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「女は災い(陸×千)」
8:交渉

女は災い 8-1

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【8:交渉】

車の中で、千田は一言も喋らなかった。
ただ俯いて、なんとか逃げ道を探しているようにも思える。
陸は敢えて言葉はかけず、ただ真っ直ぐに、自分のマンションへと車を走らせた。

マンションに着いてからも、千田は特に抵抗を見せなかった。陸に手を引かれれば素直に車を出て、そのまま付いて来る。
しかし一度でも手を離したら逃げ出しそうで、陸はしっかりとその手を繋いでいた。

部屋に着き、玄関に招き入れられたところで、千田は立ち止まった。
この先に入ってしまえば、きっと自分はまた、彼に誤魔化されて終わりではないだろうか。あんな終わりを告げたって、こうして連れ込まれてしまえば、有耶無耶にされてしまわないだろうか……
陸がそんないい加減で不誠実な人間だとはもちろん思わないが、陸がどうというよりは、彼がどうであろうが許してしまいそうな自分が怖いのだ。

「有介、入って?」

不安を湛えた目に見つめられ、胸が痛い。
彼にこんな顔させたくないのに……

「ここは寒いから、な?」

やっぱり来るべきではなかったと、千田は思う。
この声を聞いてしまったら、2人きりになってしまったら……自分の決意など簡単にぶれていくのだ。
でも、これが最後だと思えば……
この人の部屋も、温もりも、自分を呼ぶ声も……全て記憶に刻み付けるには最適のシチュエーションで。
自然と、足は前に進んでいた。

「ありがとう」

千田の手を握り、陸はそのまま、リビングへと連れて行った。

陸は千田をソファに座らせると、自分も隣に座った。
今すぐにでも肩を抱き寄せたい衝動に駆られるが、それは必死に我慢した。行動で彼の不安や不信感をねじ伏せたところで、何の解決にもならないのだ。だから代わりに、両脇に手を置いてつっぱるようにソファを握り締める千田の手を、そっと握った。

「一人にしてゴメン」

出たのは、そんな言葉だった。
それこそが、今回の問題の全てだったのだから。

「初回公演の夜、有介と車の中で話したとき、"もういい"って言われて、焦ってた。こういう問題は長引かせたら絶対いけなくて、それなのに、あの日珍しく有介が苛立って、俺のせいなのに…焦ってた。自分の言葉が足りないないこと棚に上げて、匙を投げられた気分になって、話す気を失った有介を責めた。俺は大人で、しっかりせなアカンのに……」

9歳も年下の恋人の方が、よっぽど大人で冷静だった。

『俺は陸の過去を責めるつもりはないし、それぞれの人生があったんだから、それはいいんだ。
だから、正直に話して欲しかっただけだ』

そんな風に、真っ向から向き合う覚悟で来てくれた千田に対し、自分はあまりにも苦しい言い訳を並べて。もちろんそれは嘘ではなかったが、あんな説明では、誰が聞いたって納得しない。
それなのに、自分は正直に話したつもりになっていた。信じてくれなかった千田に、背を向けられた気分になっていたが。
……本当は、自分が彼に背を向けていたのかもしれないと、陸はしみじみと痛感している。

「俺、ホンマにサイテーやったな。有介を一番に思い遣るべきなのに、俺の態度が不安を煽らせて。それで信じられなくなったって当たり前なのに、更に追い詰めるようなこと…」

ここ数日の千田を思い出して、どこをとっても、心の奥底から湧き上がってくるのは、痛いほどの後悔だった。しても仕方のない後悔ばかりを繰り返しながら、バカみたいに、去って行った愛しい人を求めていた。

「謝るのは簡単やけど、信頼取り戻すのって難しいよな。よくわかるよ」
「…………」
「もう一度チャンスくれって、言う権利がないのもわかってる」
「…………」
「それでも俺、アホやから………どうしても諦めきれへんねん」

一度掴んだ手を、離すことなど。

「俺の心が休まる場所は、有介の傍だけやから」

彼の心地よさを、知ってしまった以上……

「俺は有介が思ってるほど大人でもないし賢くもないから…有介は俺にとって勿体無いくらいの相手で。お前にはもっとふさわしい相手がいるかもしれないのに……ごめんな?俺はそれでも、お前と離れたくないねん」
「……ふさわしい相手?」

その言葉に、千田の瞳が揺れた。

「俺には他にふさわしい相手がいるかもしれないけど、傍に居たいって…陸は、そう言ってんの?」

信じられないと、また、その瞳が言っている。
また彼の地雷を踏んでしまったのかと、陸は思わず口ごもった。
しかし千田の瞳には、決して怒りの感情はなく。

「俺は、そうは思わない。少なくとも俺は、あなたに他にふさわしい相手がいるとしたら、そんなこと……」

悲しいほどに顔を歪ませて、声をつまらせて、千田は俯いた。
その姿に、陸は胸に何かが突き刺さるような感覚に襲われて、千田を見つめるしかできない。

「あの人が…美香さんが現れてから、俺ずっと考えてた。
2人が並んでる姿はとても似合っていて、俺なんかよりもずっと、彼女のほうがあなたを知ってる気がして……」

もしも2人がヨリを戻したいと互いに思っているとして、たとえ自分が今の恋人とはいえ、邪魔する権利はあるのだろうかと。思うのは、そればかりで……

「恋愛に順番なんてなくて、そもそも彼女は女性だから、2人ならば結婚すれば子供だってできる。それを邪魔する権利、俺にはないって…」
「有介、お前…」
「俺とは実現できないことが、彼女とならできることがたくさんあって。たとえば俺との関係が清算されれば、そんな未来が陸を待っていて……」
「やめろよ」
「俺は脇役だって気付かなかっただけで、いつまでもステージにいちゃいけないのかなって…」
「やめろって…っ!」

そのまま腕を引かれ、千田は陸の胸に抱きすくめられた。

「自分のこと、二度とそんな言い方するな」
「でも……」
「俺の最愛の人、邪魔者みたいに言ったり蔑んだりするのは、有介本人でも許さんっ」

みっともないほど掠れている陸の声は、千田よりも震えていた。

「俺に待ってる未来て何やねん。有介いなくて、俺に待ってる未来て何や。嫁もらって子供作る未来?いるか、んなもん。
だいたい、それは当然、おまえにも言えることなんやぞ?お前は欲しいのか?」
「……それは…」
「精算って何や。俺たちの関係を、間違いみたいな言い方しやがって。
お前が脇役やったら、俺何やねん。お前がステージ降りたら俺どうすんねん。一人二役しろっていうのか?恋愛を?俺は変態か」
「……へ…?」
「だいたい、誰と誰が"お似合い"や。背の高い男と綺麗な女が並べばそれなりにカッコつくだけやろ。お前がアイツと並んだってお似合いじゃ。いやいや並ぶなアホ」
「りく…」
「美香の方が俺を知ってるって?今の俺を一番知ってるのはお前やろ。違うんか。俺が栄養ドリンク飲むのもクリームチーズデニッシュが気に入っとるんも、最近酒が弱くなったのも、アイツは知らない。知ってるのはお前や」
「あ、あの……」
「それ以上そんなこと言ったら、ここで泣いてやるぞ、ええんか?」
「えっと……」
「挙句の果てに、歴代の彼女の名前なんてつらつら並べやがって。なんや"アンドウリエ"て。お前の魅力もわからん"アンドウ"なんかと一緒にすな」

その物言いはどことなく、弟の大河の捲くし立て方にも似て。ここまで饒舌にケンカ越しに言ってくる陸を、千田は初めて見た。
彼がぶつけてくる感情はどれも、自分に対して"置いていくな"と言っているようで。呆気に取られて硬直したまま、しかし陸が本当に泣き出してしまうのではないかと心配になって、背中を軽くさすった。
陸は、そんな千田の手のぬくもりに、また胸がしめつけられた。どんなときでもやっぱり、千田は優しいのだ。どんなときでも、自分を思い遣ってくれるのだ。
こんな人を傷つけていた自分が、本当に許せない。たとえ万が一千田が許してくれたとしても、自分はきっと…

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