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「女は災い(陸×千)」
8:交渉

女は災い 8-3

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すると、

「これを……」

陸はそう言って、ソファ脇にあったバッグから封筒を千田に差し出した。

「え……?」
「お前に。渡してくれって…美香が」
「??」

警戒しながらも千田は受け取り、封を開ける。
中に入っていたのは、1枚の写真だった。

「……これ」

それは、今回の舞台の1シーンを、舞台袖から写したもの。今回の写真集用に入っていたカメラマンが撮ったらしきもので、ブレのない写真。きっと彼女が1枚もらって、それを千田にくれたのだろう。
ただ、それはお世辞にも、カッコいい写真ではなかった。
思い切り転倒した後に起き上がった千田が、一瞬動けなくなった、あの瞬間のものだったのだ。

―――これを、どうして俺に…

そう思いながら何気なく裏返した写真。そこには、

"安藤陸をこんな風にさせるのはあなただけ"

と書かれていた。
意味が分からず、写真をまた表に返す。
陸が座っていた位置を思い出して写真を追えば……小さくて暗くてはっきりとは判別できないものの、陸だと分かる人が居て。
いつものように足を組んだ彼は片手で額あたりを覆い、俯いていた。
それは、小さくてもわかるほど痛々しいほどに、動揺した姿。

「…………」

写真を手にしたまま、千田は陸に視線を移す。
向かい合っていて写真がどんなものかよく分かっていない陸は、千田の手をとって自分の前に寄越し、それを確認した。
そしてまた、千田に手を戻す。

「今日、見てて恐かったよ」

掴んだ手を離し、また、頬へと伸ばせば。今度は、千田は全く抵抗しなかった。
抵抗するには、陸の表情が悲しすぎて。

「あのままじゃお前、絶対ケガしてたから……」

自分の役柄を理解しているからこその姿は頼もしかったが、冷静さを欠いたあの表情には、危機感しかなかったと、あの時の陸はそれだけを感じていたのだ。

「誠もさすがに焦ってたようやし、お前は無茶ばかりしとるし。挙句の果てに、あんな風に倒れて頭打って……
昔、同じ状況で、大河が意識失って救急車で運ばれたことあってな。幸い軽い脳震盪で大事に至らへんかったけど、打ち所悪ければどうなってたか分からんし、倒れ方によっては足とか大怪我してたかもしれないって、医者に言われたんや。
動かなくなった有介見た瞬間、そのときのことがオーバーラップして、怖かった。まともになんて、とても観てられへんかった」

失敗してもいいからこれ以上はやめてくれと―――
こんなこと、責任者の一人としてもキャスティングした人間としても一番思ってはいけないことだが、あのときばかりはそれを願った。
そして陸にそんなことを思わせる芝居をしてしまったことを、千田は反省していた。プロ意識を教えてくれたこの人に、そんなことを思わせてしまうなんて……

「自分が何とかしたいっていう気持ちは大事やけど、ああいう無茶苦茶なのは危険なだけや。二度としないで」

何事もなくこうして千田がここに居ることが、どれだけ自分をホッとさせてくれているか。大河たちと酒を飲んで酔っ払って、自分を見て慌てて飛び退いて。その元気が当たり前のようにあることが。
その写真はもう見たくないと、陸は千田の手からそっと受け取ってテーブルの上に伏せる。千田は俯いて、写真を持っていた手元をじっと見つめていた。
そこに、陸の手が重なれば……
ここ数日の、心のトゲが、消えていって。

「どうしても、成功させたかったんだ」

素直に、言葉が出た。

「あなたが、見守ってくれていたから」

偽りも虚飾もない自分の気持ちが、次々とこぼれ落ちていく。

「俺を信じて見守ってくれてるって、応援してくれてるってことが、俺にとっての原動力で。こんなことになっても、陸はやっぱり、俺を支えてくれてたから。俺を、ちゃんと見ていてくれたから……」

ステージの自分を静かに見つめる眼差しはいつも、緊張よりも、ドキドキよりも、勇気をくれる。

「だから、その信頼に報いたくて」

せっかく書いてくれた脚本が、自分たちのせいで台無しになることなど、絶対にしたくなかった。

「あなたに、認めてもらいたくて、喜んでもらいたくて、褒めてほしくて……」

プライベートに影響されて結果も出せない、所詮そこまでの奴だ、なんて。
そんな風にだけは、絶対に思われたくなかったから―――

「俺…」
「アホやな―――」

ふわりと、陸の腕が、千田をまた抱きしめる。
瞬間、ポロリと千田の目から涙がこぼれた。

「それでケガでもしたら、何の意味も無いやろ」
「陸…」
「そんなことになったら俺は…」

声をつまらせた陸の表情は、この状況では残念ながら千田には見えない。しかし彼の腕からも声からも温かい優しさを感じて、千田が陸の背中に腕を回せば、

「有介を愛してるよ」

そんな言葉が、耳元で響く。
それは、初めて聞いた言葉かもしれなかった。
"好き"だとは言ってくれるが、"愛してる"だなんて……

「俺が愛してるのは有介だけで、こんな気持ち、初めてや」

そして体を離して、親指で、千田の目元をそっと拭く。その陸の瞳も潤んでいるように見えるのは、勘違いではないと千田は思った。

「さっきも言ったように、有介にはもっとふさわしい人が現れるかもしれない。でもゴメンな?俺は離してやれへんよ。自分勝手でワガママやけど、俺はもう、お前しか無理やから。どんなものを手に入れたところで、有介の居らん未来なら意味が無い」
「………」
「子供っていうのはさすがに叶えてやれへんけど、それ以外なら、何とかできるかもしれない。有介が他の誰かとなら描けたかもしれなかった幸せを、できる限り俺が実現できるように、努力するから…」

ここに、居て欲しい。
陸の視線が、強くそう訴えている。

「俺がまたブレとったら、ガツンと言うてくれ。気が済むまで怒ってくれてかまわんから、ひとりで我慢したり傷ついたりだけは、しないでほしい。俺の傍で、俺に感情をぶつけてほしい。俺が有介を守りたいから。それだけの強さが欲しいから……」

自分を諦めないでくれ。陸は、そう告げた。
千田を真っ直ぐと射抜いてくる薄いブラウンがかった陸の瞳は、どこまでも強く美しくて。そこに千田は、彼の深い愛情と、迷子のような少しの危うさと、そして嘘偽りのない誠意を感じた。
だから、

「―――うん」

千田も真っ直ぐに陸を見つめて、そう答える。

「俺も、あなたしか無理だと思う」

離れたって、いつも求めた人。
信じてやれなかった自分にも、責任はある。
こんなに大切にしてくれる人を、何故信じなかったのだろうと、今ならそう思えるから。

「陸が好きだよ」

またその言葉を伝えることができることを、自分も感謝すべきなのだろうと、千田は心から思った。

「強い陸も、弱い陸も、優しい陸も、わがままな陸も、全部好きだ。無理に強くなる必要も無い。大丈夫だから。
だから…あなたはただ、正直でいてほしい」

どんな感情でもぶつけてほしいと思うのは、自分も同じだ。
恋愛には、年齢差などないと、そうでありたいと思うから。

「俺だって、陸を守りたいから」

寄りかかり合うのではなく守り合うことで、きっと強くなっていける。
千田はそんな確信をもって、強い意志をもってそう告げた。

「うん…」

陸が、目を細めて頷く。
そしてふと気づいたように、ネックレスを外した。
服に隠れていたそこから現れたのは、2つのリング。もう一度きっと繋がり合えると、そう信じた陸が身につけていた、2人を繋ぐ糸。
そこから、陸は一方だけ抜くと、それを千田の右手薬指に嵌めた。
然るべき相手の元に無事戻ってくれたそれを眺めれば、

「良かった……」

心からの言葉が漏れて。陸は気が抜けたように、向かい合う千田の肩に頭を乗せた。
そんな自分の頭を優しく撫でてくれる千田の手は、やっぱりひたすら優しくて、何より安心できる。

陸が頭を起こして見つめ合えば……
どちらからともなく、重なる唇。
あっという間に訪れる、感情の波。
空いていた距離を埋めるように、強く、深く……。
陸の手が、千田のコートに触れ、そっと脱がせた。

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