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「女は災い(陸×千)」
4:彼の決断

女は災い 4-4

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大河のマンションに向かって車を走らせながら、直希はチラリと助手席の大河を窺った。
自分は知っている。あのとき、大河は笑っていなかった。
駐車場に現れてから終始笑顔だった大河だが、陸に背を向け自分の腕を引いてきた瞬間に見えたその横顔は、くすりとも笑っていなかったのだ。
実と廉にも振り返ることはせずに手だけ振って助手席に乗り込んだ大河は、それからずっと俯いて黙り込んだままだ。
千田に頼まれごとをしていると、嫌な予感がすると言っていた大河の頼りない不安そうな顔を思い出せば、今の状況の意味が直希には何となく予想もついていたが、

「それで、どうだった?」

もしかしたら単純に冷戦状態が続いているだけなのかもしれないという希望も含めて、まずはそう訊ねる。
すると、大河は微動だにすることなく、ボソリと答えた。

「アカンかった」

それだけ。
たったの6文字。
しかしそれが逆に、大河のショックを物語っているような気がして―――

「そっか…」

大河の手にそっと手を重ね、直希はそれだけを呟く。
すると大河もコクンと頷いた。

大河は、分かっていたのだ。
千田が入れた、あの袋の意味を。
それがどんなものかは知らないが、あれこそが千田が陸に渡したいものだと。

『こっちがホンマに渡したいものなんやろ?』
『俺だってこれぐらいしますよ』
『まぁなぁ、それぐらいしてもバチ当たらんよな~?』
『そっすよ』

きっとあの会話は、千田は大河が気付いていないと思ってしていたものなのだろうが。
大河の言ったことも、千田の言ったことも、そのままの本心だと。大河だけは自覚と確信があった。

―――チダちゃんやって、それぐらいするよな?

別れ際に彼が何度も背後で謝っていたのも、自分が千田に"別れるな"と言っていたからだろう。

『本当にごめんね』

たくさん協力して支えてくれたのに。

『ごめん』

こんな結果になってしまって。

彼は、きっとそう言っていた。
だからこそ大河は、振り返れなかったのだ。
きっと千田は、悲しい顔をしていると思ったから。必死でいつもの笑顔を作ってくれていた彼の努力を、壊したくなかったから。

―――俺こそゴメンな。力になれなくて…

手を振りながら、大河も彼にそう詫びていた。
結局、何もしてやれなかった。本当に自分は、無力だと……

「ハグどころか、頭撫でるどころか…顔も真っ直ぐ見れんかった」
「…そっか」
「何でこんなことに…。嫌や、俺」
「うん、ヤだね」
「でも……引き止める理由がなかった」
「……わかるよ」

千田が選んだのは、自分のプライドを守ること。
守ってくれなかった恋人を切り捨て別れを選んだ潔さは、どこか大河にも似ていて。だからこの2人は響き合うのかもしれないと、直希は思う。
でももしそうだとしたら、陸がここで引き下がるわけがないとも思っている。本当に愛していたら、カッコ悪くたってしがみついて縋るんじゃないかと。自分が、大河に対してそうしたように。

「本当に終わったかどうかはさ、まだわかんないから」

頭を撫でれば、また大河が俯いてしまった。

「そんなん…向こうが冷めてしまってたら無理やん」

その声は微かに震えていて。彼が泣き出すのではないかと、直希は少し心配になった。
だから、

「少しドライブしようか。まだイルミネーション綺麗だよ」

声を明るいトーンにして、アクセルを踏み込む。もちろん、大河がイルミネーションどころじゃないのは分かっているし、自分だって本気で彼とデートを楽しむつもりはないが。このまま少し、彼と話をした方が良いような気がしていたのだ。





移動車の中で、千田は窓に肘をつき、ネックウォーマーを口元まで伸ばして、下を向いて目を閉じていた。それは傍から見れば寝ているようにしか見えず、誰も声をかけてこない。
ポケットのスマホは、先ほど着信を告げてからは頻繁に鳴り続けている。着信拒否でもしない限りかかってきそうだが、それだけはできなかった。

陸を"拒否"は、できない。

この期に及んでもなお、千田は陸に対してそこの線を越える勇気は無かったし、そんな風に彼を切ってしまうことを心が拒んでいた。
期待しているわけじゃない。ただ、募る想いを、変わらない愛情を、全て否定してしまったら、おかしくなってしまいそうで。

鳴り止まない携帯。これを取りたいと、心の中に居るもう一人の自分が叫んでいて。
声が聞きたい、また"好きだ"と言ってほしい。
だが、その言葉でまた有耶無耶にされてしまうのはごめんだ。
かといって、その言葉を聞いてしまったらきっと、自分は絆されてしまう。

―――嫌だ。

目を開けた千田はポケットを探り、スマホの携帯を切った。
唇をかみ締めて、涙が出そうになるのを必死でこらえる。
すると。
不意に、隣の気配が変わって。
誰も居なかった隣に、誰かが座った。

「…………」

ゆっくり顔を向けると、後ろに居たはずの誠だった。

「あの……」

ポツリと声を出せば、千田に顔を向けた誠が、人差し指を口元に当てる。それはひどく陸と似ていて、千田はまた心が痛くなった。

「そんな顔、誰にも見せたくないやろ?」
「え……」
「ここに居てやるから」
「………」
「高ちゃん命令やし」

ニッと、誠が運転席の高瀬を指差す。
どうやら何かを鋭く察した高瀬が、誠を駆り出させたようだ。養成所時代の同期仲間だけに、担当タレントでもない誠に視線だけで指示を送ってきたらしき高瀬を、誠は「顎で使うって酷いよな」と笑っている。

「狭いやろうけど、俺の影に隠れとき。な?」

そう言って頭を撫でてくれた誠に、千田はホッとして頭を下げ、また目を閉じた。





千田のマンションに向かっている間も、着いてからも、陸は車の中で何度も電話をかけていた。しかし電話が繋がることはなく、最後は電源を切られた。
スマホを助手席に放り、陸は頭を抱える。
胸に沸き起こるのは、自己嫌悪と後悔。そして、喪失感。

言葉もなく顔を合わせることもなく、間接的なやり取りだけで断ち切られた、繋がり。1年近くかけて築き上げてきた、かけがえのない絆。
一体どうして、なんて…考えるだけ野暮だ。
今更だが、ちゃんと分かっているから。悪いのは、全て自分だと。

『それでも俺は、あなたが好きだ』

せめてあのとき、もっと誠実に接していれば。

―――有介…

ハンドルに顔を埋めて、陸は大きく溜め息をつく。
千田がくれた栄養ドリンクと菓子パンにだって、最後まで自分を気遣ってくれた彼の優しさと、些細なことまでちゃんと覚えてくれている彼の愛情が溢れている。
その愛情をもってしても、千田はこの答えを選んだ。その意味は、自分に守られることを、諦めたということだ。
そう、自分は、千田からの信用を失った。

「有介…っ」

祈るようにその名を呼んで、陸はもう一度スマホに手を伸ばした。


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