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「最愛(直×大)」
6:2人のラストシーン

最愛 6-1

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【6:2人のラストシーン】

目的どおり大河から別れを撤回させて、安心した直希が気付いたのは、夕飯をまだ摂っていないことだった。
冷凍庫に余りものがいろいろあるから食べていいと許可をもらい、冷凍保存とはいえ、久しぶりに大河の手料理を食べることができて。自分は夕飯は済ませたからと目の前でアイスを食べる大河も久しぶりで、相変わらず美味しそうに食べる彼をじっくり眺めていれば、

『食いたいか?』

とスプーンを差し出されたので、直希は大河の手ごと自分に寄せた。
それから洗濯機がとっくに止まっていることに気付いて、慌てて2人で手分けして干して。
そんな、今までは当たり前だったことがどれほど幸せなことなのか。決して忘れていたわけではないが、一度は失った日常の大切さに、直希は改めて気付かされた。

『片付けしとくから、風呂であったまってきな』

数枚の皿ぐらい洗っておいてやるから、と言ってくれた大河に甘えて、直希は風呂に入った。
3月も終わり間近といえど今日のように肌寒い日は、大河がバスタブに張ってくれたお湯が身に染みる。しっかり体を温めて浴室を出れば、いつの間にか大河がつけておいたらしき小型ヒーターが脱衣所に温もりをくれていた。うっかり出し忘れていたタオルと着替えも、揃えられている。こんなことも、今まで当然にされていたこと。
そう。彼のさりげない優しさは、いつでも自分のそこかしこに転がっているのだ。

―――大河もたいがいお節介だよな

人のことを言えないだろうと、笑みが漏れる。
ただ厄介なのは、大河限定で世話焼きの自分と違い、大河は誰にでもこんな優しさを振りまくことだ。と直希は思う。
この部屋にこれまでいったい何人の仲間たちが泊まりに来たかは知らないが、その度に大河はこんなことをしているに決まっている。料理だって、当たり前のようにふるまっているのだろうことは、仲間たちの話を聞けば容易に想像がつくから、

―――まったく、面倒見の良い恋人を持つと大変だな

なんて、そんな心配も、いつものこと。
外しておいたピアスをまたつけながら、取り戻した"日常"をひとつひとつかみ締めて。
それからリビングに戻ると、とっくに洗い物を終えていたらしき大河は、ソファで眠ってしまっていた。
毛布をかけてやろうかと寝室に入った直希は、開いたままのバッグに何気なく視線がいって。その中の白い紙袋に目が止まり、何気なく手にとった。

"K循環器病研究センター"

病院名が書かれたそれは、おそらく大河が洗面所から先ほど持って行ったもの。忘れないうちにバッグに入れておいたのだろう。中には、やはり先ほど見た数種類の薬が入っている。これらの効果についてはついさっきここで聞いたばかりだが、やっぱり大河は、何でもないことのように話していた。

『こんなん飲んでしまえば一瞬やし、水だけ飲んでるのと変わらんわ』

困ったように少し笑いながら、少し早口で。まるで、何か感情を出してしまわないかのように。直希に心配かけたくないのか自分自身に言い聞かせるためなのか、きっとどちらも正解だろうとは思う。

『今の俺には、メシより大事なモンかもしれんしね』

そんな大河の言い分はもっともだし、分かってはいるが…

―――あれが、水飲んでるって顔かよ

これを口にした途端に見せた、さっきの大河の表情が頭から離れない。
もちろんあのときと今では状況は変わったが、あの瞬間の感情が、全て孤独からくるものだったのかと考えればそれは違う気がする。
恐怖や不安、そんなものが入り混じっているのだろうと。そしてそれは、誰にどんな言葉を投げかけられたって、状況が変わらない限り大河に付いて回る。
そしてこれだけは、直希にもどうしてやることもできない、傍に居ることしかできない。それが歯がゆいと思う。

「……ん?」

じっと眺めているうちに直希はふと、その袋に入っている、小さな布の袋に目が止まった。
一体何だろうと手に取れば、固い感触。
それは、感触だけで大体想像できて。
ハッとして、袋の口紐を解いて逆さまにして、それを出した。

―――やっぱり……

出てきたのは、予想通り指輪。直希が一昨年プレゼントしたもので、今までは大河の胸元で輝いていた。
そういえば、と直希はそこで気付いた。
大河は、別れを切り出したあの日、部屋の鍵は返してきたが指輪は返してこなかったことを。

別れた恋人からもらった指輪を、こんなところにしまう理由。
引き出しの奥でもなく、こんな場所に。
それが、うっかり忘れて放ったわけではないことなんて、傷つかないように袋に入れている時点で明白だ。

「まったく…っ」

指輪を握り締めて、直希は声を詰まらせた。
本当に彼は、つくづくバカだ。
裏切りの言葉を吐いて自分に恨まれたと感じながらも大河はきっと、この指輪を唯一の心の支えにしていたのだ。この指輪と共に交わした約束や歩んだ時間や想いが支えになっていたから、ここに忍ばせていたのだ。
中のものを口にする瞬間、自分の状況を実感する瞬間、一番の不安に苛まれる瞬間、必ず目に留まるようにと―――

「何やってんだよ……」

指輪を握りしめたそれを、胸に近づける。
そこからじんわりと伝わってくる感情を思えば、これをしまったときの大河の姿が目に浮かんできて胸が苦しい。

しかし直希には、ひとつだけ気付いたこともある。

傍に居ながら、何もできていないわけじゃないのだと。
自分の想いそのものが、大河を支えている。こんなにも自分は、彼に想われている。それを確信すれば、直希は頭の中の霧が晴れたような気持ちになってきた。
そうだ、落ち込んでいる暇はない。悲しんでいる暇はない。
終わったことは仕方ないのだから、大河のここ数週間の想いに心を痛めていても何も始まらない。

『気が済むまで説教しといでよ。
それでその後は、たくさん甘やかしてあげな』

千田の言う通りだ。
いくらでも甘やかして、いくらでもお節介を焼けばいい。今までの分を取り返せばいい。

医者が救えるのは命だ。心までは救えない。
大河の心を救えるのは、自分しかいない。そうでありたい。
強い決意を胸に、直希は寝室を出た。



リビングに戻り、寝室から持ってきた毛布を、大河にそっとかけてやる。
全てを打ち明けて安心したのか脱力したのか、大河はよく眠っていた。
あどけないその寝顔に直希は思わず微笑み、ソファを背に床に座って、優しく髪を撫でる。

「敢えて考えることがないぐらい……か」

空気の中に漂っている"好き"だなんて、大河らしいと思う。呑気に寝転がったりフラフラと歩くのが好きな彼らしい表現だし、そんな穏やかな愛情こそが、自分を包んでくれていると直希も思えるから。
誰が聞いたって重くて面倒臭くて激しい自分の想いを、大らかな笑顔と心で受け止めて、幸せだと言ってくれる。この想いを、支えにしてくれる。それがまた、直希を強くしてくれる。

「俺は、好きだってことを考えない暇もないくらい好きだよ」

囁いて、おでこにキスをして。
テーブルにささっとメモを残すと、直希はコートを片手に部屋を出た。

"ちょっとコンビニ行ってくる"

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