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「最愛(直×大)」
5:臆病者の嘘

最愛 5-3

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ようやく動き出した道路を、直希はひたすら走る。
昼から何も食べていない腹は空腹のはずだが、不思議と何も感じず。定食屋にも弁当屋にもコンビニにも見向きもせず、ノンストップで車を走らせていく。

陸のマンションで大河とのそんな会話を教えてくれた千田は、微笑んでいるのに、瞳は潤んでいた。

『鈴野のこと話してる大河さんは、ずっと笑ってたよ』

穏やかな顔をしていたと、本当に幸せそうだったと。自分まで幸せな気持ちになれるぐらい。

『それなのに、俺、どうしてか切なかったんだ』

あの温かい空気の中に感じた、何とも言えない切ない気持ち。
今ならその意味も、痛みの理由も、分かる。
あの時既に全てを知っていた大河は、直希との関係も既に迷っていたはずだから。
今がいちばん幸せだと断言できた理由は、この先のことを予感していたから。
そして、最悪の事態も覚悟したからこそ―――

"今なら死んでも何の悔いも残らんぐらい"

『あの言葉、俺は極論としてっていう意味で聞いてたし、大河さんも俺に悟られないように冗談ぽく言ってたけど……
この事情を知った以上、本心なのかもなって思えてきて…』

あのときの大河は、直希に事実を打ち明ける勇気も、離れる勇気もつかなくて。いずれにしても、直希と自分にとって辛い現実が待っていると思えたのだろう。
その上もし、仕事まで取り上げられたら、そう思うだけで、ただただ追い詰められていったのかもしれない。母親と同じ運命をたどり始めている自分の現状に、同じ結果を重ねてしまえば、きっとそれは余計に。

『防ぎようがない場合が、ある』

その可能性がどのぐらいかは分からないが、

"今なら死んでも―――"

「ふざけんなっ!」

言葉を振り払うように、直希は叫びながらハンドルを叩いた。

「どこまで俺をナメてんだよ!!」

込み上げてくる涙を必死でこらえて、ひたすら悪態をつく。
この仕打ちは何だ。この結果は何だ。
こんな大事なことを隠して嘘をついて、悪者になろうとして、それが愛情だとでもいうのか。優しさだとでもいうのか。
後から知られるリスクのある嘘なんて、そのときじゃ遅い嘘なんて、全然優しくない。一番残酷なのに、と。
だが、

『大河さん、本当はすごく怖いんだよ』

全てを話してくれた千田が言ってくれた言葉がふと、蘇って。

『鈴野の傍に居ることも、離れることも。どっちも怖いんだ』

上手に表現できないけれど、と彼はそう付け足して。

『でも俺は、大河さんが鈴野の傍に居ることが怖い理由は、鈴野からしたら恐れる理由にはならないかもしれないって思うよ』

直希に真実を知られて、恋人関係を続けることを選んだ場合に予想されるリスク。そして、もし最悪の事態が起きたときに予想されるリスク。そんなことの方が怖いと思う理由なんて、きっと直希にとっては、別れるよりは大した問題じゃないはずだ、と。

『俺は、何も言わないで別れる決断をした大河さんは、間違いだと思う。それってただの逃げだから。
だってきっと、どっちが自分の本当の望みかなんて気付いてたはずだ。それでも離れることの方がマシだなんて思ってしまったのは、鈴野のこと好きで仕方ないからだよ』

直希を想うからこそ大河は判断を誤ったのだろうと、千田は結論づけた上で、

『鈴野にお節介焼いてもらって、感情を受け止めてもらって、フレンチトースト作ってもらって、"大丈夫"って言って欲しいんだ、本当は』

きっともう気付いているんだろうけど、と微笑んだ。直希の表情を見れば、ここまでの話でたくさんのことに気付いたはずだと、千田は感じたのだ。

『でも俺たちじゃ、その迷いは消してあげられないから。
鈴野じゃなきゃ、できないことだから』

"大丈夫"という言葉が、大河にとって絶対的な威力を持っている直希にしか。

『気が済むまで説教しといでよ。
それでその後は、たくさん甘やかしてあげな』

最後にそう言って、千田は背中を押してくれた。

「やってやるよ……」

呟きながら、直希はハンドルを強く握る。荒ぶっていた感情を落ち着かせるように、大きく深呼吸した。

『敢えて考えることがないっていう、"好き"かな』

穏やかな愛情を込めた、そんな告白。
本来なら死ぬほど嬉しいはずなのに。今はただ、悲しい。
彼の深い想いが、そのまま痛みとして返ってくるから。

―――俺だって同じなんだよ、大河。

自分は考えることがないなんてことは無いが、感覚は同じ。
大河が居ることが当たり前で、大河を好きな自分が当たり前で。
彼に想われることが、ただただ幸せで。
彼が言ってくれる"大丈夫"に、いつだって助けられる。

「バカだな……」

ポツリとこぼした瞬間、呆れて笑ったはずなのに、涙が溢れた。

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