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「★パンドラの箱(三角関係)【連載中】」
4:コワレモノ

パンドラの箱 4-5

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稽古場に戻ってからも、大河は手早く身支度を済ませていた。濡れている髪はほとんど乾かしておらず、肩にかけたタオルでガシガシと拭きながら適当に手で直しただけにして。

「お疲れ」

バッグを掴んで愛想笑いのような笑顔で去っていこうとするから、

「待って」

思わず直希は、大河の腕を掴んで引き止めていた。
それだけで、大河の体が強張るのを感じて。
自分に怯える彼が、ただただ悲しい。

「送るから。もう少し待って」

掴んだ腕を離さずに、彼の前に回り込み、視線を合わせてくれない彼を覗き込む。
しかし大河は、小さく首を横に振った。

「大丈夫。タクシー呼ぶから」
「何で。俺が車出すって」
「ええから」
「よくない」

振りほどこうとしてくる大河の腕を直希は更に強く掴んで、抵抗を止めるようにもう片方の腕も掴む。

「お願い大河。俺と話をして」

彼に警戒されることを恐れて刺激するような態度は避けてきたが、それではもう何も進展はないだろう。それを今日、大河と実の光景を見て思い知った。
あの2人の距離感は、どう考えてもおかしい。明らかに実は、大河の世界に侵入している。大河のために見守ってくれていた彼は、全てが壊れたことで、本気を出してきた。
実はすべてを知っている人間だ。知っている上でそれでも良いと言えば、大河だって気を許すだろう。事情を知らない人間と付き合うリスクよりも、知っていた上で受け入れてくれる相手を選ぶはず。
自分よりも大人で賢くて優しい、実という男。大河からの信頼も絶対的。そんな男に少しでも大河が惹かれてしまえば、もう止められないのだ。
気づくべきだった、と直希は改めて思う。付き合いの長い実が本気を出す前に大河が自分の手に落ちてきたことが、どれだけ奇跡的だったのかを。

「許して欲しいなんて思わない。罵って、殴ってくれてもかまわないから。ただ、話を聞いてほしいんだ」

それでもお前を許さないと言われたところで諦められるかは分からないが、直希はまずそう訴えた。
しかし大河は目を泳がせながら俯いて、

「お前が悪いわけじゃない。俺も悪い」

首を横に振るばかりだ。

「俺が勝手に期待して、勝手に玉砕しただけやから」
「ちがう、ちがうんだ大河…」
「そうやねんて。そもそも俺が、お前の誘いをちゃんと断っておくべきで、あそこで流された俺が悪い。俺がちゃんとしてれば、俺たちは相棒のままでおれたやんか」
「そんなことない。そうじゃないんだって」
「とにかくこのことは、俺がだらしなかっただけや。拒否されなかったってだけで期待して、誘われたら簡単に足開くような奴、お前が罪悪感感じるようなことない。お前もそう思うやろ?こいつ貞操観念の緩い奴やなって」
「何でそんなこと言うんだよ。俺そんな風に思ったこと…」
「でも俺も今回のことで学習した。簡単にこういうことしたら手痛い見返り受けるんやなって。友達にも戻れないなんて、確かにキツいわ。だから次は…」
「やめろよっ!!」

大きな声で彼を制し、そのまま抱きしめた。
ハッとした大河が慌ててもがき、そうすれば一層強く抱きしめる。

「離せ!こういうのもう嫌や!!」
「ダメだよ。離したら逃げるでしょ」
「当たり前や。これで冷静に話し合おうなんて、できるわけない」
「話したいのに、勝手に自分の言い分を突き付けてるのは大河じゃないか」
「俺は話し合うとは言うてへん。話すほどのことじゃないって言いたいだけやっ」
「俺だって話し合おうとは言ってない。俺の話を聞いてほしいって言ってるんだ」

言い訳させてくれと願うことすらわがままかもしれないが、そうしなければ何も変わらない。今の彼との関係は、ユニットやバンドという形の上に成り立っているもの。個人の活動が増えた瞬間に希薄になるものとなれば、会う機会の多い今のうちに、この距離を縮めるより他ないのだ。

「俺はどんな罰だって受ける。だから、俺との関係を切らないで欲しい」

暴れる大河を必死で抱きしめて、直希はそう訴えた。

「大河が好きだよ」

それが事実だと。

「もうけっこう前から、俺も好きだった」

驚きからから思わずピタリと動きを止めた大河に、それが好機とばかりに、一気に。

「今はたぶん、俺の方が好き。いや絶対そう」

触れられなくなっただけで気が触れそうなぐらいに焦る気持ちは、大河のくれた"好き"よりも重くて厄介なものだと直希は自覚がある。
可能性がチラつく奴ら全員に牽制して、自業自得の不安を満たすように彼を閉じ込めようとするなんて。

「大河じゃなきゃダメなんだ。俺のこと今は許せなくていいし、嫌いだったらそれでいいから。ただ、俺にももう一度チャンスを……」
「お前はいっつもそうやな」

静かに告げられた言葉に、直希も思わず言葉を止めた。
腕の中の大河は腕をダラリと下げたまま俯いて、表情を失くしている。

「大河?」

彼から体を離して肩に手を置いた直希が覗き込めば、そこからスッと顔を逸らした。

「お前は、俺が好きなんちゃうよ」

諦めたような、悲しそうな声と笑顔。

「自分が切られたって、信じたくないだけや。お前はホンマに俺を好きなわけじゃない。今のお前は、おもちゃ取られた子供と一緒」

きっとそんなところだろうと、それが事実だろうと、大河は思う。
直希が自分を好きなわけがない―――それが既に固定観念となっていた大河にとって、直希の告白はまったく信じられなかったのだ。

「失くしたら必死で取り返すけど、手元に戻ればまた雑に扱う。知ってるか?だいたいのおもちゃって壊れ物やねんで。雑に扱えば壊れるねん」

だからもう、自分に構わないでほしい。悪いことをしてしまったと反省するのは勝手だが、それは直希の中で適当に処理してくれればかまわない。

「壊れたおもちゃは直らん。新しいのを買えよ」

さっさと次にいってくれた方が、自分たちもまた程よい距離感を作っていけるはずだ。お互いに相手ができれば、きっとこのことは過去のことだと思えるようになる。
自分だって、直希以外の誰かを好きになれば、きっとこんな痛みから……

「大河……どうしてそんなこと言うの」

瞳を揺らして顔を歪めた直希に、大河は思わず心が揺らぎそうになった。
しかしそれを必死で制して視線をそらせば、直希の手が、スッと自分の手に伸びてくる。だから逃げようとするのに、追いかけてきた手がすんなりと手を掴んだ。

「もう…何を言ってもダメなのかな」

その言葉から、微かに感じた、諦めの色。
だから大河は、顔を上げて直希を真っ直ぐ見つめて、ゆっくりと告げる。

「なあ直希。俺、―――」

それを告げると、直希の目が愕然としたように丸くなって。
大河が離れても、その場を去っても、彼は追いかけてこなかった。


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