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「Stranger(直×大)」
1:見知らぬ恋人

1-1

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【1:見知らぬ恋人】

「すいませ~~ん、生4つ」

個室の暖簾から身を乗り出したヤスヒロが、通りすがりの店員にそう声をかけた。
元気よく「は~~い」と店員が答える。ようやくビールにありつけそうだ。

「つーか直希、お前、この店知ってるんだ?」

席に戻ったヤスヒロが、向かいの直希へと顔を向ける。

「うん。仲間が行きつけの店なんだよ」
「仲間って、大河さんだろ?さっきふっつーに、店員さんと喋ってたじゃん」

直希の答えに、隣に座っていたカイが笑いながらそう言った。

新作アルバムの制作が本格的に始まった9月、直希は、モデル時代からの友人であるヤスヒロとカイに誘われて飲みにきていた。そのカイは彼女連れで、その彼女・ミキもまたモデルで、直希は新人時代に雑誌で共演したこともある。
ヤスヒロとカイは1年前にモデル業を引退し、現在は一般人としてそれぞれ自分の道を歩んでいる。そして久々に休みがあったということで、飲みに誘ってきたのだ。直希もまた、殺人的スケジュールだったドラマ撮影が終わってからは個人の活動は特にしておらず、今日も午後からはちょうどオフだったので、唯一今でも付き合いが続いている仲間の誘いに乗ってやってきた。
ヤスヒロが予約を入れたこの店は、偶然にも、大河がよく行く店。フラリと一人で飲むときに訪れるらしいが、直希はすでに何度か連れてきてもらっている。とはいえまだ数回ではあるが、常連である大河の仲間ということもあり、店長や社員スタッフからは"ああどうも"と声をかけられ挨拶を交わしていたのだ。

ちなみにその大河とは、1週間会えていない。
アルバムの作詞活動に難航している上に新しいドラマの仕事も始まってしまった彼は、マンションにすら帰らない日もある。今日は早めに終わると言っていたが、直希がこの飲みに誘われてしまったため、またすれ違ってしまった。
しかしこんなところでまた、つながりを感じて。小さなことから大きなことまで、とにかく偶然をよく起こしてしまう彼とは、その度に運命なんてものを感じてしまうのだ。
すると今度は、会いたくなってくる。明日は互いに夕方からの仕事だからゆっくり会えるのだが、今夜も少しだけ早く切り上げて彼のところに寄ろうかと、それなら彼にメッセージを打っておこうと既にスマホに手をかけていた矢先に、ヤスヒロに話しかけられていたのだ。

「お前らって、本当に仲良いな」

尖ったイメージの曲が多いバンドの割りにやたらとメンバー仲が良いだけでも驚きだが、特に直希と大河の仲の良さは種類が違うと。2人が年がら年中一緒に過ごしている姿はSNSを通して彼らも目にしているようで、信じられないとばかりに笑ってくる。知り合った頃の、表面的な付き合いばかりを繰り返す直希とは別人のようだ、と。

「でもさ、2人の場合、あんまり仲良すぎて怪しんでる人も居るよね。大丈夫~?」

ミキが女性らしい鋭さで冗談を入れてきて、直希はとりあえず曖昧に笑っておいた。





「あぁぁ~~、やっぱり何か違う…!」

スタジオの一室で、大河はペンを投げて天井を仰いだ。ドラマ撮影が早めに終わり、スタジオに篭もって数時間、こんなことを繰り返している。
しかし、「どうした?」と声をかけてくれる優しい仲間たちは、今は誰も居なくて。

「……ごめん実ぅ~~こんなええ曲作ってくれたんに…」

テーブルに突っ伏し、思わず独り言を呟く。
実が作曲したメロディに歌詞をつけていたのだが、どうしてもしっくりこない。
アルバム制作が始まり、楽曲制作も最初こそ順調に進んでいたのだが、序盤でつまずいてしまった。

『あんま考え込むなよ。まだ時間はたっぷりあるんやから』

ついさっきまで一緒に居た実は、次の仕事へ向かう直前、そう言って笑ってくれていた。突然ふと言葉が思い浮かぶことが多い大河の本質を理解しているからこそ、信じてくれているのだろう。実際、インディーズ時代から4年半近く、大河が期限を守らなかったことはない。

「でもなぁ~~」

せっかくこうして時間が取れていたというのに、何も進展なしなんて、と。
大河が頭をガシガシ掻いていると、

「大河、もう帰りな?」

いつの間にか戻ってきていたマネージャー・高瀬が、缶コーヒーをテーブルに置きながら声をかけてきた。

「高ちゃん…でも…」
「大丈夫だって。実だって言ってたじゃん、"焦るなよ"って」

と、人のよさそうな笑顔をみせる高瀬は、大河のタレント養成所時代の先輩だ。
歳は違えど実と同期でもある彼は、昔から大河の才能を買ってくれていて。3年前に自身が引退すると同時に、大河の個人マネージャーになってくれたのだ。涼しい顔してハードスケジュールを組んでくる鬼の一面もあるが、大河のために誰とでもやりあってくれる頼もしさもある。
その高瀬は事務所に戻って仕事があるようだが、自分が帰る前に大河を帰そうと考えたらしい。このままだと大河が朝まで居る気がしてしまったからだ。

「出来てる曲もあるんだし、それは後回しにしたらどうだ?」
「ん~、でも、いい線はいっとるはずやし…」
「もうさ、その曲に関しては、いっそのこと全部クリアにしてゼロから考えればいいじゃん」
「え~それもなんか勿体ない…」
「でもそっちの方がお前に合ってると思うぞ?」

コーヒーのプルトップを開けてやって渡しながら、高瀬は軽くそう言った。これまでの彼を見ている限り、絶対にその方が合っていそうだと。
そして、信頼するマネージャーからそんな風に断言されれば、大河も気持ちが揺れていって。

「……そうしようかな」

確かに、既に出来ている言葉に囚われてしまっているのかもしれないと、何度も書き直した歌詞を見つめる。
高瀬からもらったコーヒーをグビッと一口飲むと、喉を流れる冷たい液体に少し気分が晴れて。

「そうやね」

言い聞かせるようにもう一度同じ言葉を吐いてから、自分も立ち上がった。
テーブルに広げたノートやらペンを乱暴にバッグに入れて、実から渡された音源データをUSBにコピーすると、自分より少しだけ低い位置にある高瀬に視線を送る。

「ありがと高ちゃん。それとごちそうさま」

ボディバッグを背負いながら缶コーヒーを振って見せて、大河はさっさとスタジオを出て行った。

「戸締りは……俺にやれってことね?」

苦笑いで呟いた高瀬の声は、すでに大河には聞こえていない。

スタジオを出て車に乗り込んだ大河は、そういえば夕飯時だということに気付いた。
こんな日は誰かと飲みに行くのもいいが、これから呼び出せば深夜までコースになるだろう。だいたい、体よりも頭が疲れた今日は、自分が主導で店に連絡を入れたり仲間を集めたりするのも億劫だ。
となればメンバーあたりを誘いたいところだが、実も拓郎も仕事があるし、唯一空いているであろう直希は…

―――今日は飲みに行っとるんやったっけ…

モデル時代の仲間に誘われたと、彼から連絡が入ったのは一昨日の夜。
大河のオフを確認する連絡ついでに、今日については『ヤスヒロたちに誘われたから行ってくるね』と言っていた。大河の仕事が早く終わりそうだと聞いて残念がっていたのが彼らしい。

―――たまには一人で行くか

久しぶりに一人で飲みにでも行こうかと、そういえばそんなことここ最近は全然していなかったなと思いながら、ならば一度車をマンションに置いてからタクシーで出直そうと、大河は車を発進させた。

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