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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-2:美しい棘

PERFECT BLUE 02-03

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―――もしかしてコイツらが……DOQ?

確信めいた疑問が、諏訪の中で駆け巡る。
諏訪に目を向けた彼に、笑顔はない。自分を品定めしてるような視線を感じないでもない。
だが、町田や串崎の言うように、他の先生がそれほど嫌う理由もなさそうだ、とも諏訪は思った。
そもそも、石原が振り向いた時に彼に対してニコッと微笑んだその姿。それほど悪には思えない。どちらかといえば、むしろ優しい笑顔だと思う。
そんなことを諏訪が考えていると、その生徒が口を開いた。

「先生。柊は俺の大親友だしイイ奴だから、コイツのことも、いじめちゃダメだよ?」

挑戦的な瞳は相変わらずだし、どこかバカにしてるような口調ではあったが、彼はそう言って笑った。石原も笑っているし、他の生徒たちも変わらぬ空気のまま笑顔を見せている。

―――何だよ、大丈夫そうじゃん、DOQ

諏訪は、そう直感していた。

―――やっぱ、何も知らないウチからビビッてるもんじゃないよな~

町田の言う通りだった、なんて呑気に考えながら石原にも後ろの彼にも笑顔を返してから、次の名前を呼んだ。
諏訪の直感を、根底から覆す人物の名を。

「次。4番、皆藤智司……」

呼んでから、再び嫌なことを思い出した。

皆藤智司。
妹尾学園始まって以来の秀才。全国模試での偏差値は毎回80を優に超えていると聞いている。当然、学園でも不動のトップを維持し続けている。
だが、彼は留年しているのだ。理由は、少年院で半年近くを過ごし、出席日数の不足に加え、2学期と3学期の定期試験を受けていないため。
生徒の個人資料を読んで分かったのは、当時の判決での収容期間は1年だったということ。入院中の生活態度の良さから半年で出たようだが、それは早く出るための"演技"だったのではないかと、そのぐらいの知能犯ではある可能性が高いから要注意だと、そんなことを言っているかのような内容が当時の担任の報告書からは伺える。
そして現在、皆藤はDOQのボス。彼に勝てる人間はいない。
通称"レクター"―――

「………」

諏訪の点呼に対し、答えは返ってこなかった。

「皆藤智司」

負けてはいけないと思い、諏訪は声を少し大きくする。

教室の雰囲気が、一気に変わった。
生徒たちが、ピンと張りつめた糸のように緊張している。
そして、諏訪がおそらくDOQであろうと考えた後方に固まる面々は、他の生徒と違って全く緊張の素振りを見せていない。どうやら、諏訪の考えは当たっているようだ。

その中で、唯一我関せずのように窓を眺めている、1人の生徒。
窓際の一番後ろの席で、椅子にもたれてズボンのポケットに手を突っ込み、ひとり別世界に居るようにしている生徒。彼も、さきほどの会話に入って来ていなかった。机の上には、一冊の文庫本が置いてある。
彼が皆藤だろう―――咄嗟に諏訪はそう確信した。
しかしその人物は、はっきり言って他のDOQ3名の誰よりも不良らしくない。少し長めの髪は明るめの茶色だが、姿勢が悪いとはいえそこまでの長身というわけでもなさそうな体は細身だし、横顔でもわかるほど整っていそうな顔立ちは町田のように女性的とまではいかないが中性的な造り。確かに頭は良さそうだが、不良には見えない。ちょっと体の大きな男に突き飛ばされたら50mぐらい吹っ飛ぶんじゃないだろうかというような、どこか頼りない印象の少年だ。

"え?どの辺りがレクター?"

最初の感想はそれ。
そんな外見のせいで、彼が危険人物だということをすっかり忘れてしまい、諏訪は少し強気に出た。

「皆藤。皆藤智司。返事しろ」

すると、案の定、窓際の最後尾のその生徒が顔を正面に向けた。ギロリと諏訪を睨みつける。

一瞬で、諏訪は硬直した。

皆藤が真正面を向き視線が合うと同時に感じたのは、凍り付くような冷たい空気。
ほっそりとした輪郭の中で存在感を放つアーモンド型の瞳は、獲物を狙うような鋭い輝きを放っており、さっきまで頼りないと感じていた横顔は、正面を向けば妙に大人びた、というよりは現実離れした雰囲気を漂わせている。全く表情を変えないところも、人間味を感じない。
そこから発せられるのは、強い拒絶。体全体が"近付くな"と言っているようだ。
鋭い棘のような瞳が、真っ直ぐに諏訪を捕らえている。

"美しいものには棘がある"というが、その言葉を改めて実感してしまうほどの人物に会うのは、それが男だというのは、諏訪は初めてだった。彼のそこかしこに漂う強烈な色気は、凶器にしか感じられない。
普通の高校生であれば何てことの無い全開の学ランも、第二釦あたりまで襟の開かれたYシャツも、皆藤がしていると妙な色気を漂わせている。

―――何だコイツ…

言葉に詰まってしまい、諏訪はただただ諏訪を見つめてしまう。
すると、皆藤の唇がわずかに開いた。

「……はい」

表情を変えず、手を挙げることもせず、皆藤が小さくそう答える。
その視線は相変わらず、諏訪へと真っすぐ向かっている。
睨むというわけでも、品定めしているような視線でもない、ただ、ジッと見てくるその瞳。強いて言うならば、挑戦的、もしくは拒絶的とでもいうのだろうか。

「…か、皆藤だな。よろしくな。すぐ返事してくれよ?」

慌てて我に返り、諏訪は皆藤に笑顔でそう答えた。しかし皆藤は完全に無視をして、再び窓に顔を向けてしまった。
諏訪も、これ以上皆藤の存在を気に留めないよう、彼から意識を離した。
皆藤智司は特殊だ―――ということが分かっただけで今は十分。実際にどう特殊かどうかは、これから接していく中で知っていくべきことだと。
そして点呼の途中であることを思い出し、名簿に視線を落とす。

「じゃ、じゃあ。次は、5番、木下来人」
「はい」

手を挙げたのは、廊下側の一番後ろ、さきほどの美男子だった。
名前を呼んで確信したのは、やはりこの生徒、DOQのひとりだ。そして留年組のひとりでもある。
だが彼も成績は優秀で、麻生と並んで常に2位か3位をダントツで独占。留年理由は、サボリによる出席日数の不足。1年の半分も来なかったらしい。そして皆藤と同様、定期試験を殆ど受けていないのだ。
入学初年度はかなりの問題児でそこら中でケンカを繰り返しているような生徒だったようだが、二度目の1年生をやることになった昨年あたりから徐々に学校に来るようになったらしく、問題も起こさなくなったらしい。定期試験も全てしっかり受けている。相変わらず、教師への反発はかなりのようだが。

「木下"ライト"か。よし、覚えた。よろしく」

諏訪は出来るだけ緊張を悟られないように、笑顔でそう言った。
なんとなくだが、この生徒は近づけそうな気がした。さっき初めて彼に話し掛けられ、そう感じたのだ。
それに、人から聞いた話だけで怖がったり毛嫌いすることだけはやめようと、昨日決心したばかりなのだ。
諏訪が他の生徒たちに対する返答と同じように返すと、木下は少しだけ驚いたような顔をした。しかしすぐに表情を戻して、ペコッと頭だけでお辞儀をしてくる。こういう仕草、ちょっとヤンキー入ってるな…と諏訪は思ったが、木下のような美男子がやるとそんな仕草すら絵になる。

小さい顔、きりりとした眉に大きな瞳、高い鼻、形の良い唇、さらりと靡く色素の薄そうな髪―――すべてが完璧で、華やかで、眩しい。
十代にして完成型、それが木下のルックスだ。

「何だろう…ムカつかないぐらいカッコいいな」

気付いたら、諏訪はそう口走っていた。
何故DOQの人間にこんな話し方をしているのかと不思議に思っている自分もいたのだが、思考とは裏腹に本音が口をついて出ていく。少し近くに感じた木下の印象が、素の諏訪を維持させてくれていたのかもしれないと、後になって諏訪は思うのだ。

「何食ったらそうなるんだろうってぐらいの男前だよな」

しみじみとそんなことを呟いてしまえば。
やはり木下は、驚いた表情で形のいい眉をヒョイと上げた。
するとほぼ同時に、

「だよね~、先生」

木下の斜め前の席に座っている石原が、嬉しそうに身を乗り出した。

「来人は、ウチの高校が誇る王子様なんだ。このあたりのガッコーの女子たちの憧れの的なんだよ。
もうね、来人を見た瞬間、みんな"ライト王子~vv"って感じで目がハートになんの。"名前まで素敵v"って」

まるで自分のことのように石原は自慢しながら、笑顔で木下を振り返る。
すると木下も彼に対して「よく言うよ」と言いながら笑った。

―――何だ?

諏訪は、心の中で首をかしげた。DOQというのは、生徒に恐れられているのではないのか?と。
実際、他のクラスメートは少し遠慮がちに笑っている感じだ。
だが、この石原という生徒は、DOQの木下にずい分と懐っこい上に平気で話し掛けている。そういえば木下もさっき、石原のことを大親友なのだと言っていたと諏訪は思い出した。
ならば石原のようなタイプの違う人間とどんな経緯で親友になったのかと疑問にも思うが、友人になるのに理由などないのだろうし、それだけ木下という人間が本来は他の高校生と変わらない心を持っている証なのだろうと諏訪は感じた。
現に他の生徒も、皆藤のときよりはぎこちなさは無い。あの、張り詰めた空気は感じられないのだ。どうやら木下はクラスメートとそれほど一線を引いてる感じでもなさそうだ。
そして木下は諏訪にも、

「つうか、先生もだいぶ男前だから嫌味ですよ」

多少小馬鹿にしたような口調と表情ではあるものの、それなりに言葉を返してくれる。

―――うん、彼はコミュニケーションの余地あり、だな

諏訪はそう頭にインプットしてから、

「じゃあ、俺のことも他校の女子が"慎王子"って呼んでくれるようになるかな。バレンタインが楽しみだな」

自分にしてはなかなか良いんじゃないかと思える返しをすると、石原をはじめ生徒たち(皆藤と他2名を除く)が笑い、木下はまた意外そうに眉を上げてからフッと笑ってくれた。

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