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「女は災い(陸×千)」
3:守るべきもの

女は災い 3-3

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静かな怒りを湛えた表情の千田は、固まる大河と陸には目もくれず、真っ直ぐ美香を見つめる。

「あなたは、記者さんなんですよね?しかも有名雑誌の」
「え?ええ」
「ならば、ステージ前の演者がどういう精神状態か、分かりますよね?」
「……え?」
「僕は、1時間半後に舞台本番なんです。この3回の公演のために、僕たちは数か月稽古に励んできました。それをぶつけようっていう気持ちでいること、何とかして落ち着こうとしていること、わかりませんか?」
「あ……それは…」
「そもそもあなたは、ここに何しに来てるんですか?演劇の取材ですよね?タレントの恋愛スクープじゃありませんよね」

そこまで言われて、美香は初めて顔色を変えておとなしくなった。さっきまでの勢いの良さも馴れ馴れしさも鳴りを潜め、バツが悪そうに俯く。

「美香さん、ここは劇場です。あなたはお客さんです。あなた以外に、誰がそんなに自由に動き回っていますか?ここは僕たちにとって大切な場所なんです」

千田らしくない、冷たい口調だった。
しかし、自分にも譲れないものはあるのだ。プロとしての意識とプライドをもってまっすぐ向き合ってきた自分にとって、たとえどんな理由があっても、それを汚されることだけは許せない。
そんな千田の真っ直ぐな瞳は、怒りと共に、やりきれない悲しさも宿っていた。

陸は何も言えず、その姿を見たまま動けなかった。
千田が冷静になればなるほど、陸に焦燥感がこみ上げてくる。
得体の知れない不安と恐怖が、押し寄せて……

「ご、ごめんなさいね。私…つい…」

千田の勢いに怯んだ美香が、初めて自分の非を認めるように頭を下げつつも、

「私、きっとあなたに誤解されてると思うの。それで……」

慌てて笑顔を繕って、見上げてくる。
しかし千田には、響くわけも無く。

「僕はこれから準備があるので、本当にもう、失礼します」

美香に頭を下げ、そして、心配そうに自分を見る大河に目を向け、笑顔を見せた。

「ありがとうございます。大河さん」
「ううん。大丈夫?」
「はい。舞台、観ていくんだって?」
「うん。もちろん」
「じゃあ、終わったらちょっと会ってもらえますか?頼みたいことがあって」
「ええよ。分かった。楽屋に行くわ」

そんなやりとりを交わし、そして千田は、陸に歩み寄った。
陸はまだ動けず、ただただ千田を見つめている。

「ホント、何してるんですか?」

呆れたような、それでいて、どこか陸を気遣う視線。
それに気付いて、陸はハッと何かに気付いた。

「こんなの、陸さんらしくありませんよ?」

それが千田なのだ。
どんなときでも、自分を思ってくれる。
それなのに、自分は…?
自分は、どうだった……?

「千田…」

掠れた声で呼べば、千田は悲しそうに眉を寄せた。

「俺は、そんなあなたを見たくないです」
「千田、ごめん俺…」
「あなたは、彼女のプライバシーを守りたいって言いましたよね?
俺のプライバシーはどうなってるんですか?」

それだけを言うと、千田は去っていく。

「ちょ……待ってっ」

咄嗟に、陸はその腕を掴んでいた。ここがどこであるとか、どうでもよかった。
しかし、

「離せっ!」

思い切り振り払い、悲しげに陸を一瞥した後、千田は足早に去っていった。



残された3人は、しばらくその後ろ姿を眺めていた。
最初に我に返ったのは陸で。
自分でも気付かなかった心の内を、見透かされたような感覚だった。千田の言葉には、情けないほど、思い当たる節がありすぎて、言い訳の余地もなかった。

彼はきっと何度も、自分に救いを求めていたはずだったのに。
両方を守ろうとした結果、彼を傷つけただけだった。

『陸は…自分の立場が危うくなると、真っ先に俺の気持ちを疑うんだね』
『俺のプライバシーはどうなってるんですか?』

それを言った時の千田の気持ちを考えれば、孤独と絶望で胸がしめつけられていく。
彼にあんなことを言わせたのは、他でもない自分だ。そして自分の行動を思い起こせば、彼に告げた言葉の数々を思い出せば、自ずと理解できる。千田がそう思うのは、当たり前のことだと。

ようやく、本当にようやく気付いた。
自分は、彼の信頼を裏切ったのだと。

「……最低や、俺…っ」

片手で顔を覆って。出るのは、震えるような声。
自分を信じて向き合おうとしてくれた彼の信頼の誠意も、優柔不断な態度でことごとく裏切った数日間の自分が、腹立たしくて情けなくて仕方がない。

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