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「最愛(直×大)」
5:臆病者の嘘

最愛 5-5

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玄関を開けると、モニターで見たとおり仏頂面で直希が立っていた。
大河は無言で彼を中に招き入れドアを閉めるが、靴を脱いであがろうとした直希の腕を強く引いて、その場にとどまらせる。

「何しに来た?」

自分もサンダルを履いたまま、静かに問う。俯いた顔を上げることができず、ポケットに手を突っ込んでドアに背を預け、ちょうど目の位置にあった彼の腕の雨水を払って誤魔化しながら。すると、

「話しに来た」

直希も、静かな声でそう返してくる。

「何の話?」
「言わなくても分かるでしょ」
「お前、俺に言われたこと忘れたんか?」
「じゃあ大河は、俺が"何があっても別れない"って言ったの忘れた?」

何度も言ってると思うけど、と、今度は直希が大河の腕を引いて、そのまま中へと強引にあがった。

「ちょっ…なおきっ」

思いがけず強い力で引かれて成す術もない大河は、自分も慌ててサンダルを脱ぎ捨て、引きずられるようにリビングへと連れ込まれる。
そして突然立ち止まった直希にぶつかるようにして止まれば、

「俺に、何か言うことあるんじゃない?」

強く腕を捕まれたまま、強い眼差しで告げられた。

「言うまで帰らねぇから」

逸らすことを許さない、鎖のような視線。
そんな彼に大河は、往生際悪く目を泳がせるしかできなくて。必死で逃げ場を探していれば、そういえば洗濯物を放り込んだままスイッチを入れていなかったことに気付いて、そして自分が何の途中だったかも思い出した。

「直希、痛い」

腕を放せと訴えれば、直希もハッとして力を緩める。

「とりあえずそこ座ってて。俺、風呂上りで洗濯物も入れっぱなしやねん」
「そんなの後で……」
「髪濡れてんねん、ハゲるやろ。とりあえず座って待ってろ。すぐ戻ってくるから、入ってくんなよ」

付いてこられたらいろいろ都合が悪いことを悟られないようにそれだけ告げると、大河は直希がソファに腰を下ろしたのを確認してから逃げ込むように洗面所へと入り、思い切りドアを閉めた。

洗剤やら柔軟剤を入れて、洗濯機のスイッチを入れる。
閉じたフタに手をついた大河は、

「何やねん、アイツ……」

想定外の事態に、頭を抱えた。
直希はいったい何に気付いたのかと、それを考えるだけで恐ろしい。
しかし動揺した頭では思考は正常に回らず、単純に直感だけで来ただけだろうと思い直すぐらいが、今の大河には精一杯だ。別れたくない、振られたことを信じたくない、そんな気持ちが、"大河は自分に何か隠している"という想像に至ったのだろうと。納得できないことはとことん追究してくる直希らしい行動のひとつにすぎない、と。
とにかく自分は彼に、あの日と同じことを言うだけだ―――大河はそう言い聞かせながら、ドライヤーで髪を乾かして。
そして、洗面台に置いたままのそれらに目を遣った。

これは、隠し通すべき秘密。
絶対に、知られてはいけない。
会話の中にほんの少しでも、悟られたら最後だ。

1つ1つフィルムからすべて取り出して、全てを手のひらに載せて。
口に入れた瞬間、頭をよぎる、21年前の母の姿。当時5歳だった自分が確かに覚えているほど、鮮明で衝撃的だった光景。
同時に押し寄せる、孤独と不安―――

「………っ」

こみ上げそうになる涙ごと水で流し込んで、感情をこらえるように唇を噛みしめていれば、扉の向こうにいる直希への罪悪感も押し寄せてきた。
自分のために、彼は負わなくていい傷を負ったのだから。
でも自分は、綺麗な別れ方を知らなかった。他の断ち切り方を知らなかった。

―――くそ…

大きな溜め息が漏れて、そのまま洗面台に手をついて肩を落とす。
これが、彼を傷つけた罰なのだろうか。
改めてあの裏切り行為をすることになるなんて、あんな言葉を告げることになるなんて、そんな勇気どこにも残っていないのに。

「今の何?」

いきなり声をかけられて、大河の体は大きく跳ねた。
声の主なんて、分かるのに。
そんなわけがない、そう思いたい一心なのか、大河は体も頭も動かない。
扉は閉めたはず。確認した。だから開けば気付いたはずなのに、洗濯機の音とドライヤーで気付いていなかったのだろうか。視界に入るはずの姿も、焦りから視界が狭くなっていたのだろうか。
そんな考えを巡らせているうちに……

「何してんの?」

さらに近く、真横で声がして。その声は決して大きいわけではないのに、大河の鼓膜を突き破るほどの衝撃を放つ。
かろうじて動いた首をゆっくり回して、その姿を確認すれば、

「直希……」

当然、その人が居た。
呆然と立ち尽くす大河の足元のゴミ箱から、直希はフィルムの1つを手にとると、

「これは何?」

厳しい声で、問いかけた。
頭が真っ白になった大河には、何の言い訳も出てこない。

「大河さ、俺に言わなきゃいけないことあるよね?」

そう言いながら直希が、手にしていたフィルムをまたゴミ箱に放って、

「例えば、大河がここ最近、会ってる人の話、とか」

その手を青白い頬に伸ばし、

「K循環器病研究センターの、黒崎先生、だっけ?」

そう告げれば大河は、今度こそはっきりと目を見開いた。

「どうして……」

いったい何故彼が知っているのだと、彼から一歩後ずさりながら呟く。
その瞬間、

『ごめん俺、用事が出来ちゃったんで、一緒に帰れなくなりました』

新幹線のあの言葉を思い出して。

「チダちゃ…」

まさか彼が―――と思った瞬間、

「千田じゃないよ」

大河の思考をあっさり否定した直希が、一歩近づいてきた。

「彼氏の方」

それはつまり、

「兄貴が…?」

千田よりは有り得る犯人に、大河は脱力した。

「千田も確かにその場に居たけど、アイツは心配して同席してくれてただけ。ちょっと世間話した程度」

千田が自分に話してくれたことは言う必要ないだろうと、直希はそう思っているのでそれだけ告げた。
それよりも今は、

「……なおき…」
「逃げないで、大河」

この状況への動揺からか体を震わせる大河の腕を、直希はそっと掴んで。
そのまま引き寄せ、優しく包み込む。
硬直した大河の体は、やっぱり頼りなくて……

「バカだな」

こんな体で背負える重さの荷物じゃないだろうと、背中をさする。

「"ここには入らないで下さい"って?」
「………」
「鶴の恩返しじゃあるまいし」

そんなタマじゃないでしょ、と笑ってみせるが、もちろん大河は笑わない。

「なぁ、俺のこと、本当にもう好きじゃない?」
「…………」
「本当に冷めた?」
「…………」
「本当はあの時、もっと違うこと言うべきだったんじゃないの?」

陸からすべてを聞いたとはいえ、今こうして実際にそれを目の当たりにすれば、直希のショックは大きかった。
何よりも、あんな表情を見てしまったら、それをこの数週間見逃していたのだと実感してしまったら、不可抗力とはいえ後悔が募る。

「陸さんから聞き出せたから良かったけど、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだよ。
何でひとりになろうとすんの。どうして、俺に隠れてあんな顔するの。嘘つきは大嫌いだって、前に大河が言ったんだよ?ちゃんと話してよ。な?」

直希は10日前のように怒鳴ることはせず、言い聞かせるように、何度も大河の背中をさすりながら訴える。

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