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「立ち入り禁止(誠×風)」
6:答え合わせ

立ち入り禁止 6-3

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誠の温もりに包まれて、風見はひたすら、自分の幼稚さを後悔していた。
誠の気持ち、葛藤……自分は、彼の何を見てきたのだろうと。こんなに苦しくてやり場のない想いを抱いてしまったのは自分だけで、何も知らずに自分を慕う誠が憎くすら思えていたなんて。

"誠、気づけよ"

いつでも、思うのはそんなことばかり。気づかれたら気づかれたで困るのに、自分はひたすら他力本願だった。

10年以上も付き合いのある誠を好きになった自分。しかも、今までの誰よりも強く。恋愛には積極的な自分が怖気づくほどに。
そんな気持ちが誠に伝わらなかったのは、自分が男で、しかも付き合いの長い仲間だったからだと思っていたのに。
誠が選んだのは、男で、10年以上の付き合いがある高瀬。そう、自分と同じ関係性の人間。
それがただただ、悔しくて、惨めだった。

あの日も、そうだ。
ドラマ撮影のスタジオで楽しそうに高瀬とメッセージのやりとりをしていた(←風見にはそう見えていた)誠の姿が何となく癪に障って、幸田や実を誘って腹いせに泥酔して誠を呼び出してやった。
ちょっとだけ困らせてやろうと、ちょっとだけ邪魔してやれば気が済むはずだった。
それなのに、高瀬は余裕で、

『涼太だろ?迎えに行ってやればいいじゃんか』

そんな風に笑っている声が、風見にも聞こえていた。
それに対する、誠の言葉。

『はぁ…でも、高ちゃんと久しぶりに喋りたかったんになぁ、俺。あの人来たら絶対ムリやしなぁ』

電話口から離れていても、それははっきり風見の耳に届いていて。
部屋に戻って自分が誠にキスしたときも、ベランダに2人が消えたことは、しっかりと気づいてその後姿を見ていた。風見にはあの姿が、ハプニングとはいえ自分にキスされたことで高瀬に引っ張り出された誠が、説教されてるようにしか見えず、

『ゴメンな』

高瀬に謝った誠の言葉の意味が、そういう理由なのだと、思い込んでいた。2人へのちょっとした意地悪のつもりが、結局は自分が傷つく結果になっていた。眠ってしまったフリをしてきつく抱きしめた誠の上着から香る彼の匂いが、切なくて、涙が出そうだった。

あれから高瀬はやけに自分の前で誠にベタベタするようになって。高瀬は余裕を見せながらも一応は自分に対して牽制してきているのだと思ったら、風見もムキになっていた。
あの1週間後、誠のマンションで口論になった時だって、高瀬からの電話を一度は切ったものの、自分が風呂に入っている間にかけなおしていた誠。自分がいったんは風呂を出ていたことにも気づかず必死な姿が、やっぱり風見には辛くて……
しかも高瀬がマンションに現れたとき、誠は高瀬には部屋に誰もいないと言っていたことを知って、"ああ、変な誤解されないようにしてるんだ"と思えば、風見はまた悲しくなった。とはいえ風見だって誠を困らせたくはなかったし、皮肉だとかそういうのでは全然なくて、高瀬も中に入れてやれと言った。
ただ、ちょっとだけ意地悪してやろうかと。そんなつもりで、わざと"誠を口説いていた"だの"誠なら全然OK"みたいなこと言ったのだ。そしてそれだって、高瀬が少しでも嫌な顔したらやめるつもりだった。
それなのに、そんなときも、高瀬はいつもどおり笑っていた。困ったように笑う誠のために。
……高瀬と自分の決定的な違いを、見せ付けられた気がした。

惨めだった。
自分だけが、まるでガキのようで。
バカみたいな邪魔しかできない自分が、風見は大嫌いだった。
だからこんな子供じみたことはもうやめようと思うのに、やっぱりどうしても、2人きりにさせたくない。
想いが届かなくてもいいから、叶わなくていいから、ほんの少し期待できるだけの隙間が欲しかった。


そんな中での、今日の高瀬の言動。
それは、遡ること、数時間前―――


「涼太、俺と誠のこと誤解してない?」

天野と飲んでるから来い、と言われて風見が指定されたのは、高瀬のマンションで。相談ごとはいいのだろうかなんて思いながらも風見は、それでもたまに開催するこの同年代仲間との酒を楽しんでいたつもりだった。
高瀬にだって、誠のことさえ絡まなければ大事な友人だし、かつてのライバルとして認め合えている。天野のことだって、元々は高瀬のマネージャーだった彼とは交流も多いし性格的にも好きなので、このトリオで飲むのは好きだ。
しかし、誘った高瀬が、自分のマンションで飲んでいるというのに一切アルコールを口にしていなくて。何か違和感を感じた風見が『何?』と首を傾げると、それに対する高瀬の答えが、それだったのだ。

「誤解って、何が?」
「俺と誠が、ステディな関係にある」
「………」
「だろ?」
「だってそうなんだろ?」
「ほーら、やっぱり」

な?と天野に視線を向けた高瀬は、酷く楽しげで。
それが余裕さからくるものなのか、それとも自分への牽制なのか。風見にはどちらにも思えて、一気に眉を寄せた。
なぜなら、風見は以前、そう、誠と口論になって2人きりになったあの夜、高瀬からしっかりと"宣戦布告"されていたのだ。


*****


あの日、部屋を飛び出した誠の後姿を、風見はジッと見るしかできなかった。

「誠!」

高瀬は誠を心配して追いかけようとしたのに、高瀬の腕を思わず引いてしまった風見。その行動で、勘の鋭い高瀬は分かってしまったのだろう。自分が、高瀬に誠を追いかけさせたくなかったのだと。
高瀬はきっと、いつからか自分の気持ちに気付いていたのだろうと、風見はあの日察した。なぜならあのとき高瀬は、、

「俺、涼太がムキになった理由は敢えて訊かないけど」

誠が出て行った不気味なほどに静かな部屋の中、呆れたように溜め息をついて。

「そういうの、あんま良くないと思うよ」

そう切り出したのだから。
困らせて怒らせて、言いたくないことを言って傷つけて、そうやって相手の気を引くのは感心しないと。いつから気付いていたかは知らないが、あの言い方は確信的だった。
まさか、その1週間前、寝たフリをして自分がキスを仕掛けた真相を、高瀬が全部正確に気付いてしまったなんて知らなかったから。親友を見くびってしまっていた風見は、的確な指摘を受けて何も言い返せなかった。

「涼太が俺らの何を誤解してるかは分からないけどさ、俺らは、涼太が思ってるような関係じゃないよ」

自分たちは付き合っていない、それはただの勘違いだと、高瀬ははっきりと告げる。告げた上で、さらなる忠告をしてきた。

「ただそれは、今、な」
「……どういうことだよ」
「今は、そういう関係ではないけど、その先は分からない」
「……司、何が言いたいの?」
「涼太があんまり誠を困らせるから、誠があんまりにも痛々しくて、俺も感覚鈍りそうだ」
「だからどういうこと」
「あんな風に傷つけて、誰がフォローすんの。涼太が傷ついたとき、いつも誰がフォローしてくれてる?誰が傍に居てくれる?辛いとき、涼太が一番安心できたのは、誰?」
「それは……」

誠だった。
年下っぽく慕って頼ってくるときもあれば、まるで自分よりもうんと年上の大人のように頼りがいもある。無条件に、自分を受け入れて守って、必要としてくれる。それが誠だ。
それは、この13年、一度も変わることなく。自分を支えてくれる仲間たちの中でも一番、誠が風見にとっての安らぎだった。誠も風見を信頼し、何でも真っ先に相談してくれた。
そんな誠を、自分は、酷い言葉で傷つけた。
口から出まかせであったとはいえ、"高瀬に傍に居てもらえ"だなんて……。

「俺はさ、涼太があんな発言した原因なんとなくわかってるから、まぁそんな気にしないけど。ほら、アイツは知らないからさぁ、傷つくよそれは。いくら楽観的でハートも強い誠だって、人間なんだから」
「…………」
「だから俺、追いかけようとしたのに、涼太引き止めてくるし」
「だって……」
「だってもくそもあるか。あいつがどんな思いで涼太に捨て台詞吐いたと思ってんだよ」

『俺たちの13年って、そんなもんやったんか。
何があっても信頼と絆は壊れへんて、仲間への敬意は一生やって、あれは全部嘘かっ。これのどこが敬意や、ふざけんなっ。
そんな風に思ってたのは俺だけってことかっ!』

誠の、泣きそうな叫びがよみがえって。ハッとした風見は、謝ろうと思って立ち上がったのだが。
その腕を、今度は高瀬が引いた。

「どこ行くの」
「誠探しに行く。多分、近くの公園あたりに居ると思うから」

落ち込むと必ずといっていいほど誠が行く場所。それを自分は知っている。だからきっと、あそこに居ると。
しかし、やはり高瀬は腕を離してくれなかった。

「今行って、お前、アイツに何を言うの」
「だから、謝るんだって」
「何を」
「何をって……」

訊かれて、風見は言葉に詰まった。
自分は、何を謝ろうとしているのだろうと。
そもそも、誠が今欲しい言葉は、自分の謝罪なのだろうかと。
それは、明らかに的外れな気がした。

「落ち着けよ涼太。座って、2人で待とう」
「でも……」
「大丈夫。明日も撮影あるんだろ?ぜったい戻ってくるから」

だいたい、話の途中だぞ。と言われて、そういえば自分たちは、何か大事な話をしていたんじゃないかと風見も思い出した。高瀬が、すごく意味深なことを言っていたことを。

「涼太、どんな理由であれ、誠を困らせるのはもうやめろって」

向き合って座らされて、言われた言葉に少しだけムッとする。
自分だって、好きで困らせているわけじゃない。ただ、こうするしか自分の気持ちが抑えられないだけだと。
そんな風見を見透かすように、高瀬は軽く笑って。

「涼太のそういう意地っ張りなトコ、俺けっこう好きだけど。でもこれは話が別。
だから、涼太がそういう態度取り続けるなら、俺にも考えあるから」
「え……」
「俺も本気出す。いいな?」

短くて、だが風見に打撃を与えるには十分すぎるほどに重い、宣戦布告だった。

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