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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-3:氷の仮面

PERFECT BLUE 03-02

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だから町田は、仕方なく話の内容を変えた。

「今日は俺遅くなりそうだから、夕飯は自分で作るか買ってくるかしといて」
「ああ、わかった」

やはり、皆藤はすんなりと答えてくる。

「あ、そういえば昨日、功輔から久々連絡来たんだけどさ」
「ん?ああ、功輔さん?」
「あいつさ、もう一週間帰ってないんだって。まだ研修医だっつーのにこき使われてるって嘆いてたよ」
「ああ、あの人もう卒業したのか。外科だっけ?」
「いや、ここから2年間は研修医の扱いだから、いろんな科に行くらしい。アイツはまず産婦人科に回されたらしいけど、これから生まれるっつー大事な命をさ、一週間もまともに寝てない医者に任せたくねぇよな」
「一週間寝てねぇ外科医にメス握られるよりかはマシじゃねえの?」
「あはは、確かに。でも医者って寝不足の代名詞って感じだよな。よくよく考えたら怖くね?一回でも休んだら死ぬのかなぁ」
「マグロかよ」

共通の知人であるその人物をダシにして町田がバカなことを言えば、皆藤もツッコみながら小さく笑う。
こうしていれば、皆藤は口は悪いものの、ごくごく普通の少年だ。
しかしそれは、町田の前でしか見せない顔。他の人間には、いつでも"氷の男・皆藤智司"である。決して、仮面の下の素顔を見せない。
そして町田にさえも、ここ最近の皆藤は楽しそうな笑顔を見せていない。心から楽しそうに、幸せそうに笑う皆藤を、町田すら見ていないのだ。

理由は、分かっている。

皆藤の繊細な心をズタズタに引き裂いた、あの事件。
あれ以来彼は、心の扉にしっかりとカギをかけてしまった。
人を信じるエネルギーも勇気も、捨て去ってしまったのだ―――

「おい、そこに灰皿置いたら俺の目玉焼きに灰が飛ぶだろ~」

さっさと朝食を平らげてケースの上に置いた煙草に再び手を伸ばした皆藤に、町田は顔をしかめた。

「お前がいつまでもダラダラ食ってるからだろ。女かよ」

悪びれる様子もなくそう答え、皆藤は煙草に火を点ける。口達者な町田に張り合えるほど、頭の回転の早い皆藤。町田は口を尖らせながら、目玉焼きの皿を自分の方に寄せた。
新聞を片手にトーストを齧る町田の向かい側で皆藤は煙草をプカプカと吸い、やがてそれが吸い終わると、食器をキッチンのシンクに置いて自室へと向かう。着替えるのだろう。

「お前、今日バイクで行くんだろ?」

新聞から目を離した町田が訊ねる。今日は帰りが別々になるのだから、町田の車には乗って行かないだろうが、念のためにと。
しかし皆藤は少し考えを巡らすと、

「いや、今日は車乗っけてくれ」

あっさりと答えた。
それだけで、町田も理由を理解した。
帰りは、送ってくれる相手が入っているのだろうと。
だから特にそれ以上会話を掘り下げることもなく、

「そっか。じゃあ俺も急がねぇとな」

町田は新聞を畳みながら、それだけを答える。
その類の話については、深くは問わない。2人には日常茶飯事だ。

「早くしろよ。進級2日目で、遅刻するわけにいかないんだから」

町田の車のキーを手にした皆藤が、それをプラプラさせながら、口の端を上げてニヤリと意地の悪い笑みを見せる。

「はいはい」

自分の寝起きの発言をいいように使われて、町田は苦笑いで答えると、今度こそ朝食に専念した。

皆藤智司と町田祥。
2人は妹尾学園の生徒と養護教諭という関係だけでなく、同居人の間柄でもある。
学校に提出している町田の住所は、2人の事情を知る、ある知り合いのマンションだ。
学校外でも付き合いがあることも、どんな経緯でそうなったのかも、2人だけの秘密。
ただの同居人とはいえない、当事者2人だけしか知りえない、そんな秘密の関係。

が、しかし。
約1名、それを知っている厄介な人物がいる。

『彼氏にヨロシクね』

平気でそんなことを言ってのけてくる人物が。
2人が一緒に暮らしていることも、2人に特別な関係があることも。その人物は気付いていて、気付かれていることを2人も分かっている。気付いた上でお互いに、何もない顔をして過ごしている。
彼が周囲に2人の関係を口外したり2人を強請ることもしなければ、彼と皆藤がどんな"放課後"を過ごしているかを町田が詮索することもない。

それを"信頼関係"と呼ぶべきか。
それは本人たちにもわからない、難しい問題だ―――




「ここでいい」

人目の少ない裏路地で、助手席の皆藤が声を発した。
いつもの場所。
町田も、分かっていたように車をすんなり停めた。
町田の車で一緒に登校するときは、皆藤は必ずこの場所で車を降りる。放課後ならば生徒も少ないから駐車場から一緒のことも多いのだが、朝は登校してくる生徒や教師がいるから、駐車場には行けないのだ。

「じゃーな」

言いながら皆藤はドアを開け外に出る。
そのまま閉めようとして、不意に何かを思いついたのか、手を止めた。

「どした?」

何か忘れ物でもしたのかと、町田が運転席から少しだけ助手席側に身を乗り出すと、

「……楽しくねぇよ」

ボソリと、皆藤が呟く。

「え?」

前後脈略のない言葉に町田が首を傾げれば、皆藤がこちらを振り向き、

「新しい担任」

続いたその言葉に、ようやく町田は朝の会話の続きなのだと気が付いた。

「ああ、諏訪のこと?」
「何、もしかしてお前、もう仲良しこよし?」
「だっておもしれーじゃん、アイツ。俺、けっこう好きよ?串崎と仲が良いみたいなんだよ。串崎と仲良しってことは、俺とも仲良しってこと」
「んなこと訊いてねーよ」

そんな話をしたいのではないと、皆藤が小さく舌打ちをする。

「あいにく俺は、先公にそんなもん望んでない」
「そんなもん?」
「おもしろいかどうかなんてどうでもいい。担任も他の教師も同じ。生徒の学力評価だけしてりゃいいんだ。無責任に人の心に入り込む権利なんて無い」
「………」
「他の連中がどう思おうが、祥がどう思おうが、俺はあの担任と1ミリも関わりたくねぇし、信じもしない」
「………」
「俺は誰も信じない」
「……智司」
「行けよ。遅れるぞ」

言い捨てて、皆藤はドアをパタンと閉めた。
運転席の町田に、軽く手を上げる。町田も仕方なく皆藤に手を上げると、車を走らせた。


走り去っていく町田の車を少しだけ見送ってから、皆藤は道路の向かい側の公園に向かって歩いて行った。
まっすぐ向かってしまえば、ずい分と早く学校に着いてしまう。だから皆藤は、いつもこの公園のブランコで煙草を吸って時間を潰すのだ。そしてホームルームギリギリか、少し食い込むぐらいの時間に学校に到着するようにしている。
この公園は割りと広いのだが、住宅街ではないこの道路に加えて朝早いこの時間帯、人は全く居ない。
4つ並んだブランコの一番端っこに座り、煙草を咥え、ライターで火を点ける。煙を吸い込んでから上を向いて目を瞑り、足で少しブランコを揺らしながら、大きく息を吐く。この瞬間、頭が空っぽになる感覚がして気持ちが良い。

空っぽになった皆藤の脳裏にふと、昨日のことが蘇った。

自分が戻るまで教室で待っていた担任教師、諏訪。学校は人間の信頼関係を築き社会に出る準備をする場などと言っていた。そして、皆藤に対しても他の生徒にするように、親身になろうとする素振りを見せる。
あまりにもそれが苛立たしくて、皆藤は諏訪に強引にキスをした。これ以上のことされたくなかったら下手なお節介はやめろと、丁寧にも忠告してやった。
何も知らずに自分の領域に踏み込もうとする人間は、どんな手を使ってでも拒絶する。それが、ここ最近で身につけた、皆藤のやり方だ。
自分の身は自分で守る。そして誰も信じない。これ以上傷つかないための、皆藤なりの術である。

―――ああいう奴が一番嫌いなんだよ…

厄介な奴が担任になってしまったと、いっそのこと去年の担任のように不自然なほどの距離感を作ってくれた方がよっぽどマシだと。
面倒な新学年の始まりに、皆藤は頭をひとつ掻いた。

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