Old flame 3-3

翌日。２月１０日。金曜日。
POLYGONバレンタインイベントin大阪。
前日リハーサル。

東京駅から新幹線に乗り、送迎バスでさらに１時間。会場に辿り着いたPOLYGON一行は、リハーサルが始まるまでの時間を、控え室で待つことになった。
テーブルに並び支給された弁当を食べながら大河は、既に食べ終え隣で仮眠に入っている幸樹の寝顔を撮って遊んでいた。
腕を組んで椅子の背もたれに体を預け、若干目を半開きで爆睡状態の幸樹が見せる間抜けな寝顔は、大河のイタズラ心をくすぐるもので。ラクガキしてやるのもいいが、この後のイベントを思うとさすがに可哀想なので、ＳＮＳへのアップで許してやろうと決めたのだ。

「悪いやつだな～、お前」

そう笑いながらも絶対に幸樹を起こさない面々は、なんだかんだで大河に乗っかっており。
実もまた、その一人。笑いながら傍観を決め込んでいる。

「チダちゃんにも送ってやろ～」

仕事の都合で合流が遅れている千田ともこのアホ面を共有しようと、メッセージで数枚送りつけていく。
するとどうやら千田は、ちょうど新幹線で移動中のようですぐに返事が来て。

「アハハっ、チダちゃんからブラックな返事きた～」

見て見て～と、大河は向かいの実に体を伸ばして見せてきた。

『袋とじレベルですね。５分後には法を犯すと思いますよ、そいつ』

そんな、なかなかのセンスに実も笑い、

「見ます？」

さりげなく、隣の陸に見せてやった。
陸は「何で俺？」と体裁上は言いつつもちゃっかりその画面を覗き、思わず吹き出した。

「よし、チダちゃんの頂こ」

大河はベストショット１枚をアップすると、『５分後には法を犯してそうな男byダーチー』と言葉を入れる。

「さっすがチダちゃん、神やわ」

満足そうに笑いながら、実に「ね？」と振る大河に、

「お前は千田なら何でもいいんだろ？」

幸田がツッコミを入れた。

そんな和やか(?)なムードのまま、一同はリハーサル開始までの時間を過ごしていく。
この先で、大河を巡る厄介な過去と直面することになるとも知らず―――





「お待たせしてすみません、まもなく開始しますんで」

予定より少しだけ遅れてしまっているリハーサルに、スタッフが申し訳なさそうに何度も頭を下げる。しかし間も無く始めるからと、POLYGONの面々には控え室待機を伝え、電話か何かで控え室を出たまま戻らない陸を探しにまた出て行った。

「ったく、大河は油断も隙も無いよなー」

マネージャーに起こされた幸樹は、自分のアホ面をＳＮＳで晒された事実を知り、さっきから文句タラタラだ。しかも千田からは"犯罪者"呼ばわりされる始末。
そしてその大河は、部屋の端で優雅にストレッチ中である。

「愛されとる証拠やで」

幸樹の肩に手を置いて実が笑っていると、一緒に隣で笑っていた今野が出入口に視線を向けた。

「おー、久しぶり！」

手を挙げながら、歩いていく。
実と幸樹も自然にそちらに目がいった。

「よお！」

そこには、実も昨年一緒に舞台に立った、他事務所とはいえ何かと自分たちとは接点の多い人物が立っていた。