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「★パンドラの箱(三角関係)【連載中】」
4:コワレモノ

パンドラの箱 4-4

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大河は、背後から自分を窺うようについてくる直希に気づきながらも、特に彼に声をかけることはしなかった。彼を横に並ばせないことも、彼に触れないことも、意図的だ。
直希はもう終わった相手で、もう相棒にも戻れなくて、今はただのメンバーなのだからとはいえ、この距離感の不自然さはよく分かっている。こんな風に逃げる自分が、本当は嫌だと思う。
しかしこの距離を少しでも縮めてしまえば、自分はきっと彼の口車に乗せられると感じるのだ。そのぐらいには、この男への未練は残っている。
裏切られても、あんな可能性ゼロの言葉をつきつけられても、割り切れない自分が情けない。
救いようの無い奴だと、自分に害のある奴だと判断すればバッサリ切り捨てられるはずの自分が、彼のことだけはどうしても切れない。相棒というかけがえのない存在だったからこそ、何もかもを捨てる勇気が、まだ出てこない。
彼とは同じことの繰り返しだと分かっていても、尚―――

そんな自分に、逃げ道をくれた人。
彼が居たから、自分はこうして、直希に流されることなく済んでいるともいえる。

『心の整理をしながら、俺とのことを少しずつ考えてくれればええよ』
『下手な無理強いはしない。お前の意思を尊重する。2人でゆっくり、始めてみいひんか?』

彼と…実と、向き合っていきたいと、大河は思う。
今までずっと見守ってくれていた彼から打ち明けられた好意は、もったいないと思うと同時に、素直に嬉しいとも思う。彼のような人にあんな風に想われるなんて、どう考えたって最高の幸せなのだろうとも。誠実に、穏やかに自分を想ってくれている実となら、きっと傷つくこともないだろう。
だが、彼の気持ちを振り回したり利用することなど、絶対にしたくない。自分も彼を好きになりたいと思う。
そのためには、まだ、直希との間に多少不自然でも壁が必要なのだ。
愚かで諦めの悪い自分は、優しくて誠実な実よりも、身勝手で不誠実な直希に、傾いてしまうから―――

「じゃあさっそく、オープニングの部分からいくで?」

ステージ上でのスイッチに切り替えた大河は、イベントの台本を開くと、直希を真っ直ぐ見てそう言った。



2人きりの居残り練習は、楽しいイベントの稽古とは思えないほど、いや、客を楽しませるためのイベントだからこそ、大河の厳しい言葉が飛んだ。

「お前、また誤魔化したやろ。誤魔化すぐらいなら動くな。動きたいなら考えろ」

段取りを忘れる度に有耶無耶にしようとする直希に、鋭く大河が突っ込んで。

「うん、ええやん。ちゃんと出来るやんか」

たとえ間違えても自分でしっかりカバーできれば、そうやって笑顔で褒めてくれる。
この、大河の飴と鞭は、大河が直希の性格を理解しているが故の、直希に合わせた絶妙なバランスで。だから直希も次第に積極的に自分で考えるようになるし、ミスを恐れなくなっていく。2人はいつも、こうやって二人三脚でやってきたのだ。

「じゃあ次は、お前と幸樹と廉のコーナーのとこな?俺が幸樹と廉をやるから、お前は自分の動きをやってみろ」

個別に担当するコーナーの段取りを確認するために、まずはそんな提案が来て。
そしてそれが問題なくできれば、次の場面へと進む。休憩は、一切無し。
エアコンが入っているとはいえ、真夏日の今日は、2人は汗だくだ。適度に水分補給をしながらも、朝からハードに動かし続けている体は、限界に近い。
居残り練習が1時間40分を過ぎ、直希の動きがほぼ本来に戻る頃には、2人は床に転げ落ちるように倒れた。

「3時間とか、絶対無理なんだけど……」

ぐったりと横たわりながら、同じように隣で転がっている大河に直希が声をかける。

「そうやな。俺も無理やわ」

何度も頷きながら大河もそう答えて、直希に視線を向けた。

「まあ、これなら大丈夫やろ。感覚戻ったか?」
「…うん。さすがに戻った」
「今度のリハでまた元に戻ってたらぶっ飛ばすからな」
「それ、ビビッて動けなくなりそうなんだけど」
「そしたら余計にボコボコにする」

弱気になってんじゃないと、大河が軽く笑いながら上半身を起こして、

「よし、終わりにしよう」

そのまま立ち上がり、腰を屈めて手を伸ばしてきた。
予想外に差し伸べられた手に、自分も起き上がっていた直希は思わず彼を凝視してしまって。しかしそれが戻されてしまう前に、慌てて彼の手を掴んだ。
大河に引き寄せられて直希が立ち上がれば、スッとその手が離される。

「後半、めっちゃ良かったで直希」

合わない視線は、ステージモードのスイッチのオフを示していたようだった。


着替えスペースに入ると、大河は荷物から着替えを取ってさっさとシャワーへと向かってしまう。
追いかけるように直希が足早に付いて行っても、直希を振り向くこともなく大河は真っ直ぐ歩いていた。
会話もないし、気まずい空間。大河に何か言葉をかけようと思っても、何も思い浮かばなくて。結局沈黙が続いたまま、シャワールームに入っていた。

隣り合ったブースで2人、黙々とシャワーで汗を流して。
普段はモタモタしているはずの大河がやっぱり一足先に出て行く気配を感じた直希は、明らかに避けられていることを理解している上で、自分も彼に合わせてブースを出た。
タオル1枚だけを腰に巻いて出て行く大河の後ろ姿は、久しぶりに見ても白くて細く、そして禁欲的だ。真っ黒な髪と、体脂肪が低い割にどれだけ鍛え上げても何故か大きくならない体は妙にストイックで、そんな体が自分の腕の中で乱れているときは、全てが色気に変換される。
遠慮がちに声をあげる彼が、可愛くて、色っぽくて、もっと聞きたくて。
しかしもう、二度と触れることのできない体。遠ざかっていく綺麗な背中に、直希は目が眩みそうだ。
背骨のライン、くっきりと浮き出ている肩甲骨、髪から滴った水が背中を流れて……

―――ダメだ…

今にも飛び掛ってしまいそうな感覚に襲われて、思わず直希は目を逸らした。
あの体が誰かのものになるのかと思うだけで、再び抑えようのない感情に翻弄されていく。
もしもそれが、全てを知っている実なら―――

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