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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-3:氷の仮面

PERFECT BLUE 03-09

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「ん~~」

伸びをしながら、諏訪は外に出た。
今日はこれから職員会議があるから、まだ帰れない。始まるまでの30分、外の空気でも吸おうと思ったのだ。

この高校は、東京でも都心から離れた郊外にあるせいか、敷地がやたらと広い。
校舎はそこまで大きいわけでもないが、校庭が広々としていて最高の解放感だ。メインのグラウンドは競技場かと疑うような広さと設備だし、体育館もちょっとしたアリーナレベル。そして校舎と体育館の狭間には中庭があり、校舎の背後にも広い裏庭がある。
諏訪も、この贅沢なまでの空間を堪能している一人だ。メイングラウンドはその場に立つだけでアスリートになった気分になれるので、気晴らしに串崎と走ったりしている。中庭も日当たりが丁度よく、午後ののんびりした時間を過ごすにはとてもいい感じなので、昼休みや午後に授業が入ってないときはフラリと出てくることがある。自販機もベンチもあるし、最適だ。中庭の真ん中には綺麗な花壇もあって、季節ごとに花を植えている。男子校といえど、ずい分と粋なことをするなぁと、諏訪は初めてここに訪れたときに思ったものだ。
唯一いまいち足が向かないのが、裏庭。裏庭は駐車場と繋がっているのだが、学校の裏が林になっているし建物の影になっているせいか光が遮られていて、暗い感じがする。華やかな中庭や豪快なグランドに比べて、特に何かがあるわけでもない。所詮、裏庭なのである。この季節は桜の木が裏の林から見えて綺麗だったようだが、残念ながら今は桜のシーズンも終わってしまった。
だが、まだ一度も行ったことがないし、せっかくだから行ってみようか。諏訪は、何の気なしにそう思った。職員会議までの30分、のんびりと散歩でもしてみようと、本当にそれだけの気持ちだった。

「あ、諏訪先生、さようなら~~」

他のクラスの生徒たちが声を掛けてくる。諏訪が授業を担当している、2年E組の生徒だ。

「おう。気を付けて帰れよ」

生徒に手を降り、諏訪はどんどん歩いていく。
駐車場を抜けて、裏庭に入った。今日は抜けるような晴天のせいか、裏庭にも少し陽があたっている。

「……ん?」

10mほど離れた先に居る人物に、諏訪は目が留まった。
1人の生徒が、しゃがみ込んでいて、地面の雑草にカメラを向けている。

「………」

近付く前に、すぐ分かった。
少し長めの明るい茶髪に、細身で平均より少し高い部類に入るであろう身長、全開の学ラン。こうして特徴をあげればどこにでも居そうな生徒だが、そこから醸し出す空気で一発で分かった。
間違いない、皆藤だ。

―――え、何で?

あまりにも意外な構図に、諏訪は首を傾げた。皆藤智司とカメラ―――どうも似合わない。彼のイメージからは、真逆のような気もする。
皆藤は、学校でこんな風に写真を撮っていることがよくあるのだろうか。そんなことを考えた諏訪は、今日の昼休みに自分が言った言葉を思い出した。

『ウチのクラスとかでもさ、写真好きなヤツとか、居ないかね』

あの時、諏訪がそう言った言葉に対して、谷原と藤崎が微妙な表情をした。諏訪がどうしたのかと訊いても、言い難そうにしていた。今考えてみれば、あの表情は誰か思い当たるかのような感じだった。

―――こういうことか…

2年F組の、写真好きの生徒。それは、皆藤智司なのだ。
それにしても彼は、先ほどから何を撮っているのだろうか。彼の居る場所には、雑草しかないはずなのに。
近寄ってみよう、諏訪はそう思った。
そして足を一歩踏み出し……

―――?!

立ち止まって、そのまま固まってしまった。

カメラを外してジッと地面を見つめる皆藤の横顔は、見たことのない表情だった。
やがて皆藤が、視線の先のものに手を触れる。すんなりと伸びる指は、遠くから見ても細くて長い、綺麗な指だ。
その指で、まるで宝物を扱うように何かに触れている皆藤。その表情は、諏訪の知る"皆藤智司"ではなかった。

ごくごく普通の、17歳の少年。

そこに居た彼は、まさしくそれだった。
そんな皆藤の姿に、諏訪は動けなかった。

しばらくそうしていたかと思うと、不意に、皆藤が手を止めて立ち上がった。隣に置いてあったバッグを手に取る。帰るようだ。
諏訪は慌てて壁に隠れた。皆藤がこちらを向けば、自分が居たことがバレてしまうため。何故か、見つかってはいけない気がしたのだ。
壁の角から、少し覗いてみる。幸いにも皆藤は、逆方向へと、つまり中庭の方へと歩いて行った。
その後ろ姿は、いつも彼が見せている"皆藤智司"だった。

皆藤が去って少ししてから、諏訪は先ほどまで彼がいた場所へ行ってみた。あそこに、何があったのだろうか。

「……あ」

近寄ってみて分かった。
もっと良く見えるように、しゃがみこんでみる。
見えたのは、1本のタンポポの花だった。

「これか…」

ジッと皆藤が見つめていたものは。

そういえば…と。
ふと諏訪は、この花にまつわる伝説を思い出した。
いつだったか、当時付き合っていた彼女から聞いた話。花が大好きで、いろいろな花言葉やその花にまつわる逸話を知っていた元彼女の話を。
真心の愛、愛の信託、幸福、誠実、実直……多くの花言葉を持つ花としても有名なたんぽぽがもつ、相反する花言葉。

"別離"

そこに隠された、悲しい逸話。
南風とたんぽぽの話―――

むかし、南風が黄色の髪を持つ美しい少女に一目ぼれをする。
南風は毎日少女を見つめ続けていたが、ある日少女は白髪の老婆になってしまった。それは、北風の仕業だった。
少女の哀れな姿に南風は失意のため息をつくと、彼女は遠くへと飛ばされてしまい、跡形もなくなってしまった。
それから季節が変わるごとに黄色い髪の少女たちが現れるようになったが、恋したあの娘はどこにもいない。
孤独に逆戻りした南風は、ため息をつきながら、彼女を想い続ける―――

たんぽぽは、太陽に似せて作られたものとも言われている。
孤独な南風の目の前に現れた、眩い太陽。
しかしそれはあまりにも儚く、出逢う前よりも深い孤独が、南風に残ったのだ。

「孤独……か」

皆藤も、孤独なのだろうか。
皆藤にも、失った光があるのだろうか。
たった一度のため息で失ってしまったような、儚い光が。

タンポポの花に触れながら、諏訪は皆藤のことを考える。
さきほどのあの横顔は、とても優しかった。目の錯覚かもしれないが、しかし確かに、そう感じたのだ。タンポポに触れていたあの手も、細く長い指も、風に靡いていたしなやかな髪も、そこに佇む彼の存在そのものが優しかった。だから諏訪は動けなかったのだ。
この花を見て、何を思ったのだろうか。
力強く美しく咲くタンポポの花を、一体どんな気持ちで、彼は愛でていたのだろう。

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