに答えたのは、遅れて辿り着いた深雪だった。

「え？」

その言葉にギョッとしながら振り返った陸に、ここが後付けでできた簡易倉庫であることを簡単に説明する。それは、大河が予想した通りの経緯とからくりだった。
深雪の説明を聞いた陸が立ち上がり、扉の内側には確かにノブがないことを確認して、

「閉じ込められてたんか…」

少し奥に入ってからスマホを出してみて、そこが圏外だと分かった。
陸はまた２人の元に戻って、大河の傍にしゃがんだ。そして自分のコートも掛けてやって。

「お前、ずっとここに居ったんか…」

セキュリティに引っかからなかったのも、電話が通じなかったのも、やっと理解できた。大河は恐らく、深雪と別れたあとに何らかの事情でこの部屋に入り、そのまま閉じ込められていたのだと。直希も、それは理解できた。
だが、

「携帯だけが、扉の前に落ちてました」

大河にかけてやっているコートのポケットからそれを出し、陸に見せる。

「扉の前に？」
「はい。だから、電話繋がったんです、さっき。それで気付いたんです、俺」

それが何を意味するのかは分からなかったが、直希があるがままを伝えると、

「落としたんやろ、きっと」

この手じゃ掴めなかったはずだと、陸が大河の手を取る。指先まで紫色になるほど冷え切った手は、感覚などなかったのだろうことが容易にうかがえた。
深雪は、その場に立ち尽くしながら、ただ見つめているしかできなかった。
大河が倉庫に入った目的は分からない。しかしいずれにしろ、自分が彼を置いてその場を去ったことに責任があることは一目瞭然で。スタッフによる控室の見回りが甘かったことも、自分の責任だ。
ならば今自分にできることは何かと、考える。起きてしまった事態を後悔しても何も始まらない。彼らに何をと考えて、

「とりあえず、ここを出ましょう」

まずはそれが先決だと、陸と直希を促した。

「僕の車で、病院に…」

念のため医者に診せた方がいいのではと、そう提案したのだが。

「い、嫌や。そんなことするな…」

大河が、頼りない声で必死に拒否してきた。

「でも、お前…」
「大丈夫やから…」

頼むからこれ以上大ごとにししないでくれと、大河が縋るように深雪に訴える。
陸と直希としても、本心は深雪の考えに従いたいところだったが。大河の気持ちも分かる気がして、困ったように互いに顔を見合わせた。
しかしいずれにしても、とりあえずここは出るべきだとは思うから、

「それは様子見て考えることにしよう。大河、立てるか？」

陸は大河の腕を引いてやり、そう提案する。直希もそれに同意し、大河の体を支えて、半ば抱き上げるようにして立ち上がらせた。