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「パンドラの箱(三角関係)」
8:メビウス・ループ

パンドラの箱 8-3

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直希は、気づいたのだ。
大河の体から一気に流れた緊張感と、強張り。身構えた彼の、その意味を。
彼が生理的反応のように怯えたのは、感情が突っ走ったときの自分が何をしてきたかを物語っていたのだ。それは、こんな風に反射的に身構えるようになるほど、何度も……

「俺とするの…辛かった?」

もしかしたら、自分とのセックスはずっと苦痛でしかなかったのではないかと、そこまで考えてしまう。喘いだ声は、苦悶の声だったのではないかとすら。
しかし、

「そんなことは……ない」

大河がゆっくりと、首を横に振る。

「直希に誘われて断らなかったんは、別にお前を恐れてたわけやないし、断れへんかったわけでもないし……」
「ホントに?」
「うん。でも……」

自らの意思で直希との行為を受け入れたことを認めた上で、大河がそう口ごもる。俯いてしまった彼の表情が見えなくて、直希は、

「でも?……いいよ、言って?」

頬に触れた手で、彼の顔を少し上げてやりながら覗き込んだ。
すると大河が、自分に触れている直希のその手に、自分の手をそっと重ねて。

「ときどき……怖かった」

その手に縋るように、弱い力で握り締めてくる。

「こういうときの俺が、怖かったんだね?」

無理強いをする自分は、やっぱり彼に恐怖心を抱かせていたのだと、それを予感しただけで体を強張らせるほど怯えさせてしまったのだと、罪悪感に襲われながら直希はそう訊ねたのだが。

「お前がってわけではない」

首を横に振って否定した大河が次に言ったのは、

「お前が無茶苦茶してくるとき、いっつもお前じゃないみたいで。知らない男に、されとるみたいで……」

それが怖かったのだと。

「そういうとき、“早く終わればええな”って……」
「大河……」
「直希も全然気持ちよさそうやなかったし、終わった後も何となく辛そうやったし。だから俺も、何か…悲しくて……」

何かしらの感情をぶつけられるだけの行為は、大河にとってひたすら苦痛だった。
直希が抱える闇が分からないから、余計に辛かった。それがどんなものかは分からなくても、自分が知りえない感情だとは感じていたから、悲しかった。
だから、そういうときの自分は、その行為が終わることだけを願っていた。
早くこの時間が過ぎてくれと―――直希に抱かれながら、奉仕を強いられながら、ひたすらそう願っていたのだ。

「大河…っ」

俯いて小さく肩を震わせた彼を、直希はたまらない気持ちで抱きしめた。
本当に、何てことをしてしまっていたのだろうと、自分で自分が腹立たしくて仕方ない。
誰か自分をボコボコに殴ってくれやしないかと、実あたりに殴ってもらえばよかっただろうかと、そんなことすら思ってしまう。

「ごめん。俺のせいで、ごめんね」

背中を撫でてあやすように、言い聞かせる。油断したらまた泣いてしまいそうで、必死で堪えた。過ちを謝罪するときに泣くのは、卑怯だと思うから。

「俺、自分が素直じゃなかったくせに、勝手に嫉妬したり焦ったり不安になったり……。でも、俺はちゃんと大河に気持ちを告げてない以上、自分でそういう感情の処理するしかなくて。その結果、何も言わずにただただ大河にぶつけてた。俺が好きなら何でもしてくれるはずだなんて…。それが苦痛を与えているとか、考えも無しに。俺自身が安心するために……。本当に、ごめん」

苦痛を感じながらも大河は、自分の心配までしてくれたというのに。心配をして、悲しんでくれていたというのに。自分は何て身勝手で幼稚で浅はかだったのだろう。しかもその結果、

「安心したくてあんな無理強いを繰り返して…結局、何の解決にもなってなかった」

事後の罪悪感はもちろん、不安もさらに募るばかりだった。
終わった後、辻褄合わせのように大河に優しくしたって、そういうとき自分からさりげなく視線を逸らす彼の気持ちが見えなくて。この人が離れていったらどうしようと―――そう思えばまた、彼を縛るように囲おうとした自分。
一体自分は、この1年でどれだけ彼に苦痛と苦悩を強いてしまったのだろう。そう思えば直希は、後悔も自己嫌悪も止まらない。
でも……

「もう二度と、そんなことしない。約束する」

大事なのは、これからだ。
彼を傷つけたことをいくら後悔したところで、もう遅い。その分、これから限りなく大切にすることで、償うよりほかないだろう。
自分が一番恐れていた、彼に気持ちを打ち明けること。そこから始まった数々の間違いは、無事に気持ちを伝えて受け入れられた今、もう二度と犯すことはないと断言できる。

「今思わず暴走したのも、決して、大河に無理矢理してやろうとか思ったわけじゃないよ。怖がらせてごめんね」

体を少し離して、見上げてくる彼の頬に触れる。そのまま優しく髪を撫でれば、大河がその感触を味わうかのように、目を細めた。
同時に、大河の体から強張りが消えていくのが分かる。それだけでまた、たまらなくなって。

「ずっとさ、大河のことばっか考えてた。俺に触れてくれなくなって、でも触れてもらえないと全然ダメで。だから毎日、一生懸命思い出してたんだ。大河の感触を」

そして直希自身も、彼に触れたときの手の感触を思い描いて。

「毎日毎日、マジで絶望的な思いでさ、いたから。だからこうして戻ってきてくれて、なんかいろいろ、我慢きかなくって」

記憶ばかりでリアルな彼との触れ合いが無かった分、目の前に訪れたチャンスに、まだ信じられない思いと同時に沸き起こったのは、今すぐ触れたいという強い欲望。これからは素直に気持ちを伝え合えると考えれば、それは膨れ上がる一方だったのだ。

「もう、ヤバイぐらい限界なんだけど……ダメ?」

唇を近づけて、触れ合う直前で止めて、問う。

「大河が俺んとこ戻ってきたって、実感したい」
「直希…」
「大河が好きだよ。すげぇ好き」
「…………」
「俺はとっくに、大河に夢中なんだ。本当はとっくに、大河じゃなきゃ何も感じなくなってる」

恋人なんて、作る気はとっくに失せていた。
もしかしたらそれは、初めて大河を抱いた日からずっとかもしれないと、直希は今になってそう思う。
抱き合った瞬間に、心も体も、この人にもっていかれていたのかもしれないと……

「信じてもらえるように、これからは俺、大河への気持ち隠さない。気持ち試すような無理強いみたいなことも、絶対しない。俺が別人だなんて思わせるようなことも、しない。大河が別の男とするとか、ありえないし」

虚飾の自分にすら嫉妬するほど、この人が好きだから。

「本当の俺を見せていくから、本当の俺を、ちゃんと今日、今すぐ知ってほしい」

そう言いながらさらに顔を寄せれば、唇よりも先に、大河の高い鼻と自分の鼻先が触れて。

「抱かせて、大河」

鼻の先をくっつけたまま改めてそう誘うと…
大河の腕が、直希の首に絡みついた。

「うん…」

直希の肩口に顔を埋めてきた大河が、真っ赤な顔で頷く。首筋まで赤い彼に、直希は自然に笑みがもれた。

―――ホント、たまんないな…

こんなに可愛い人が傍に居て、好きにならないわけがないだろうと、しみじみ思う。
こんなに可愛い人に好かれるなんて、どれだけ恵まれていたのだろうと。
この恋を、手離してなるものかと。

「大河、好きだよ」

今まで言えなかった分、何度も言いたい。そのうち今までの分を言い切ったって、それでもきっと何度でも言いたくなるだろう。
そして……

「こっち向いて」

赤い顔をこちらに向かせて、キス。
彼とのキスも、何度したって、きっとまたすぐしたくなるのだろう。
気持ちを通わせ合ってするキスは、こんなにも甘くて幸せなのだから。

「シャワー、一緒に入ろう?」
「……うん」

唇を離して見つめ合って、そう言葉を交わして。
もう一度キスをしてから、ようやく2人は立ち上がった。


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