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「Stranger(直×大)」
1:見知らぬ恋人

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「え。俺…言ったっけ?」
「言ったじゃん。2~3年前だと思うけど」
「そりゃまた随分前の話をお前…」

そんなに前の話をよく覚えているな、と直希はギクリとした。
そんな話、彼らにした記憶があまりない。
しかし2~3年前の自分といえば、叶わぬ恋から視線を変えてみようと努力を続けた結果何をしてもダメだと痛感し、大河だけを想うしかないのだと覚悟していた頃だ。無意識にそんな話をしてしまったかもしれないとも思う。

「お前、それこそ今の俺みたいに"マジだ"ってずっと連呼してたけど」
「そ、そうだ、っけ…」
「あ!俺もそれ聞いたっ」

ヤスヒロの言葉を聞きながら記憶を辿っていたカイもまたそう声を出して、ミキは当然、女子の人気の的であった直希の恋愛に興味を抱く。

「直希がさ、全く女の子と遊ばなくなったってみんな言い出して、それで俺とヤスヒロで聞き出したんだもんな?」
「そうそう。あの頃はまだ俺も合コンとか行ってたからお前を誘ったりもしたのに、お前ぜってー来ないし。事務所で禁止になってんのかと思ったぐらいでさ。もしそうだったらあんまり誘っても可哀相だしって思って訊いてみたら、お前、"好きな人いるから行きたくない"って」
「あれビビったよな?付き合ってる人いる、じゃなくて、好きな人がいる、ってさ。付き合ってるわけじゃないなら別にいいじゃんて思うのに」

『ごめん俺、そういうの、マジでもう全然興味ないんだ』

あの日の直希は、そう言ってはっきり断ってきたという。
確かにそう言われてみればそんなことを言ったような気がして、直希も「そうだったかもね」と頷いた。

「で、その人とはどうなったの?」

ミキが、身を乗り出して訊いてくる。
ヤスヒロとカイも興味津々だ。

「え?あ、ああ、あの……」

彼らの場合、"上手くいった"と答えた日には根掘り葉掘り訊いてくるはず。そしてその場合、相手が大河だとバレないように話す自信が自分には全くない。
直希としては、大河が相手なのだと言いふらしたいぐらいだが、個人の判断でそんなことできるはずもなく。

「えっと…ま、まあ、今でも好き、だよ…」

それだけは真実なので、そう答えた。
しかし、

「だから、片想いか両想いか訊いてんだよ」

カイは容赦ない。もちろん、ミキもヤスヒロも然りだ。

「それは……」

3人の気迫に押された直希が、答えを言い淀んでいると……

「いらしゃいませ~~……あ、どうもどうも」

誰かまた新しい客が来たようで駆け寄った店員が、そんな風に挨拶をする声が何となく聞こえて。

「お久しぶりです」

その声が、自棄に直希の耳に響いた。
それは、とても聞き覚えのある声。

「カウンター席しかないんですけど…」
「ああ、今日は一人やから寧ろカウンターがいいんです。めっちゃ混んでますねぇ?」

そして、とても聞き覚えのある喋り方。
だから思わず暖簾から顔を出した瞬間―――

「あっ!」

直希は思わずその人を指差した。
直希の声で体を移動させて暖簾から顔を出した3人もまた、「あ」と口々に声を出して。
するとその相手も、直希に視線を向け、

「あ」

直希よりは小さな声で、しかし同じように指を差してくる。
そこに居たのは大河だった。
そう、大河もまた、一人で飲むときには頻繁に利用するこの店に向かっていたのだ。

「な~んやぁ、お前、ここに来てたんかぁ?」

自分たちらしい偶然に思わず笑ってしまいながら、大河が個室に近づいてきた。4人を個室内に戻らせ、自分も暖簾を軽く潜る。そして律儀な彼らしく、まずは3人に軽くお辞儀をしてから直希を見て、

「お前が店の予約したんか?」

首を傾げながらにこやかに話してくる。
そんな大河は珍しくシックなおしゃれをしていて、グラデーションカラーのサマーニットに黒のスリムパンツがよく似合う。財布とスマホぐらいしか持っていないのかバッグも持たず、ポケットに手を入れた立ち姿が随分と絵になっていて。

「いや、ヤスヒロ…あ、コイツね?コイツが予約したんだけど、偶然、この店で。俺も来てから気付いたっていうか…」
「へえ、そうなんや。ここ美味いよね?」

大河がヤスヒロに顔を向け、また屈託のない笑顔で話しかけた。
するとヤスヒロは、意外と初対面になる大河の、突然の距離感に慌てながらも、

「あ、そっすね。あんまり来たことは無いんですけど…美味かった記憶があって」

そう答えれば、

「な~?」

すでに友達のような親近感で大河は無邪気に笑った。
そのおかげで友人たちはすっかり大河に親しみを覚えたのか、若干会話が盛り上がっている。

しかし大河は、会話をしながらも気付いていた。
自分と直希との"違い"に。

完全プライベートモードの直希は、久しぶりの仲間と会うとあってかオシャレをしており、服装から何から全て"チャラい"。ラフな格好をしているときは互いに似たようなファッションになることも多いが、今日はそれぞれがオシャレモードだったために完全に別世界状態で。このテーブルには女の子も居り、もちろんそれは直希本人からも聞いていたしその子は友人の彼女とも聞いていたが、ずいぶんと"華やか"なそのテーブルに、自分とは違うノリを感じたのだ。
そもそも、ここにいる彼の友人たちは、大河も話には何度か聞いたことはあるが、実際には面識のなかった人物ばかり。そんな彼らと空間を共にする直希は、自分と出逢う前の彼に戻ってしまっているかのような、自分の知らない直希が存在しているような感覚を大河に与えている。
でもこのままだと"一緒に飲みませんか?"とでも言われそうな気がしてきて、

「じゃあ、俺は…」

軽く手を挙げて、大河はさりげなくその場を去った。
彼らと飲みたくないというわけではないが、頭が疲れている今日は、あまり気を遣いたくないのが事実だ。顔見知りと飲むのとは訳が違う。

そんな大河の頭の中は露知らず、直希は、またもや暖簾から顔をチョコンと出した3人に便乗して自分も顔を出すと、ぼんやりとその後ろ姿を見送っていた。
普段の大河はラフでヤンチャそうな服が多く、スーツを着ると似合ってはいるものの"チンピラ"呼ばわりされてしまうのだが、今日のような着こなしは落ち着きや爽やかさを感じさせる。
そしてそんな今日の大河の着こなしは、直希にとってはお気に入りのひとつでもある。もちろんいつものラフな格好も似合っているが、彼が気まぐれで時折するこのファッションは、大河の顔立ちや肌の白さや華奢な体系を生かしていて。普段より一層、清潔感を増している。

「あの人、細いけどやっぱスタイルいいよな。顔小せぇし」
「実物の方がいい男だよな。プライベートも気さくなんだね」
「ていうかさ、超いい匂いした。何の香水かなぁ」

ヤスヒロ、カイ、ミキも、口々にそう呟いた。
仕事の疲れなのかけだるそうに首筋を回しながらも大河は、顔なじみの店員にいちいち笑顔を見せながら歩いているのだが、その度に周囲の視線を浴びている。サングラスも帽子もなく無防備に歩いているから完全に気付かれているだろうことは、彼を見てコソコソ喋っている客の反応を見ればわかることだ。

―――今日は早めに帰ろうかな

今日のモードの大河は貴重だし、せっかくだから一緒に帰ろうかとすら考えて、直希はまたスマホを出そうとしたが、

「なんか、直希と一緒に居るときと雰囲気違うよな」

不意に、カイが呟いた言葉に、

「え?」

直希はまたもや、手を止めた。

「俺と居るときと?」

どういう意味だろうと問い返せば、カイが"ん~"と言葉を探しながら答える。

「直希とっていうか、衣装着てたりラフな格好の写真とかだと感じないけど、実際は全然タイプ違うんだな。俺らとは接点なさそうな感じ?」

そう言われて直希は初めて、大河の今日の姿と自分の今日のファッションを比較し、そして気付いた。
カイが言うとおり、確かに今日の自分たちは対照的だ。
普通に生活していれば、恐らく違う友人グループに属しているだろうというほどに。

「だいたいさ、あの服装で一人で居酒屋のカウンターで飲むとか、超かっこいいよな」

俺らじゃ無理だよな~とカイがしみじみ言えば、他の2人も頷いている。

「そもそもあの人って一人で飲んだりするんだ?いつも大勢でわーわー騒いでるタイプかと思ってたけど」
「それじゃただのバカだろ。大河は人一倍いろいろ考えてる人間なんだよ」

ヤスヒロの言葉に、直希は笑いながら何となくそう答えたものの。
彼らの発言に改めて気付かされた"違い"が、自棄に気になって。
奥のカウンター席に消えていった大河が、何となく自分には、知らない人間に見えた。

普段の明るくて無邪気なガキ大将というよりは、もの静かで大人の男に見える今日の大河は、いつも一人で飲むときはきっとあんな雰囲気なのだろうと分かるが。
それは言い換えれば、彼が一人のときにしか見せない顔。カウンターのスタッフと常連客しか知りえない顔なのだろう。自分が決して、見ることのできない顔だ。実際、この6年、見たことがない。
自分たちのいる個室からは死角になっているカウンターで、大河が今、どんな顔をしているのか……

やっぱり今日は早く帰りたいし帰らせたい―――直希は、改めてそんなことを思った。

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