Old flame 2-6

陸は、自宅のリビングでビールを飲みながら、ふと帰り間際の会議室で見かけた光景を思い出していた。

実に連れ出される大河。何となく気になってそれを眺めていると、そんな２人をポカンと眺めている風見がいて。
その後彼は……フッと微笑んで、視線を外した。
そして陸に気づいて陸にも笑顔で軽く手を上げると、風見はあっさりと去って行った。
あの笑顔に、邪気や他意は無さそうで。元々風見という人間は裏表のない性格だから、単純に２人を微笑ましい思いで見ていたのだろう。あの様子からして、きっと実と大河の関係に気づいているであろうにもかかわらず、だ。

―――不思議な奴やな…

風見の件がどうなったかは、分からない。
そもそもあの２人の間にあったことは、陸は何も知らない。２人が噂になる程ベタベタと並ぶ姿を見たことも無い。
風見と実という、あまりにも絵になる２人だからこそ、噂が一人歩きした可能性も高い。
意味深な会話は気になるが、今日の実の様子を見れば、彼が誰を優先しているかなど一目瞭然で、意外と大したことないのかもしれないと思える。だから、実を信じて任せるべき問題で、何も知らない自分が心配するのも違う気がしている。

まぁ大丈夫だろうと、あまり深追いすることをやめ、陸は読みかけていた資料に視線を戻す。
今週は、POLYGONのバレンタインイベントを大阪で行うため、金曜日から移動だ。

"特別ゲスト"

今回のイベントに、プロデューサーとしてもタレントとしてもゲスト出演という形で参加する自分の他に、POLYGONにゆかりのタレントとして参加するタレント３名の中で、１人の人物の名前が目に留まった。

「…あ」

久しぶりに目にする、その名前。
そして陸の頭に浮かぶのは、ある２人の噂。
陸が昨年、千田との交際をスタートした頃と同時期に起きていた、それはいつかそうなるのではとどこかで陸が恐れていた、世間は知らないが仲間内では有名なスキャンダル。

「アイツが居ったか……」

ソファの背もたれにドスンと体を預けると、陸は天を仰いだ。





「みのる…あっ、…んっ」
「ん？ここか？」
「あぁ……っ」

ベッドの上で絡み合う体。
素直に求め合えば、もうお互いしか見えなくて。

「分かるか？大河」
「あ…な、に…が？―――あぁっ！」

訊いた瞬間に、大河は最奥を貫かれた。

「俺のココ、お前の相手で手一杯やって、言ってるやろ？」

"ココ"と、自身を主張するように、実がまた奥を貫く。

「し、知らん…んんっ！」

激しく揺さぶられて仰け反る、大河の喉元。
唇と舌でなぞるように実がそこを辿れば、快感を示すように大河の指が実の髪に絡んで。
今日も２人は、一緒に絶頂へと向かっていく。
すれ違いを生みかけた疑惑すら、想いの強さを伝え合えた結果に変えて。


しかし。


今回はこれで終わらないことを、２人はまだ知らなかった。

問題はこれからが本番で。
それが、大河側にあって。
実の懸念が、冗談や軽口では済まなくなることを。

『お前は流されやすいから―――』

大河の"流されやすさ"を証明する過去が、２人の絆を試す過去が、目の前に迫ってきていることを。


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