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「★パンドラの箱(三角関係)【連載中】」
4:コワレモノ

パンドラの箱 4-3

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その後の稽古は、大河の手助けもあって、直希もそれなりに卒なくやりとげた。
頭からすっぽり抜けがちな段取りが減るにつれ、焦りも消えて。思わず動きを忘れそうになったり判断力を失えば、大河がその都度自然な流れの中で指示をくれるから、それが積み重なれば本来の感覚が戻ってくる。

「ええやん、その調子」

合間を見てはそんな風にこっそり声をかけてくれる大河に、仲間も同調してくれる。そうすれば自然に直希にも笑顔が出て、大河の言うとおり、流れは好循環へと転じていく。稽古の終盤では、監督も安心したように頷きながら見守ってくれ、ハラハラして立っていた陸も落ち着いた様子で頷いていた。

「完璧とはいかないけど、まあ、いいだろう」

稽古の後、仲間と共に着替えへ向かおうとする直希を呼びつけてそう言った監督は、

「大河に救われたな。お礼にメシでも奢ったら?」

やっと穏やかな笑みを浮かべて、直希の肩に手を置く。

「来てくれたらいくらでも奢りますけどね……」

曖昧にそんなことを思わず言って苦笑いをすれば、傍に居た陸が、不思議そうに首を傾げていた。




着替えていた大河は、シャワーを浴びに行こうとする実に気づき、慌てて追いかけた。

「実、ちょっと待って」
「ん?どうした?一緒に行くか?」

それなら、汗だくだからお前も早く来いと、腕を掴んでくる。
だが大河は首を横に振ると、逆に実の腕を引いてスペースの隅へと移動した。

「どうした大河」
「あの、今日なんやけど」
「ん?おお」
「実、先帰ってくれへん?」
「え?」
「俺、ちょっと残っていくから」

そう告げれば、実もすぐに気づいたのか、小さく眉を寄せた。

「何で?」

嗜めるような視線で、敢えて理由を問う。
するとそこへ、監督と話を終えた直希が入って来た。

「直希っ」

実の影からヒョイと顔を動かした大河が、呼びかける。その言葉で実も振り返り、呼ばれた男を見た。
直希は、隅でコソコソ話すその2人に一瞬眉を寄せたが、

「お前、まだそこに居ろ。ええな」

大河にそう言いつけられれば、素直に「うん」と返事はしてきた。しかしまだ、直希が視線を外すことはしない。ジッと、2人を…というよりは実を見ている。そして実もまた、直希を無言で見返した。
そんな2人の静かな火花をかき消すように、大河が実の腕を揺らして。それすら直希は、目を逸らしてしまいたいほどの感覚に襲われたのだが、すでに実の影に戻ってしまった大河はそれには気づくことはなく、

「居残りや」

アイツの、と直希を指差して、実を見上げる。

「あんなグダグダなことしとったら、話にならん。これだけじゃなくて、ラジオでも番組収録でも、アイツのミスは増えてるし。ここで一回、気持ち切り替えさせんと」

自分たちの居ない別の現場で大きな問題を起こす前に気を引き締めさせるべきだと、真剣な顔で伝えた。

「終わったら連絡する。タクシーで帰るし、夕飯も、実と一緒に食うから待ってて」

今だ実の部屋に帰っている以上、直希に送らせて居場所を知られるようなヘマはしない。直希と距離を置くために実の部屋に帰っているのだから。
そもそも大河だって、直希の車に乗る気も、彼と楽しく食事ができる気も、ない。

「何なら俺が作るから、リクエスト決まったらメールとかくれれば、材料買って帰るよ」

心配させて部屋に置いてもらっているお礼だと、大河が微笑む。
大河に"ダメだ"ということは、実には簡単だ。
しかしそれでは、彼の自由を縛るだけ。不安だからと閉じ込めるのは、直希がしていたことと変わりはない。
だからここは彼を信じるべきだろうと、実は思った。

「わかった。そしたら、エビチリと何かサラダ系がええわ」

ニッと笑って、そう答えてやる。
すると大河もまたパッと笑って。

「オッケ!じゃあ、ご飯だけ炊いといてな」

そこはちゃっかりと仕事を与えて、腕をパンパン叩いてきた。
使えるモンは使うのかと呆れながら、実は大河の頭を撫でて、去って行く。すれ違う瞬間、直希から何とも言えない視線を感じたが、無視を決め込んで。

実が稽古場を出てからも、直希はしばらくドアを見つめていた。
会話の内容までは分からなかったが、至近距離で見つめ合う2人の空気は独特で。直希を引き止めたことに恐らく難色を示していたであろう実だったのに、大河と少し会話を交わした後は、優しい笑顔で去って行った。
2人に何かが起きてしまったのではないかと思えば、胸騒ぎは止まらない。そんな権利は無いと知っていても、この2週間大河との交流を完全に閉ざされているとなれば、仕事で会う度に変化しているようにも見える2人の距離から目が離せない。

「何ボケッとしとんねん。行くで」

立ち尽くす直希の傍にいつのまにか近づいていた大河が、ジャージのポケットに手を突っ込んだまま見上げてきた。

「お前の出番だけ抜き出して、全部やり直し」
「え…」
「この部屋、あと2時間は使えるはずやから」
「に、にじかん…」
「何や、3時間に延長させてもらうか?」
「さんじっ…」
「お。ひっさびさの説教部屋。ご愁傷さま~~直希」

自分たちの会話を聞きつけた拓郎が、楽しそうに笑って入ってきた。

「でもここ最近のお前じゃ、しょうがないよな?」

イベント間近にスランプは勘弁してくれと、冗談まじりに正論を言ってくる。
それに、これまでの直希なら自ら大河に居残りを依頼することも多かった。相手をする大河の方が『マジかぁ~』と怯えることもあるほど。それぐらいに直希は常に熱心に取り組んでいたし、ユニットでもバンドでも実力の遅れを克服するためには努力を怠らなかった。
それが、大河に言われるまで腰を上げないほどに何やら注意力が散漫になっているとなれば、周りだって心配する。2週間前の稽古まではほぼ完璧に近いほどの状態で、ミスをする仲間をフォローする余裕すらあった直希が、ガラリと変わってしまったのだから。

「お前が出来なきゃ大河だって帰れないんだからな?2時間も。気合だぞ、気合」

あれ、3時間だったか?と笑いながら、拓郎は他の仲間たちと共にシャワーへと向かっていく。ユニットにだって相当迷惑がかかっているにも関わらず、こうして明るく見守ってくれる仲間たちが、直希にはありがたい。
しかし一番感謝しているのは、やっぱり……

「もし納得いくまでとことんやりたいとか、パフォーマンスの確認したいとかなら、ホンマに3時間でもええで。付き合うから」

そうやって何でもない顔をして寄り添ってくれる、この人。
自分の一番近くで、自分の可能性を信じて、そして一緒に悩んでくれる。
しかし、その大河がポケットに手を突っ込んだまま一切自分に触れてこないことは、今までとは違うが。
稽古中には何度か触れてくれた彼の手が、一切自分に伸びてこないことが、変わってしまった彼との関係を示している。
彼が触れなくなった自分の体は、どんなに汗を掻いても冷え切っているようにも思えて。

「大河」

さっさと着替えスペースを出て行こうとする彼を直希も追い、少しだけ後ろを歩く。隣に並ぶことすら許されないだろうかと、自分で気遣って自分で心が痛んだ。
大河の白い首筋のラインは、直希のお気に入りだった。だから指でも唇でも何度でも撫でると、気持ちよさそうに息を漏らしてくる彼が美しくて。
そもそも、大河の体で嫌いな部分なんて無い。自分が触れれば体を熱くする彼が、たまらなく愛しかった。
変わらない、メンバーとしての距離。それだけが今の直希にとって唯一の頼みの綱であり、現実を痛感させる残酷な距離でもあって。

「ありがとう」

どんな言葉なら彼はあの笑顔をくれるのかと、肩を叩いてくれるだろうかと、遠慮がちにそう声をかければ、

「お前、ずいぶんしおらしいやんか。どうしたん」

振り返って笑った大河は、やっぱり直希には触れてこなかった。
隣に来いとも、言ってはくれなかった。

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