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「COOL(実×大)」
後編:五十歩百歩

COOL 後編-3

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「俺の何が、お前にあんなこと言わせた?」
「………」
「お前はいつから、俺の気持ちを疑ってたんや?」

気持ちを疑われていると、それは実も、この一連のやり取りで何となく気付いていた。
でも、その理由が分からない。大河の不安や苛立ちを募らせたのは、それを爆発させたのは一体何だったのかと、考えてみても実には何も浮かばなくて。
ただひとつ予想できるのは、言葉が足りない上に失言の多い自分だから、大河を知らず知らずのうちに傷つけてしまったかもしれないということ。そしておそらくそれが、正解だろうと。
だからしっかりフォローしたいし、そんなことは出来る限り減らしたいから、ちゃんと話して欲しいのだ。諦めて欲しくないのだ。
それなのに……

「……わからん」

大河から出たのは、そんな曖昧なもの。
しかしそれこそが大河にとっては、本心でもあった。
見つめ合い、実が辛抱強く大河の次の言葉を待っていれば、

「……実が、好きやから」

震える声で出てきた言葉は、またもや核心から大きくずれているもの。それは大河本人も自覚があるのだが、あんなに貯めこんでいたフラストレーションの原因が、予想外の反応ばかりを見せてくる実を前にすると言葉にならなくなっていた。

「実とこういう関係になって、俺、浮かれてた。すれ違うことも、お互いのズレも、何もかも、気付かないくらい。それを受け止める心の広さも度量の深さもないから、無意識に目を逸らして。
だから、気付いたところでどうしたらええか分からなくて。とりあえず逃げるしかできなくて……。でも、逃げたところで行くとこないし。イライラするばっかりで。
俺がどんなに焦っても、実は相変わらずモテるし、直希は優しくてアホやし、天野さんは可もなく不可もなくやし、それなのに歌詞はめっちゃ捗るし、カフェオレよりブラック飲みたかったし……
もう分からん。ごめん……」

上手く回らない思考回路では、言葉はただの羅列になるばかり。いつもの饒舌さは鳴りを潜め、大河は肩を落として俯いた。
その姿に、実もようやく、大河の異変の原因を理解した。

稽古場で、もの言いたげに自分を見つめたり、時折難しそうな顔をしていた大河。
CMで共演した子との一件を持ち出した彼を軽く笑い飛ばした自分に、激怒した大河。
自分が誕生日を覚えていたことに、意外そうに目を丸くした大河。

―――そうか、俺が…

真剣に悩んだり心配してくれていた彼に対して、あまりに無神経な態度をとったのだと。
彼のやきもちがあまりにツボだったからとはいえ、呑気に笑ったことが、彼には"バカにされた"と受け止められたのだと。
正確に、実は理解した。
目の前で俯く大河は、華奢な体がいっそう小さく見えて、頼りなくて。

「大河」

実は自分まで切なくなってきて、優しい声と共にその体をそっと抱きしめた。

「ごめん。俺また、デリカシーなかったんやな」

大河がどれだけのフラストレーションを抱えていたのかは分からないが、自分に群がるいくつかの誘惑がすべて彼の耳に入ったのならと思えば、実にもある程度は予想できる。自分に置き換えてみれば、それは如実に。
誕生日を忘れているのではないかという懸念だって、自分には彼の誕生日を覚えていることが当たり前すぎて予想もできなかったが、大河の性格を思えばそれだって理解できる。何も言葉が無ければ、そんな不安を抱えるだろうことは。
そしてその状態で、あんな風に軽く受け流されれば……腹がたつのも、あんなことを言いたくなるのも、手に取るように分かった。
そう、自分はここまで、大河のことを理解しているというのに……

「お前を気遣えてなかったわ、ホンマにごめん」

どうして今日、稽古場で何か一言でも言ってやれなかったのかと。さっきの会話の中で、大河のやきもちに隠された不安をどうして見抜いてやれなかったのだろうと。いちいち鈍い自分が腹立たしい。
それなのに、大河が他の人間に誘われたことに動揺して、あんな風に怒鳴るような真似をするなんて。余裕がなさすぎて、自分で自分に呆れてしまう。

「心配なのは、俺も一緒やのに。俺、誠意がなかったよな」

この可愛い恋人が、多くの好奇の目に晒されていることなど、実にはちゃんとわかっている。彼を取り巻く誘惑は、大河本人が気づかないから事なきを得ていることが多いだけで、実際は頻繁にそこら中に転がっていることだって。
それなのに、

「心配?実がか?」

やっぱり大河は、何も分かっていない。
しかしそこを指摘したところで大河が理解するわけもないことを、実は分かっているから、

「そうや。好きな相手なら、心配になるもんや」

それも強ち的外れではないからと、そんな言葉で片付けて、頭を撫でた。

「俺、言うたやろ?大河は、今までの相手とは次元が違うって。お前相手やとな、俺はクールにカッコつけてなんていられへんねん」

面倒事のない省エネの恋愛なんて、そんなもの、大河との恋愛に於いては欲しくもないと。
再び体を離して、でも至近距離のまま見つめれば、大河も見上げて視線を合わせてくる。それだけで、実は嬉しいと思った。
そう、自分もまた、彼と同じなのだ。

「だからな大河、俺やって一緒やわ。浮かれてたから、いろんなことに盲目的になってたかもわからん。
お前の心配を軽く笑い飛ばしてしまったのも、決してバカにしたわけではない。可愛いって言うたのも本心や。お前とやっと誕生日祝える状況になれたことでホッとして、いろんなこと無視してしまっただけや。お前とのズレを、俺も気付いてへんかった」

大河の言うとおり、確かに自分たちはすれ違ってばかりだ。
でも……

「でも、すれ違うことは、悪いことなんかな?」

この僅かな時間で、大河の気持ちを知って、自分の状況を理解して。その上で実が出した結論は、それだった。

「……え?」

意外な言葉に、大河が久しぶりに言葉を発する。
その視線を逃さないようにしっかり捉えて、実は自分が見つけたその答えを伝えた。

「俺らは確かに、すれ違って、その度に軌道修正してるかもしれない。でも、それでええと思うんや」

付き合いまでも付き合いだしてからも、こうしていちいちズレてすれ違う自分たち。それはきっと、この恋が自分たちにとって経験したことのないことの連続だからであって。相性の問題ではないと思えるから、

「それは軌道修正じゃなくて、新しい道を、2人で作ってるってことにはならんか?」

互いの違いを認識した上で、そこから2人だけの答えを…道を、作っていく。恋愛とは、そういうものではないかと。自分たちがしてきた行動は、無意識にそうだったのではないかと。

「お前のこと、分からなくてイラつくときもある。それでも俺は、お前の傍に居たいし、俺の傍に居てほしい。だって、イラつくのは、好きな証拠やんか。
俺は、お前と作っていく新しい道が、いつだって正しいと思ってる。強引な軌道修正しとるだけなんて、思ってない。
だから、少しでもズレを感じたら、言えばいい。俺もそうする。2人で考えればきっと解決策は生まれてくるし、そうやって歩いていきたい。
……なあ、お前もそうやろ?」

そして、実は大河の手を引いた。
今度は素直についてきた大河をソファに座らせると、実はテーブルに置きっぱなしにしていたバッグから袋を取り出し、大河の元へと戻る。

「なあ大河」

隣に座って肩を抱き寄せれば、大河の体は素直に実に寄り添い、手を頭に移動すれば、素直に実の肩に乗る。そんな大河が、やっぱり実は可愛くて仕方ないし、愛しいと感じた。

「これ、お前に…」

空いた手でその袋を渡せば、大河も意味は理解したようでそれを受け取った。誕生日に、ラッピングされたものを差し出されれば、それが誕生日プレゼントだということぐらいは誰だってわかるだろう。
しかしそれをジッと眺めてばかりいる大河は、まだ状況についていけていないのか、それともまだ迷いがあるのか、どちらにせよ開封する様子がない。だから実は、その袋をツンツンとつついて、大河に開けるよう促した。
実をチラリと伺って、大河が袋を開封する。
中から出て来たのは、以前大河が目をつけていた、人気ブランドとデザイナーのコラボによるキーケースだった。そしてそこには、1つだけ、すでにカードキーがつけられていて……

「これ…」

見覚えのあるそれに、大河が思わず顔を上げる。
それは、実のマンションのカードキーだった。

「お前に、持ってて欲しいんや。いつでも出入りしてええから」
「え、でも…実そういうの嫌いやって…」
「それは、今までの相手やろ?何度言わすねん、お前は別やって」

もちろん何度でも言ってやるが、それにしても察しが悪すぎだろうと、自分自身のことには相変わらず鈍い大河を実が笑う。それでもまだ理解しきれていない大河の髪にキスをして、いつの間にか肩から離れてしまっていたその小さな頭をまた引き寄せた。

「俺は言葉も態度も足りないらしくて、それはずっとそう言われてきて、それが原因で去っていった恋もある。
そういうとき、今までは、"ああしゃあないな"ってそれだけで。
でも今回ばかりは、お前だけは、違う。お前にだけは、俺の本気を、わかっててほしい。
この鍵もな、そういう意味や。俺の空間に、俺との距離に、お前には遠慮とか躊躇はして欲しくない。お前だけは、俺のテリトリーにいくらでも入り込んでええねん。
でも俺は、それを上手に伝える自信がないから。鍵渡せば、意味わかってくれるかと思ってさ。言葉が足りない分、何かしらの形で伝えたくて。それで伝わればええなって」

そしてこれからも―――

「俺なりに伝えていきたいし、それでも足りないなら言うたらええわ。いくらだって俺は、お前になら答えてやるから」

だから受け取ってくれ、と。大河の手をキーケースごと握りしめる。

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