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「Turning point(直×大)」
1:試合開始

Turning point 1-3

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翌日。約束通り会場のメンテナンスが無事終了し、仕事組のメンバーもゲスト参加の後藤(アイプロ所属のピン芸人。『女は災い』参照)も合流し、全員で前日リハーサルが行われた。
前日の今日からはテレビ出演などもなく、リハーサルが終わればホテルに帰れる。合流メンバーの移動時間を考慮してリハーサルは午後から行われたため、午前中もゆっくり休めて、大河もようやく体力的には余裕ができてきた。

「大河、ちょっといい?」

直希に声をかけられたのは、そんな、前日リハーサル後の夜。
のんびり温泉に浸かって暑くなったせいか、多少みっともないことを承知で浴衣を着崩して夕飯会場に訪れた大河は、彼にそう言われて腕を引かれ、立ち止まった。
至近距離で触れられて見つめられ、

「な…何?」

細身とはいえしっかり鍛え上げられた体と、少し日焼けした直希の浴衣姿はとても似合っていて、ドキリとする。ここに来てからは毎日見ていたその姿だが、改めてそう思うほど、自分たちの間には1つ距離が空いていたのだ。

「あのさぁ」
「え…?」
「さっき、大河が入ってきたときから気になってたんだけどさ」
「…何、が?」

直希の手が大河の首元に近づき……

―――え、何?

こんな、みんながいる場所で何を……
と、思った瞬間。

「行儀悪いよ?」

クイッと、襟元を直された。

「……は?」

拍子抜けして目を丸くする大河に、直希は呆れたように笑い、

「大人なんだからさ。上手に着れないなら、中にTシャツでも着たらいいのに。って前にも言ったよね?」

そう言って肩に手を軽くポンと置いてから、大河をすり抜けて去っていく。
唖然とした大河はそのまま立ち尽くして、たったいま直された襟元に手を置いた。

―――そんなこと、今まで言ったことないやんか

確かに、泊まりの仕事ではビジネスホテルが殆どだから、直希の前で浴衣など着る場面は数回程度だ。昨年の、POLYGONのレギュラー番組でのロケ以来だろうか。
そして昨年のロケでも確かに大河は上手に着れなかった自覚がある。さらにその前だって、浴衣を着るような宿に泊まる度に、大河は誰よりも着るのに時間がかかる割に誰よりも早く着崩れた。
しかし、そのどの時においたって、

―――いつもお前が直してくれたから…

子供じゃないんだから、と苦笑いをしながらも、直希はいちいち直してくれた。何故そんなに拘るのかはよく分からないが、直希なりの拘りなのだろうとぐらいに思っていた。
しかし、だとすれば、自分以外にもそうした人間はチラホラいるのに、と大河は思う。今だって、拓郎に至っては、着なくてもいいんじゃないかというほどで。
なぜ自分だけ、子供のように窘められなければいけないのだ。しかも普段は自分よりもチャラチャラした外見の、しかも多少とはいえ年下に。

「大河?」

立ち尽くしたまま動かない大河に気付き、直希が振り向く。

「何してんの?行こうよ」

数歩進んでいた足を戻してきた彼に、軽く腕を引かれて。
普段の大河なら、こういうとき思い切り手を振り払って悪態のひとつでもつくが……そんなこと、こんな場でやるわけにもいかない。そもそも、イベントはこれからが本番だし、ここで険悪なムードを作るほど自分だってバカではない。根はガキだということは認めるが、その辺りの空気は誰よりも気を遣っている。
だから大河は、

「真夏にTシャツとかムリやろ」

乾いた笑いにはなったが何とか笑顔を向けて、なんともいえないイラ立ちや消沈した気持ちを隠し、

「腹減ったわ~。チダちゃんおるかな~?」

今度は自分が直希をすり抜けて、歩き出す。
直希はそんな大河の行動に何となく違和感を感じて、

「ちょっ…」

腕を引こうとしたが、

「お~大河ぁ、今日はグッタリしてへんやん」

ここでまさかの、実が登場してしまった。さらに少し後ろからは誠まで (←偶然タイミングがかぶってしまった一卵性双生児)。
当然大河は、嬉しそうに振り向いた。

「今日は楽勝や。東京でちゃんと準備してった分、スムーズやったから気分的にもええし」
「とかなんとか言うて、単純に時間短く済んだからやろ」
「実やって昨日までグッタリやったやんか。誠さん知らんやろうけど、そうなんやで?」
「あれはしんどいよな」

実が大河の頭をグリグリ撫で、誠が大河の肩を抱いて歩いていく。
それは普段どおりの大河で、先ほどの違和感など綺麗に払拭されていた。

「直希、何してるん?」

振り向いた実が不思議そうに首を傾げ、誠と大河も振り返って同じ仕草をしてくる。

「あ、うん」

直希も慌てて一緒に歩き出した。
楽しそうに会話を続ける立花兄弟と大河の後ろで、直希もそれなりに笑顔を返すものの、何かがおかしい気がしていた。
大河の様子がおかしかったのは一瞬ではあったがしかし確実で、何か自分が失態を犯したのではないかと(←そうです)思うものの、何もおかしいことはなかったはずなのに、と。

「あ、直希、今日もビール無さそうやで~」
「飲みたいのは大河でしょ。明日から本番だよ」

そんなやりとりこそあるが、大河の明るい声に、違和感だけが響く。

大河はその後、幸田と千田を見つけたことを機にさりげなく直希から離れてテーブルに着き、実も同じテーブルに着いた。
直希は直希で、冴島と鹿野に声をかけられ、誠と共にそのままそのテーブルに着いた。
それがまた大河にとっては寂しく、なんとなく直希を振り返れなかった。
大河と直希の視線が合うことはなく―――

その様子を、少し離れたところから見ていた陸がチラリと見て。
またもや、苦笑いをもらす。

「いつまでもつかね…」

それがどちらに向けた言葉なのか、もしくは両方なのかは、陸本人しか知らない。





その夜、大河は高瀬からルームコールを受けていた。
明日の朝だって会うにも関わらず電話をかけてくるということは、イコール、急を急ぐ予定変更で。

『悪いんだけど、このイベント終わったら、そのまま残れる?』

ドンピシャである。

『こっちきたときに出たテレビ番組あったろ?あのプロデューサーさんが、開局何周年かのドラマ撮ってるらしいんだけど。お前に出て欲しいってオファーが来ちゃってさ』

ご丁寧なことに、どうやら自分ひとりの仕事のようだ。

『どうしても追加したいキャラが居るらしくて、役者探してたところらしい。お前が出てくれるなら、撮影スケジュールをこっちのイベントに合わせて変更してくれるって』
「えっと…何でピンポイントで俺?」
『昨日のラジオでスケジュールの話になったとき、お前、イベント終わったらまた少し休みだって、話してたろ?あのラジオ聴いてたらしいんだよなぁ』
「ああ、なるほど…」

それは納得だと、大河は苦笑いをしながら頭を掻いた。
しかもそのプロデューサーとやらは、元々は東京の制作会社でADをやっていた人物で、大河らPOLYGONメンバーは下積み時代に何度も世話になった。
恐らく、いや絶対に断れない。それを確信して、大河はこっそり大きな溜め息をつく。

『お前を休ませたいから断ろうとしたんだけど、イメージ的にお前がぴったりなんだって言われて。お前の出演シーン的に撮影時間は短いし、2日間だけだからって…』
「2daysすか(^_^;)」

高瀬が言うには、撮影はイベント終了の2日後で、そこから2日間。先方はイベントの翌日を希望してきたようだが、大河を少しでも休ませるためにも高瀬がそこは突っぱねてくれたらしい。

『ホントにごめんな?』

電話の向こうで、高瀬が本当に申し訳なさそうな声を出している。
マネージャーという立場として、タレントのスケジュールが振り回されるのは気が重く、このイベント関連でも予定が狂っている大河に更なる急変更を言い渡すのは辛かった。
その思いを大河もじゅうぶん分かっており、事務所とプロデューサーの間に挟まれて高瀬が断り切れない事情も理解しているから。

「大丈夫やで高ちゃん。俺やるよ。今までめっちゃ休んだし、もう元気やから。撮影前に1日休み入れといてくれただけでもじゅうぶん」
『悪いな。俺も残るから、一緒に頑張ろうな』
「ええよ。高ちゃん忙しいやろ」
『大丈夫。お前働かせて俺だけ休めないっての』
「アハハ、ええのに別に。じゃあ、1日分のオフは、一緒に美味いモン食いにいこうな」

高瀬とそんなやりとりを交わし、大河は仕事のオファーを受けた。

電話を切れば、またもや漏れるのは、溜め息。
ここまでくると、直希とこのままずっと入れ違いな気すらしてきた。
この仕事が終われば、それぞれまた別の仕事もあるし、直希がいつどんなスケジュールが入っているかなんて知らない。仕事で顔を合わせたところで、そこでは当然、今のような"メンバー同士"の距離が生まれる。

―――とか思うのも俺だけか…

こんな風に思ってがっかりするのも、どうせ自分だけなのだと、自分が子供なだけなのだと……そんなことを思う自分がまた、やっぱり子供だと痛感して。

「くっそぉぉ~~大人なんて嫌いやっ」

どこのアニメだというようなセリフを吐いて、大河はボスンっとベッドにダイブした。


※出た出た、負けず嫌い。
意地を張ってないで「寂しいよ~(;_:)」って言えば、きっと直希なら甘やかしてくれるだろうに。
まあ、普通に引っ込みつかなくなってるってことですね、大河。
次回第2章の開始は、12/17(火)を予定しております。Bonnie



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