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「パンドラの箱(三角関係)」
7:幸福の選択

パンドラの箱 7-2

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すると、大河の顔も、歪んで。また俯くと、そんな大河の肩を、実が優しく抱いた。

「さて、どうしますか?大河くん」

震える体を落ち着かせてやるように、軽く抱き寄せる。

「また好きになれそうか?それとも…そもそもまだ好きか?」

核心をついてやるように問いかければ、大河は一層、下を向いて唇を噛みしめる。
それがもう答えだと、実は思った。

「直希は、俺とお前の事を知った上でも、お前がええんやってさ。そんなことでお前の魅力が変わったりせえへん、やて。俺と一緒やわ。俺も、直希とのことを知った上でもお前が好きやって言うたやろ?お前には、それだけの魅力があるってことや」

誰もが彼を好きになる。それは単なる純粋な好意だけでなく、自分や直希のように、恋愛対象としての好意を抱く者も。大河には、そんな不思議な魅力があるのだ。
そしてきっと、大河にとっての直希も、然り。
悔しいが直希は、大河が好きになるほどの魅力を持った男。体を投げ出してまで、想った相手。どこがどういう風に良いのか自分には全く理解できないが、きっと理屈なんてないのだろうと、実は思う。

「好きな人と一緒になるのが一番や。俺、そうも言うたやろ?そしてその相手は、残念ながら俺ではないよな」
「…………」
「大丈夫や大河。お前が俺の気持ちと真剣に向き合おうとしてくれたのは、ちゃんと分かってる。お前が一度も俺の気持ちを利用せんかったことは、俺が一番分かってるよ。お前のそういうとこ、やっぱ好きやし、そういう奴やから、お前には幸せになって欲しいわ」

彼を縛り付けるのは簡単。自分なら、容易いことだ。彼がどうせ幸せになれないなら、それぐらいしているだろう。目の前の直希が本当に適当な男なら、大河の手を引いて帰っているところだ。
だが実際は、彼は幸せになれるチャンスがある。チャンスの方から歩み寄りたがっている。チャンスを握る男もまた、悔しいが真剣だ。
ならば、自分のできることなど、ひとつしかないのだ。

「お前がどんな選択をしようが、俺たちの関係は、これからも変わらん。俺はお前が可愛いし、お前が必要やし、俺にとっての大事な味方で、俺もお前の味方や。
だからお前も、自由になれ」

自分で自分をがんじがらめにする大河を、解き放つように実は大河から体を離した。大河は俯いたまま、自分の手に重ねている直希の手を、ジッと見つめている。

「大河は、誰が好きや?」

改めて、実が静かに問いかけた。
静寂が、控室を包む。
そして、

「……直希が…好きや」

震える声で、大河が答えた瞬間。

「―――っ」

直希の顔が歪んで、大河の手を握り締めたまま俯いた。
俯いた直希からポタポタと涙が落ちるのを、実は見つめて。

「泣くほど好きなら最初から素直になっとけ、アホ」

直希の頭を、パチンと叩く。

「良かったな」

叩きついでに乱暴にその頭をかき混ぜれば、直希は声にならないまま、実に頭を揺さぶられながら何度も頷いた。
そしていまだ俯いたままの大河に、

「俺をフるとか、ホンマありえへんぞ、お前」

やれやれと頭を掻きながら、ぶっきらぼうに言い捨てる。
しかしこうして見れば、直希と大河の構図は、腹が立つくらいに自然で。それは、これまでのように、直希が振り回して大河が追いかけるような、あの異様さとは雲泥の差だ。

―――こうなることは、決まってたってことか…

それなのに無理にこれまでの構図を保とうとしたから、2人の関係は歪んだのだろう。本来あるべき関係性に近づいていたにもかかわらず、互いに自分の固定観念に縛られていたから。

「なぁ、大河」

お節介ついでに、フられついでにと、実は大河の肩に手を置いた。
ゆっくりと顔を上げた彼に、微笑んで。
この言葉を、彼への餞別にしようと、決めた。

「お前は、自分が直希を追いかけ続けても直希が遠いところに居て、いつの間にか見失ってたって言うてたけどな、それ違うで。
お前が追い越して、直希がお前を必死で捕まえようとしてたんや。
でもお前はまさか直希が後ろにいると思わんから、どんどん先を走ってた」

いつからか変わった2人の位置関係。でも、2人が目指していたものは同じ。
大河が直希を探して走り回り、それを必死で直希が追いかけた。互いの手を、ただ求めていたのだ。

「これからは、良くなるよ。お互いの位置を確認して、見失わないように、ちゃんと向き合っていれば」

きっと大丈夫だし、そうでないといけない。
だから、

「でも辛くなったら、コイツやっぱ違うと思ったら、いつでも戻って来い。俺はいつでもウェルカムやから」

自分が大河に許したポジションは、きっと誰にも渡すことはないだろうと実は思う。
どんな女を抱いたって、もしも大河が自分を望めば、綺麗さっぱり切ってやれるぐらいには。本人には言っていないが、3週間前だって、実はあの一件の翌日に彼女と別れていた。そして相手もまた、『なんだ、残念ね』で終了だった。
そしてそんな恋愛が自分のスタンスであり無理でない以上、本気の恋愛なんてものは自分の人生の優先順位で下位である以上、きっと変わることはない。直希が大河と出逢ったような運命的な出会いがあれば別だが、その出逢いは、既に大河と果たしてしまったのではないかと思うから。
だが実は決して、直希のように、大河が自分を向いていなければダメだというわけじゃない。あくまで、大河が幸せになれないか、もしくは自分を望むかでなければ、本気を出すことはないのだ。そこが"ドライ"と言われればそうかもしれないが、それとも違うと、実は思っている。なぜなら、

「自分が嫌なことはハッキリ言え。それでも無理強いさせるような奴なら、どんなに好きでも、どんなに泣き寝入りされても切れ。俺に正直に言え。分かったな?」

手を離すのが、こんなにも名残惜しい。
一度希望が見えていた分、余計にかもしれないが。
どうせ手離すなら世界一幸せになってくれなければ気が済まないし、そうじゃなきゃ今にも自分が彼を浚ってしまいそうだ。

「油断するなよ直希。俺はお前を信用したわけではないし、俺はコイツと違って慈悲深くも心が広くもないから、お前を許したわけでもない」

自分から大河を奪い返していくこの男にも、そう釘を刺さないと、ちゃんと確約を取らせないと、この手を離すことはできない。

「大事なのはこれからや。お前の誠意ってやつを、ちゃんと見せてみろ。俺が納得できれば、お前を認めてやる。認めれば、俺はきっと、お前にとって一番の協力者になるやろな」

直希が首にかけていたタオルを掴んで彼の顔全体に押し付け、乱暴に涙を拭いてやりながら、そう言いつける。苦しそうにもがきながらも「うん」と素直に答えた直希に、思わず実は笑ってしまった。何だ、素直な奴じゃないか、と。

「大丈夫。嘘をついたら自分が痛い目に遭うのはもちろんだけど、大河も傷つけるって分かったから」

それだけは嫌だと首を横に振る直希を見ていれば、実も彼の本気を信じられる気がした。この状態でも自分自身よりも大河を気遣うなんて、こんなに綺麗な涙を流せるなんて、よっぽど相手を好きじゃなきゃできない。

「実じゃなかったら、こんな風になれてなかったとも思う。二度目がないことぐらい自分でも分かるよ。
それに、本当はずっと、気持ちを伝えたかったんだ。怖気づいてただけだ。だから余計に、大河が実んとこ居るって知って、焦ってた」

実が少なからず大河に手を出してきたことを知っても、その相手にさえも自分の非を認め、こんな真っ直ぐな言葉を吐けるなんて。自分に出来るかと言われたら、難しいかもしれないと実は思う。"なりふり構わず"とは、こういうことを言うのだろう。
だから自分は、彼に適わなかったのかもしれない―――と。

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