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「最愛(直×大)」
4:暗い日曜日

最愛 4-3

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「もうすぐ着くで、大河」

誠に優しく肩をゆすられて、大河は目を開けた。
少し眠ったことで逆にだるくなるのはよくあること。うんうん唸りながらブランケットで目をこすっていると、隣で誠が笑う。

「お前、ホンマに26か?」

お子チャマやな~と、頭をグリグリと撫でてきて。その大きな手の温もりすら心地よくて大河はまた目を瞑ろうとするのだが、

「アカンで大河。ホンマに着くから」
「う゛~~」
「俺に背負われて東京駅のホーム歩かれたくなかったら起きろ」
「……はーい」

本当にそれぐらいのことをしでかしそうなのが誠の怖いところなので、大河も仕方なくブランケットを畳んで体を起こす。

「アハハ、髪がクシャクシャやで」

どこまでも子供っぽい大河を笑いながら、髪が跳ねた後頭部を誠が直してやっていると、

「大河さん」

不意に声をかけられて、大河も誠も顔を上げた。
席を離れて声をかけてきたのは、既に降りる準備万端の千田だ。

「チダちゃん、どうした?」
「ごめん俺、用事が出来ちゃったんで、一緒に帰れなくなりました」
「ん?ああ、そうなん?じゃあ…」
「だから、誠さんに送ってもらってください」
「へ?」
「誠さんも事務所寄るらしいですよ。車、事務所に置いてあるみたいだし。誠さんとなら、事務所からは車で送ってもらえますよ」

ね?と千田が誠に視線を向ける。大河が眠っている間にそんなやり取りが交わされていたようで、話はついているとばかりに、誠も頷いた。

「気の利く共演者が居てよかったな、大河」

大河限定とはいえ今回は自棄にいろいろ気が付く千田に、誠は不思議だと思いつつも感心しているようだ。

「何やったら荷物も全部持ってやろうか?」
「やめてくださいよ」
「肩車したろか」
「できるもんならやってみいや」

いちいちからかおうとする誠と、そんな彼に思わず笑ってしまう大河を眺めてから、千田は意を決したように荷物を持ってデッキへと向かっていった。





陸のマンションでは、何ともいえない静寂がリビングを包んでいた。
陸が直希に打ち明けたのは、木曜日に千田に打ち明けた話と同じ。

大河の身に今起きているのは、血液の疾患で、明確な完治方法が無いということ。
とはいえ上手に付き合えば問題ないが、重度の貧血症状を引き起こせば命の危険につながるということ。
撮影現場のすぐ近くにある病院を受診時に医師が気付いてくれたことで、提携病院である都内の循環器センターに連絡してくれたこと。おかげで大河は翌日には東京で専門医の診察を受けることができ、入院していたのも都内だったこと。
そのときは既に、深刻な貧血状態だったこと。主治医は降板を勧めたが、どうしてもやりとげたいという大河の想いを汲んで、撮影先で受診した病院と連携を組み、毎日診察と治療を受けるということを条件に撮影続行を許可されたこと。
しかしそれはあくまで一時的な処置であり、大河が元気になったように見えるのは、あくまで仮の状態であること。撮影が終わり次第すぐにでも中断して治療を受けることが必要だということ。
高瀬が今忙しいのは、撮影終了後の大河のスケジュール調整とキャンセルする仕事の対応に追われているからであること。
そしてそういった事態を、大河が都内の病院を受診した際に病院側から陸に真っ先に連絡がきたほどに、事態は深刻であるということ。
それらを包み隠すことなく、陸は正直に直希に打ち明けた。

彼から一通りの事実を聞いた直希は、ひざの上で手を組んで黙り込んだまま、俯いている。それは、肩を落としているというよりは、何かに耐えているように陸には見えた。テーブルに置かれた2杯目のコーヒーは、半分以上を残したまま冷えきっている。

「直希」

久しぶりに、陸がその静寂を破った。
返事もしなければ微動だにもしない直希だが、聞いてくれていることは分かるから、陸は構わず言葉を続けた。

「追い討ちをかけるようで、申し訳ないんやけど」

この先の、まだ彼に打ち明けていないことを、話してしまっていいのかと迷う。
そんな陸の空気を察して、久しぶりに直希が顔を上げて、

「……何ですか?」

久しぶりに、言葉を発した。

「この病気はな、定期的な診察とか適切な体調管理や治療を受ければ、いったんは重くなった症状でも軽くすることができるし、抑えることもできるし、進行を止めることもできる。普通の生活ができるし、仕事に制限もない」
「…それは聞きましたよ?」
「厄介なのは、症状が重ければ重いほど、併発する合併症の重症度も高くなるということで。たとえば貧血も、そのひとつやな。大河のように、うっかり見落としたまま重症になるまで気づかん奴もいる」
「はい。それも聞きましたよ」
「これからずっと抱えていかなければならない。もちろんアイツは、ちゃんと向き合ってくれるって信じてるし、俺も支えていくつもりでいるけど」
「……そんなの、俺だって…」
「でも……」

そこまで言って言葉を濁した陸に、

「……何ですか?」

直希はまた眉をギュッと寄せて訝しげに見つめてきた。
大きなショックを受けている直希に知らせたくない事実。
しかし、ここまで話したのだから全部話すべきだ。陸は改めてそう決意して、口を開く。

「あのな?俺らの知ってる人間で、同じ病気を持っていた人がいて…」
「?はい…」
「その人もアイツと同じで元から貧血体質だったせいか発見が遅れてな、診断されたときにはやっぱり重い貧血状態で。ちょうど、今の大河みたいな状態で…」
「はい」
「俺らのオカンや」
「え?」
「すぐに休職して自宅療養しとったんやけど…」
「お母さん?お母さんて……」

直希の表情が強張っていく。
幼い頃から父子家庭の安藤兄弟。
それは、彼らの母親が―――

「1~2か月ぐらいやったかな、通院しながら自宅療養を続けて。療養言うても家事はそれなりにやっとったし、少し良くなっていくように見えたんやけど…」
「陸さん、お母さんて…」
「21年前の、4月。ちょうどこの時期や。突然オカンが倒れて。その日はオトンもおったし、すぐに救急車呼んだんやけど、救急車が来る前に意識失って……そのまま戻らんくて。次の朝、死んだんや」

母の死因は、重度の貧血による心不全。
状況的に防ぎようがなかったと、たとえ入院していたとしても同じ結果だっただろうと、当時の医師には、非情な言葉を吐かれたという。そもそも、日常生活が送れている以上、入院を必要とする患者が優先で、母に入院は不可能だったと。
それが事実なのか彼らの逃げなのかは陸たち素人には判断が難しいところだが、実際にそういうケースが、多くはないが他にも起きていることは事実で。

「今の病院の先生が、いろいろ親身になってくれとって。オカンがかかった病院のデータも取り寄せてくれたりしたんやけど、確かにオカンの場合は仕方のなかった事態かもしれないって言われて」
「………」
「今の大河が、まったく同じ状況やって…」
「……え?」
「今は一時的な処置で安定してるけど、それを長く続けることは当然他のリスクを伴うし。中断せざるを得ないんやけど……中断して通常の治療に切り替えたときが心配やって」
「なら、まずは貧血を改善すればいいんじゃないですか?」
「もちろんそこはしっかり対処してくれるらしいけど、根本の疾患が改善されない限り、貧血は回避できひんて言われた。オカンもそうやったんや」
「それはどういう意味ですか?」

少しだけ、直希の語気が強くなった。
強いのに、震えていた。
それはきっと、本当は予想できるのに考えたくないという彼の気持ちを表しているようで。

「そういう意味や」

陸だってその言葉を出したくなくて、そう答える。
その直接的な言葉を避けた上で、

「防ぎようがない場合が、ある」

言葉が震えるのを必死でこらえながら、事実を告げた。

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